信長にまつわる 其ノ十六
ー半原操り人形浄瑠璃ー
半原文楽とも呼ばれ、
岐阜県の重要無形文化財に指定されている伝統である。
三味線や鼓などのお囃子に合わせて
3人一組で1体の人形を操る文楽は
今から約300年前に、この地に伝わったとされている。
「半原文楽には3つの演目がある。それが
式三番叟、 壺坂霊験記、 御所桜堀川夜討だ。
この中で気になるのは、三番叟だ。
三番叟意外の2つは物語調になっていて台詞などもあるのに対し、
三番叟だけが異色なんだ」
「でも三番叟は他の2つと違って伝わったのではなく
のちに地元の人が作ったものだって土屋さんは言ってましたよ」
「確かに文楽自体が人形使いによって伝えられたのが300年前。
時期的に合わない。でも、いくら記録が残っていても
こういったものは多少の事で時代がずれることがある。
三番叟も実はもっと前からあっても不思議じゃない」
「じゃあ、国素裸さんは
この三番叟の歌詞の中に何か秘密があると?」
「三番叟の歌詞を見てくれ」
「あ!月という文字があります」
「密書にあった月入、そして歌」
「月が入った歌。三番叟のことかもしれませんね」
この三番叟の歌詞を見つめ、私は謎を紐解こうとしていた。
しかし考えれば考えるほど歌詞の全てに
鍵が隠されているような気がしてくる。
その中で特に意味がありそうなのはこの部分である。
天津日継は 動きなく
大神宝は 無垢坂に
使いよそいて 産土の
大神社に 使い舞い
「大神宝の部分が埋蔵金を指すんですかね?」
野中は首を傾げながら問いかける。
「おそらく。
とすると大神社に埋蔵金はあるってことになるのか・・?」
「無垢坂というのが日吉神社に上がる坂だとしたら
大神社は、やはり日吉神社ってことになりますよ」
野中の言うことは最もだった。
しかし私が気になったのはそこではなかった。
「僕の1番気になるのはここ」
私は歌詞の書かれた紙を指差し、野中はそれを覗き込む。
「天津日継は 動きなく
この部分」
「意味がよく分かりませんね」
「天津日継という言葉は聞いたことある。
確か皇統を引き継ぐ儀式とか・・
皇統とは天皇の血筋みたいな意味だ」
「天皇?なんかますます意味が分かりませんね。
神社とはいえ天皇はあんまり浮かんできません」
確かに神社と天皇は密接な関係にある。
とはいえ、田舎のひとつの神社では深い関係があるとは思えない。
しかも、その後に "動きなく" では意味が分からない。
そこで、ひとつの推理ができる。
「もしかすると僕たちは大きな勘違いをしていたのかもしれない」
「勘違い?ですか?」
「"天津日継"
これは言葉の比喩だとすれば」
「比喩って」
「物事を似たもの、または関係する他の物事で表現することだ。
"天津"は"天つ"の比喩で『天』という意味だ」
「天?天国のことですか?」
「そう捉えてもいいだろう。
天のことだとすると、その後の"日継"は"棺"の比喩、
つまり『遺体』のことだ」
「遺体って、もしかして!?」
「そう、この歌が示しているのは埋蔵金などではなく
信長の遺体そのものだ」
私の推理に野中は驚きを隠せずにいた。
しかし、すぐさま問いかける。
「という事は、
あの密書は光秀が信長の埋蔵金の場所を教えたものではなく
信長の遺体の場所を教えたもの・・ってことですか?」
「おそらく、密書の傷みが激しかった為に
埋葬を埋蔵と訳し間違えたんだ」
「つまり
信長の埋蔵金の場所を示したものではなく
信長を埋葬した場所を示したもの・・」
「そう考えれば、棺が"動きなく"というのも意味が通る」
「なるほど、光秀は信長亡き後、遺体を濃姫より預かった。
それは信長が本能寺の変以降も生きていたことを
完全に隠すために必要だった。
その後、信長の遺体の埋葬場所を濃姫に密書で送った」
「そういう事だろう」
「これで密書の文字もすべて繫がりました!
信長の遺体は日吉神社にあるんですね!?」
野中の興奮したような問いかけに私は応えることが出来なかった。
それは信長の遺体が日吉神社にある気がしていなかったからである。
密書、そして三番叟の歌詞からして私たちが追い求めていたのは
埋蔵金ではなく信長自身の遺体であることは間違いないだろう。
が、その埋葬場所は・・・




