信長にまつわる 其ノ十八
式三番叟の歌詞から密書は信長の埋蔵金の場所を記したものではなく、
信長の遺体を埋葬した場所であると判明した。
が、その場所は定かではなく更に三番叟の歌詞を読み解く必要があった。
「日吉神社でなかった場合どこになるんでしょう?」
野中が私に尋ねる。
「三番叟の歌詞で気になる所は他にもある。
それは、"月の出潮に青木が原よ"
という部分」
「青木が原?地名でしょうか?」
「そこがどこなのかだが・・
海もないのに出潮は意味が通らない」
私たちは他の歌詞も推理してみたが
それらしいものはなかった。
「一体どこなんだ?
必ず、この三番叟の歌詞の中にヒントはあるはず」
私は少々、焦っていたのかもしれない。
考えれば考えるほど分からなくなる気がしていた。
私たちは、とりあえず日吉神社にもう一度行ってみることにした。
「大きな木ですね」
野中は日吉神社の神木を見上げつぶやいた。
木の大きさからして、おそらく信長の頃からあったものであろう。
さらに野中はつぶやく。
「七氏族は鶴ヶ城の裏手を守るんでしたよね?」
野中のその言葉に私はハッとした。
「そうか!七氏族は本来、鶴ヶ城の裏手側を守る為に
半原に住み着いたわけじゃない!」
「どういうことですか?」
「城の裏側を守る為だけにしては七つもの氏族は
多すぎる気がしていたんだ。
七氏族は信長の遺体を守る為にここに住み着いた」
「あ!なるほど」
「と言う事は・・そうか!」
私は土屋から借りた半原の地図を広げた。
「七氏族の家がここだとすると・・
七つの家が囲む場所!さらに荒深に伝わる歌の中に
弥生空というのがあった」
「弥生空?それが?」
「月入り歌・・昔の呼び方で3月を弥生という。
1月から12月までの中で12月を抜いた内に
月という漢字が入ってないのは3月、つまり弥生だけ」
「確かにそうですよね」
「七氏族の家が囲む場所。そして3月頃、月の光が照らし
日吉神社から臨む場所。
・・・ここだ!」
私は地図上から一カ所の山を指さした。
そこは日吉神社からも近く、七氏族の家々が取り囲む場所だった。
私たちはその場所へと向かった。
そこは草木が生い茂る何も無い場所だった。
だが、何か不思議な感じでもあった。
この場所のどこかに信長公の遺体がある。
そう思っただけで興奮が抑えきれなかった。
が、私は直ぐに冷静になり
その瞬間、肩の力が抜けていく気がした。
それに気付いた野中が話しかける。
「どうしたんですか?国素裸さん」
「・・・いや、なんでも・・」
そう言いかけたが、なぜか私はこれ以上踏み込んではいけない気がした。
それは、恐怖だとか虚しさといったものではく
安らぎすら感じるものだった。
「野中さん。もう、やめよう」
「国素裸さん?」
「人の遺体を・・静かに眠ってるだけの気持ちを
僕らが暴いていいものではない。
それは、後の世を生きるものの務め、守るという事じゃないかな」
「・・でも・・」
そう言いかけて野中はやめた。
「おそらく、ここのどこかに信長の遺体はあるんだろう。
でも、それを隠すために命をかけた光秀、
信長を心底愛した濃姫、そして土岐氏族や七氏族。
いろんな想いの果てに信長はここへ辿り着いたんだ。
これ以上は僕らが踏み込んでいい場所じゃない」
「そうですよね。もうやめましょう。
私、満足しちゃいましたから」
「ありがとう」
「じゃあ、帰りましょうよ。
帰りに美味しいもの食べに連れてってくださいよ」
「そうだな。美味しいもの・・食べて帰ろう」
その後、私たちは依頼者である土岐頼春に全てを話した。
土岐は全てを納得し、全てを受け入れた。
元々、謎を解き明かすのが目的であり
財宝などというものに興味がない様子であった土岐は
笑顔で私たちの報告を聞いていた。
その目には少年のような輝きが戻っていた。
土岐は深々と頭を下げ何度もお礼を繰り返し去っていった。
「国素裸さん。
これで良かったんですよね」
「土岐さんの笑顔、まるで子供のようだった。
それが全てを物語ってたよ」
日本史最大の謎。
織田信長、本能寺の変。
それは日本人の心を掴んで離さない歴史的謎。
日本人は日本人ゆえに、この織田信長という男を愛し
魅了され続けるのであろう。
日本という国のひとつの形を創る事となった男は
今も日本人の心の中に生き続け
私たちは歴史の彼方に、この男の生き様を刻みつけているのだ。
そしてそれが日本の新たな道しるべに変わるのだろう。
信長にまつわる~後編~ 完




