信長にまつわる 其ノ九
本能寺の変の真実。
信長は本能寺で死んでいなかった。
イエズス会の驚異に光秀と共謀し
自らを死んだことにするための自作自演だった。
「信長はイエズス会に見限られた為に天下を逃した。
また秀吉はイエズス会の後ろ盾があったからこそ
関白になれた。そう考えるべきだろうな」
「光秀が信長を裏切ったとは考えづらい、
そして信長も光秀に絶大な信頼を寄せていた節がある。
そう考えると本能寺の変は確かに起こりえない。
国素裸さんの推理以外では・・」
「屏風に描かれていた謎の集団。信長の側の六芒星。
それが別の屏風には家康の側に描き変えられていた。
秀吉が屏風を描かせたのなら」
「秀吉が信長とイエズス会の関係を隠そうとした。
そういう事ですよね」
「ちなみに野中さんが持ってきてくれた本に写ってる
長浜城の屏風には、信長の側にも家康の側にも
白装束の男達は描かれていない」
本を取り出しパラパラとページをめくる野中。
屏風絵のページを開き確認をする。
「本当だ。どこにも居ない・・」
「後に描かれたものもあるだろう。
理由はどうあれ、後世に嘘の認識をさせることは可能だ」
「本能寺の変の真相は分かりました。
これなら信長の死体が見つからなかった訳も分かります。
信長は本能寺に居なかった。居たことにしたんですよね」
「そう、どこまでの家臣がそれを知っていたかは分からないけど」
「でも、そうすると分からないことがあります。
私の認識では、いえ
恐らく世間の認識では戦国武将は死よりも名誉を重んじると思うんです。
だからこそ生き恥をさらすより切腹を選ぶんだと・・」
「確かに」
「でもそう考えると信長と光秀が自分の命を守るためだけに
本能寺の変を起こしたとは考えられないんです。
仮に命を狙われていたとしても、自ら死を選んだんじゃ?
二人が生き残るための犠牲としては大きい気がします」
「そうなんだ。確かに本来なら切腹を選んだんだろう。
だから本能寺の変では今まで信長は切腹したとされていた。
だが・・」
「だが?」
「ここからは僕の憶測中の憶測になるんだが、
そこに関わっていたのが濃姫だと思うんだ」
「濃姫が?」
「そう。信長と濃姫は不仲だった、
という説もあるが実際のところ
濃姫に関してはほとんど分かっていない」
「実は不仲どころか、お互い心底
愛しあっていたかもしれないってことですか?」
「これは僕の願望もあるんだけど、
信長は自分の命だけならば惜しくはなかったかもしれない。
でも、濃姫の為だったとしたら」
「愛する者の為に生きる道を選んだ・・」
「そう。そう考えれば納得・・いや、そう信じたくなる」
「だとすると人はいつの時代も愛の為に生きるんですね」
「さらに言えば光秀は濃姫の従兄弟なんだ」
「そうなんですか?知らなかった」
「だから光秀が濃姫の為にも信長を生かそうとした。
そう考えられる」
「本当にそうなら、本能寺の変は愛が生んだ大事件になりますね。
でも、とっても美しい・・」
本能寺の変。
それは我々、現代人が理想の上に勝手に創作した歴史なのかもしれない。
事実として存在したのか?
それは人々の願いが時として偽りを
生み出しているのかもしれない。
と、するならば
愛のために生きようとした戦国の男達がいたという
史実もまた、本当である可能性はある。
これだけは言える。
信長も人であり、そして親であり
必ず誰かを愛し愛されていたというのは
歴史が語らずとも、真実なのである。
信長にまつわる~前編~ 完