信長にまつわる 其ノ十
本能寺の変の謎を解いた私と野中は、
今度は岐阜に宿を取るためにホテルに来ていた。
信長が名付けたとされる岐阜。
そして特別な思い入れもあったであろうこの地で
私は歴史の重みを感じていた。
「国素裸さん。
なんか疲れましたね」
ホテルのロビーで不意に話しかける野中。
確かに、ここ数日
いくつもの資料館や博物館を廻り
少々、疲れも感じ始めていた。
しかし私も野中も歴史に関してはかなり興味がある方で
疲れより好奇心の方が色濃く表れているようだった。
「野中さん。ひとつ言っとくけど今回の依頼は
本能寺の変の謎を解くことじゃない。
信長の埋蔵金の謎を解くことなんだ。
まだ途中だってことを忘れないでね」
「分かってますよ。て言うか
国素裸さんが寄り道した感じじゃないですか?」
「そんなことはない。
これも信長の埋蔵金の秘密を解くヒントになるはずだ」
とは言うものの、本能寺の変の謎を解きたいというのは
実は昔からあったのだ。
少々、脱線したことは否めないが
決して無駄にはならないはずである。
私たちは、とりあえず部屋をとり
それぞれ休むことにした。
私はこれまでの経緯を土岐頼春に電話報告をし
その日は早めに就寝した。
翌日、ホテルのロビーで野中と待ち合わせ
今後の行動を話し合う予定にしていた。
ロビーのソファーに座り本日の新聞に目を通す。
時より開く自動ドアの向こうより微かに聞こえる鳥のさえずり。
静かな朝に少し期待に胸を躍らせ
今日もいい天気だ。
数分待った頃に野中がやってきた。
「おまたせ」と言いながら私の向かいのソファーに腰をおろす。
「それで、これからどうするんですか?」
と尋ねる野中に私は土岐頼春より貰った密書のコピーを広げる。
「密書の文字をもう一度よく見てみよう」
密書の文字は相変わらず単語が並んでいるだけ。
『明智、五、日吉、七、鶴、月入、歌、埋蔵』これらの文字が解読されている。
これをつなぎ合わせて意味にするのは難しそうだ。
コピーを覗き込み野中が言う。
「これだけじゃ埋蔵金のありかは分かりませんね」
「やはり明智光秀を調べるべきだな」
「光秀を?ですか?」
「昨日、明らかになった本能寺の変の真実。
その通りだとすると、間違いなく明智光秀が関わっている。
信長埋蔵金の鍵を握っているはずなんだ」
「じゃあ光秀を調べるんですね」
「ああ。まずは犬山城白帝文庫歴史文化館の
前田さんに話を聞きに行こうと思う」
犬山城白帝文庫歴史文化館は愛知県の犬山市にあり、
犬山市は岐阜県の県境に位置する町である。
私たちはホテルを後にすると、車で犬山に向かった。
そして歴史文化館へとやってきた。
「あぁ国素裸さん。先日はどうも」
そう出迎えてくれたのは前田だった。
「今日はどうされたんですか?」
中へと招き入れられ前田に尋ねられた。
「明智光秀についてお聞きしたいと思いまして」
「光秀ですか。まあ、どうぞどうぞ」
椅子に手を差し出し、座るよう促しながら自らも腰をかけた前田。
「それで、光秀のなにがお知りになりたいんです?」
「明智光秀は山崎の戦いでは死んでいなかった、
という説はどう思われますか?」
「確かに光秀は本能寺の変の後には死んでいなかった
と、される説はあります。
特に南光坊天海だとされる説は話題になりましたね」
「私も聞いたことあります」
野中がこたえた。
それにうなずきながら前田はさらに続けた。
「でも正直、私は天海説はどうかなと思っています。
天海と光秀の繋がりを示すものを散りばめ過ぎかなって」
「日光東照宮には明智家の家紋である桔梗がありますしね」
「明智平も天海が名付けただとか」
「まあ、明智光秀が裏で徳川幕府を操ってたなんて
思いたくないだけですけどね。なんか美しくないじゃないですか」
「確かに自分が生きていることを隠し、
別人になったにしては生きてる証拠を残し過ぎですね」
「秀忠、家光のなまえに光秀が入ってるってのも
出来すぎてる気がします」
そう言う野中の言葉に私も妙に納得した。
「光秀を美化し過ぎてるんでしょうね、私は。
願望が多分に入ってます」
前田は少し照れ臭そうに答えた。
さらに続けて前田が口を開く。
「桔梗塚に行ってみてはどうです?」
「桔梗塚?」
「光秀が生きていたという説のひとつで、
岐阜県の山県市にある
明智光秀のお墓とされるものです」
「岐阜にも光秀のお墓があるんですね」
「私はどちらかと言うと天海説より
こっちん支持したいですね」
前田は目を輝かせて語った。
「わかりました。桔梗塚に行ってみます」
私たちは歴史文化館を後にし、岐阜県の山県市に向かった。
新たな真実を求め・・




