5 ちぐはぐな対話
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裸子植物で覆われた島 2日目自機標準時2246 海抜15m
北緯30度 東経60度
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私は生い茂る奇妙な植生の森を元の方角へ向けて戻っていく。しかしその額には脂汗が浮いていた。
先の子供救出で痛めた足が思ったよりもダメージが大きく時間を経るに連れて無視できないものとなっていたのだ。
Caesarによるバイタルレポートでは骨に異状は無いとの結果だったが……
急激な炎症によるショック状態で一時脚部モジュールを脱着して治療する必要があると告げられた。
だが治療は後回しにして子供への尋問を行わねばならない。
この足の重さは全く以って気分の良いものではない、尋問を終えれば休息も得られるだろう。
それから数分してパワーアシストで負荷を減らしつつも足をぎこちなく進めて子供を隠した場所に戻ってきた。覆われていた落ち葉を除けるとまだそこに子供はいた。
観察すると体中泥だらけでところどころ乾いてきているが人相もよくわからない状態だ。再び襲撃があれば無事に済む保証はない、危険を早急に察知して逃走することが優先だ。そのためにまず意識の無い内に運びだして移動し安全な場所を確保する必要がある。
辺りを各種センサーでスキャンして水場が無いか調べた。残念ながら近くに川はないようだ。この底なし沼も雨水が穴に溜まったところに流入した泥なのだろう。
私は子供を抱え上げてもう少し開けているであろう生い茂る森の外へ向けて移動することに決めた。森を抜けはじめ枝葉もまばらになると、遮られた日光が私を照らしつけてきた。ぎらつく太陽を見遣るとそれは丁度中天にある。
わたしはここで標準時刻調整を行うことをCaesarに告げる。
「Caesar、自機標準時の更新だ、ただ今自機標準時2258を以って新たに現地標準時1200としてくれ」
「了解しましたアイン、ただ今現地標準時1200となりました。原隊との通信が確立された時点で旧自機標準時に再設定されます」
「わかった、以降本機の戦闘記録は現地標準時で記録するように」
特に急ぐことでもなかったが時刻調整の電波による調波も感知できないための措置だ。そうしている内に目的地がHMD越しに見えてきた。適度な柔らかさを持った地面の上に辿り着く、私はそこに子供をゆっくりと下ろして横たえた。
「そうだ、特に気にしていなかったがCaesar、この島の気温は?」
「現地標準時1203現在、摂氏27度です」
私の質問にCaesarはすぐに応えた。
TASに搭乗していると防御システムの効果で外部からの感覚は殆ど感じないか完全に遮断されている。
もちろん状況に応じて効果調整がなされるのだが抑制効果が低い時に強烈な外部干渉を受ければ搭乗者にも影響を与える。
数時間前の翼竜に受けた不意打ちが良い例だ。
常に抑制状態にしておく事も可能ではあるが長時間感覚を断つと精神に異状をきたすとの研究結果がある。
そんなことでトラウマを得るのは勘弁願いたいものだ。
今後の展望を考えながら子供の様子をうかがっているがどうにも目覚める気配がない。
子供は身長131cm 体重32kgでかなりやせ型だ、衣服を纏っており泥だらけであることを差し引いても非常に粗末なものだ。
髪の色は泥だらけで判別しにくいが茶色、日焼けした肌はこれまた判別しにくいが浅黒くみえる。
性別は現時点では不明だが体型から察するに男子だろう、さすがに服を脱がせるのは躊躇われた。
私は意を決して少年に手をかけ、揺さぶってみることにした。
パワーアクチュエイターを全開……にするのは止める。少年の首が折れてしまう。1Gセッティングでアシストなしだ。Caesarが私が入力しようとした設定値に気付いて窘めてくる。
「アイン?非常に問題のある設定値を入力しようとしませんでしたか?」
「冗談だ。この状況で気絶したままというのも問題があるだろう、早く目覚めさせて尋問しないとな」
私は誤魔化しながら少年の両肩に手を置いて揺さぶってみた、何回か揺すると少年の瞼が動きを見せた。
私は少年の眼に直射日光が当たらないように遮って、音声出力を外部向けにしてできる限り穏やかな声で話しかけようとする。
「大丈夫か、ここは安全だ、私が見えるだろうか?」
そういった私はようやく意識を取り戻した子供の応答に驚かされた。
「Ⅰ^Ⅴ^Ⅰ∵ΒΔΞΨ!」
少年は私の知らない言葉で叫び私の手を振りほどこうとした。どうやら情報収集は難航すること疑いなし、だ。
少年が逃げようともがくのを私は抑え込んだ、これくらいならパワーアシストは必要ないのだが振り解かれて走り去られると今の私の足では追いつけない。逃すわけにはいかなかった。
私は少年の両腕を抑えこみさらに言葉を続けた。
「こちらの言葉がわからないのか?Caesar、外部出力の言語コミュニケートで通訳できるか試してくれ」
「了解しましたアイン、ワタシにも現段階では判別できる言語ではありません。この態勢を維持していただければ可能な限りの多種言語で対象とコミュニケーションを図ります」
Caesarに対応を任せて私は少年を逃すまいと手の力を強める。
少年は痛みを訴えるかのように身を竦ませる。私はTAS頭部カバーを解除、光学シールドを開きHMDを自動収納させ透過シールド越しで少年に私の表情が見えるように努めた。
しばらくして少年は私が人間であることがわかったようだ、抵抗を止める。
「←※¬⇒※◎°℃?」
発音が独特で何を言っているのか全く理解できない。これは地球言語なのか?それとも未開の奥地?いやここは海沿いだ。27世紀の世界に海沿いの未開の地は存在しない。その間にCaesarが複数言語を発声して語りかけている、ひとりの相手からふたり分の声がするので少年は戸惑いながらこちらの声に驚いていた。
私は両手の力を緩め、少年に危害を加える気がないことをゆっくりと示そうとした。こちらは必死である。なんとなくこちらの雰囲気を察したのだろうか、私の手を振りほどこうとする力を弱めると視線を私から外して怯えたような表情をみせた。あたりの気配を伺って怖れを抱いている様子だ。
「ヽヾ』≦+-±■◆◇?」
聞いたことのない言語なのは間違いない、少なくとも環太平洋東亜連合加盟諸島群の言語では無い。そうしているとCaesarからの言語体系総当りが終わったようだ。何か進展があると良いが。
「体系解析開始しました、現在のところ完全一致する言語体系はDBに存在しません」
Caesarに解析出来ない言語が存在するとは……あり得ない。
「残念だがこの言語、私には理解できない、他に……」
私の言葉が終わらない内にCaesarが答えを出した。
「アフリカ大陸中央部で23世紀ごろ発見発掘後、研究された旧石器時代の表音言語に類似したパターンを確認しました。DB上に残存する解析サンプルが非常に少ないため続行するためには更なるサンプル収集が必要です」
もっと会話して言語パターンサンプルを集めなさいということか。運が良かった。どこにいるかわからないが神に感謝したい気持ちになる。
なんとかコミュニケーション可能な展望をみて余裕ができた私は、少年が未だ周囲を警戒しつづける様子に気付いて考え始めた。これは先ほどの恐竜がまたやってこないか警戒しているのだろうか
私は少年の片手を放して空いた手で森の向こうを指さした。身振りで恐竜の巨体の雰囲気を示すと少年はそれに反応して震え始める、続けて恐竜は去った、という意図を込めて何度も身振りを交え、さらに手振りを加えて少年に伝えようとした。
するとそれが伝わったのか、少年の怯えた様子が消えたのだ。
「。≠⊇◯ヮ‰ξεΥΡ?λμοΦΨ●¶ヵヶχ?」
少年は掴まれていた私の手を体格に見合わない力で握り返してきた、私が身振りで伝えようとした恐竜の身振りを真似しそれが何処へいったのか気にしているようだ。
身振りと手振りだけで行う試行錯誤のコミュニケーションがひととおり終わると少年は興奮を抑えられないといった面持ちであった。表情を改めて見直すと私を見つめる瞳の色が翠に輝いていた。子供ながらの好奇心を刺激されているのかどうも恐竜のいる場所に案内しろと私に要求しているようだ。
私は苦笑し、腕を引いて案内しろといわんばかりの少年にことさら足を引きずってみせた。
少年は私の様子に気付いて何事か言い始めて更に手を引いてきた。
どうやらどこかに案内するのでついてこいと云っている様子だった。私は仕方なく痛む足に鞭入れて少年の案内に従う事にした、ようやくコミュニケーションが取れたのだ、他に有用な情報入手が期待できるかもしれない。
……
少年はこの場は安全だと確信したのか躊躇せず森の入口に駆けていく、そんなに早く先に行かれては追いつけない。しかし少年は森の中をを伺う仕草を見せたあと何かを感じたらしく表情を明るくさせてゆっくりと歩く私の所に駆け戻ってくる。どうやら私から逃げるつもりは無いらしい。
戻ってくると少年は私を気遣うような態度を見せる、言葉が通じないとはいえ同じ人間であることに私は安堵を覚えていた。
そうして10分程森の切れ目に沿って歩いて行くと少年が少し奥まったところを指差した。私は視線を移すとそこには木々の隙間に隠れて粗末な小屋と云うべき建造物があった。
念のためHMDを自動装着して周囲の状況をスキャンしていく。温感センサーによる大型生体反応は周囲には存在しない。レーダーセンサーは森の影響であまり役に立たなかった。音響センサーにはいくつかの小型生体反応があったがかなり距離があってお互いに視認出来る位置にはない。
ひとまずは安全であるといえる。私は少年が小屋に入っていくのを見ながら其処へ向かって再び歩き始めた、早い所この足の状態を確認して治療しなければ。
結局私は小屋の中に入ることができなかった。あまりにも小さく少年の身体プラス1平方メートルくらいの広さしかない。TASでここに入ったら小屋がバラバラになる。しかし小屋の前には少し開けて所々に手頃な大きさの岩が落ちているごく小さな空き地があった。
少々薄暗く若干不安ではあったが安全は確認できた。私は遭難後初めてTASの装備を解除することにした。まず最初に股間部重力機を脱装した。重力機は恐ろしいまでの堅牢性を必要とするためTASの複合装甲よりも防御力が高い。当然重量もそれなりにあるわけではあるが史上初の軽量化に成功した最新鋭の装備ゆえに我々の常識以上に軽量化が施されている。次に脚部マニピュレータ、左右独立して装備解除することが可能だ。私はまず痛む右脚側を脱装していく。伝導バイパスと伝達カプラ、胴体部接続の覆いを解除してその後右脚マニピュレーターの複合装甲から足を引き出すようにして脱ぐ、防御スーツに覆われた右足は膝と足首が腫れ上がって膨らんで見える。
思ったよりも状態が良くない。外気に晒して鎮痛剤と消炎剤アンプルで治療せねば。
そこで私はCaesarからのレポートが無いことに気付きHMDに目を向けた。どうやらCaesarは総力を上げて未知の言語を解析翻訳すべくフル稼働しているようだ。恐ろしい勢いで先程までの会話の音声記録を序列化、DBに足りないものを過去の研究データから検索して整合性を修整して穴を埋めていく。
これもまた私にとっては具体的になにをしているのか思考が追いつかない。Caesarには解析に専念してもらい、私は治療を進めることにした。
腕部マニピュレータも脱装していく。残ったのは胴体部分と循環プラント装備の腰部ユニット、バックパック、そして頭部モジュールのみとなった。大きな甲冑から貧弱な腕と脚部だけが生えているような光景だ。ひと通り脱装を終えて私はバックパック格納スペースから応急処置ボックスを取り出して必要な対処薬剤で施療し患部をテーピングで固定した。若干動きが悪くなったがこれまた仕方ない、応急処置で十分、あとは時間が解決してくれるだろう。
ふと気付くと私の3mくらい前に少年が座り込んでいる。治療の様子を興味深く見ているようだった。どう対応してよいか困ったが言葉が通じないので放っておくことにする。すると少年がおもむろに接近してきた、私は警戒するが少年は武器もなにも持っていない。少年は手を伸ばして私、いやTASの頭部モジュールに触れてきたのだ。
「←※¬⇒◎℃☆■?」
私はHMDを収納して透過シールド越しに表情を少年にみせる。相変わらず何を云っているのか解らないしどんな表情をすればよいのかも思いつかなかった。
お互いに首を傾げて困り果てているとCaesarが突然外部音声モードを使って発声した。
「。¨/≠{〉@⊇◯」「εΥΡλμοΦ」
Caesarが私の理解出来ない言葉を発している、解析に目処がついたのだろうか。すると少年は驚きを隠さず矢継ぎ早にこちらに問いかけてきた。
「ХМΘヶΒΔΞ?」「ΑΑΚχОНН」
そういって少年は私に顔をどんどん近づける。透明な光学バイザーに阻まれるが尚も近づいて顔が貼り付いた。泥まみれの顔が透明なバイザーに貼り付いて汚れるが、Caesarは答えを返せないようだ。少年の顔が鼻先前に迫ったことで私はあることに気付いた。少年はこの薄い空気でまったく活動に支障がないのだろうかと。
私は少年の身体を押し返そうとするがそうするとますます身体を押し付けてきて今度は匂いを嗅ぎ始めた。変な子供だ。第一印象は悪くはなかったが行動や仕草に我々の常識と違うものがある。少年の様子で息切れしたり苦しそうな気配は見えない。私は意を決して外気に身を晒すことにした。その前にCaesarに再度報告を求めてチェックする。
以前の調査に比べほとんど環境は変わっていない、短時間ならば問題ないだろうと予想して私は一時的にTAS装備をすべて脱装することにした。
5分後頭部モジュールを外した私は息苦しさを感じたが防御スーツ姿になっていた。
少年はしきりに何事か話しかけてきていたが、Caesarの解析音声は先ほどの一言だけで他の言葉はまだ構築中であるようだった。
しかし高山病というものは自覚症状が出てからでは治療が間に合わないことが多い。私はそれを知っていたからすぐに傍らに置いたTAS胴体部から延びている外部救援用の酸素圧送バイパスから繋いだチューブを口に咥えていた。
滑稽な姿だが仕方ない。それを見ていた少年は更に興奮したのかやたらに騒ぎ始めていた。
今度は私の手をとり再び森の奥へと指差してどこかに案内しようとしているようだ。しかしこの状態ではTASから離れることが出来ない。私は少年から手を離して取り外し可能な酸素圧送バイパスを防御スーツのアタッチメントパイロンに引っ掛けヘッドアーマーのみを被ってチューブを隙間から差し込んだ。外見的にはヘルメットを被っただけの簡素な状態だ。
これで移動は可能になった。CaesarのAIはヘッドアーマーと胴体部にそれぞれ並列搭載されておりどちらでも機能する設計にされている。ヘッドアーマーのみでも短時間の生命維持が可能だ。
護身用にMB-14をTAS腰部接続部から外して防御スーツの腰にぶら下げる。既に装填されている100連弾倉は海中で2発射撃し残弾98となっていた。そうして再び少年の案内に従って少し頼りない足取りで森の奥へ進んでいくのだった。
……
どういう流れか私は現地の少年とともに洞穴の入り口にいる。ここに辿り着く前に、先刻斃した恐竜の死骸の様子も伺った。恐竜の死骸は小動物たちに食い荒らされていた。私たちが姿を現すと散り散りになって逃走していく。
少年は息絶えている恐竜の姿を見、興奮が頂点に達したのか嬉々としてその死骸に駆け寄った。いつの間にか足首にしばりつけていた刃渡り15cmくらいの黒い刃を振るって小さい身体から想像もつかない膂力で恐竜の解体を行っている。いくつかの肉塊を得てそれを黒い刃を器用に使って掘った穴に埋めていく。掘り返した土を戻して埋めたあとに大きな石を乗せて目印がわりに置いたようだ。私は傍らで周囲の警戒をしながら考えていた。
なぜこんな幼い子供が未開の地でこのような生活を送っているのだろうか?しかし私の疑問に答えてくれるものはいなかった。私の相棒であるCaesarは優秀なAIだ、解析分析には人間を超える成果を上げることができる。だが状況推測においてはサンプルデータが殆ど無い場合に限り、人間の能力を上回ることができない仕様になっていた。それゆえにCaesarに状況を分析させることを諦めたのはこの少年の生活基盤情報があまりにも少なすぎたためであった。少ない情報から判断させるほど状況は緊迫していない。
辿り着いた鍾乳洞となっている中に少年は意も介さず無警戒で進んでいく。いわゆる火山性洞穴だ。内部は不思議とうっすら明るくなっている。おそらくヒカリゴケの類が自生しているのだろう。外に比べ気温も低く、湿度の高さが目立つくらいで悪い環境ではない。
少年は先行して姿がみえなくなる。
150mほど歩いたころ遅れて進む私の耳に水に飛び込むような音が聞こえてきた。陰になっている先に進むとそこにはうっすらと灯りに包まれた鍾乳泉があったのだ。100平方mはあるであろうその広大な泉は幻想的な雰囲気の中にその姿をみせていた。
私は泉のほとりに近づいていくと、少年が泉の中から浮かび上がってくる。少年は私に泉に入るよう促してくるようであったが私は身振りを以って遠慮した。
私は泉のほとりから少し離れて腰を下ろす。少年は気に介せず10分程泳ぎまわると私の近くに上がってきた。身につけていた粗末な貫頭衣に水を滴らせながらそれを一息に脱ぎ捨てる。
…………少年は少女であったようだ。
少女の裸体を隅々まで観察する趣味はない。私は視線を逸し首をあさっての方向へ回すがそんな様子を見た少女は何を考えたのか身体を寄せてくる。
別の意味で危機が訪れた。
防御スーツ越しに感じたのは彼女の体温の冷たさだった。水浴びをしていたから当然として、彼女は私の体温を感じたのか満足そうに身じろぎする。2、3分程ふたりは動かなかった。
私のぬくもりが彼女の冷たい身体に移っていくのを感じる。久しく忘れていたが、私は不思議と癒される心地であった。
……
少女は衣服を拾って絞りあげ水分を切ってすぐにそれを身につけた。少し薄暗かったがこうしてみると泥汚れが沐浴で落ちた彼女の髪は透き通るような白金色で、日焼けしていたと思われる肌も汚れが落ちたのかずいぶんと薄い小麦色に見える。私はなぜか洋風の少女人形のごとき雰囲気を纏っているように感じたのだ。
少女は立ち上がり、何かこちらに一言二言問いかけてきたあと再び身振りで洞穴を出ようと私の手を引いていこうとする。
ところで彼女が水浴びをしている間、私は腰を下ろしたまま周囲の安全を確かめたあと酸素供給を止めてみた。再び息苦しさを感じるが高山トレーニング法に則って腹式呼吸を行う、数分で息苦しさが治まる。ある程度この環境に慣れておかなければいけないという予感が私を突き動かし実行したのだ。
そうして彼女が私から身体を離した時には呼吸も落ち着き意識もはっきりとしていた。5分くらい経って酸素供給を再開させた。高山トレーニングは急激に行うと逆に高山病のリスクを上げてしまう。
その時は気付かなかったがこのような行動をとったのは私の心理に大きな変化があったからだ。ここは自分の常識の通じる世界ではなさそうだと身体で感じ理解した瞬間だったのかもしれない。
現代の電子技術ではいまだ人間の脳全体をエミュレートすることは難しいそうです。研究の動きは活発なようですが……将来に期待しましょう。
肉体は滅びても人格が半永久的に生き続ける社会があったとしたらそれは不老不死の社会なのかもしれません。
しかしコピーされた自己の人格の扱いはどうなるのでしょう?話題は尽きませんね。