16 廃棄物処理論 五
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大陸東部 トーロ・コロ西5km 24日目 自機標準時2335 標高80m
北緯30度 東経60度 高地丘陵帯
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トーロ・コロへ向かう途中、不休で移動および戦闘を繰り返したツケが身体に現れてきた。物凄い疲労感に脂汗が吹き出て身体のちからが奪われていくのが判った。移動速度が目に見えて落ちるとすぐにCaesarが生体状態チェックして報告してきた。
「警告します。血圧および心拍数が異常上昇しています、対処として降圧剤と鎮静剤を処方しますか?場合によっては休息を取り、戦闘薬の投与も考慮して下さい」
Caesarの指示どおり薬剤入り飲料水をゆっくりと飲み込んでから私はさらに移動速度を緩める。
「……ここまで来てバテるとはな……まったく……これでアシスト無しなら今頃行き倒れているだろう……な」
いくら訓練され鍛えられているとはいえ不眠不休で動き続けられるほど私は超人ではない。昨日とあわせて1100km以上の距離を疾走しているのだから当然だろう、油袋は全て渡してしまったとはいえパワーアクチュエイターの補助がついていても数10kgの荷物を持って36kmのマラソンをしているようなものだ。筋肉が悲鳴を上げている上に関節のあちこちも熱を持っている。
私は移動をやめて生い茂る茂みの中に仰向けに寝転がった。TASには空調システムがあり、装備空間内の強制冷却が可能になっている。排熱は滞り無く終わって快適さを取り戻していった。私は吐く息を強くして深呼吸を繰り返し呼吸が落ち着くのを待つ。天上に輝く星空が目の前に飛び込んできた。こうやって空を見る余裕もないくらい過密なスケジュールで戦い続けてきたのだ。
全身の脱力感からの回復のため5分間の休息を取ることに決め、呼吸を落ち着けながら私はかつてのテスト搭乗員であったころのフィールドワーク訓練の事を思い出す。50kg負荷状態で200kmの山中を4日間、水だけを持たされて歩き続けた。あの時は世界のあらゆるものが自分に仇なす敵に見えてしまったことを思い出して私は苦笑した。よし、まだ笑える余裕があるのなら動けるだろう。
私は起き上がり立つ。気だるさは感じるが身体に力が戻っていた。行こう。私は戦意をあらたにして集落の方角を見定め再び駆け始める。
集落の西門外の走竜侵攻団先遣隊が天幕を張っている場所がHMDに捉えられた。Caesarの分析では奴らの熱反応が動く気配は無くまだ事には及んでいないようだった。ひとまず安心ではあるが私は集落内に異常がないか調べるため奴らのいる西門から入ることを避けて海岸線にまわり南側門へ向かう。すでに門は閉じられていたが悠々と飛び越えて集落に入った。
夜は更けており明かりもほとんど見えない。私はスユゥアンの屋敷へ足音を忍ばせ近づき再度跳躍して防壁を飛び越えた。物陰に隠れながら彼女の部屋へ向かう。温感センサーの反応を見ると寝台のある場所に彼女がいるようだ。ミャンの姿が見えないようだが……見つけた。スユゥアンと同じ寝台に2人仲良く丸まって眠っているようだ。
彼女たちが無事ならば良い、これで憂いは無いだろう。私は2人の仲睦まじさに微笑したあとすぐに気持ちを入れ替えた。今より私は汚物どもの消毒清掃執行人となる。
再び防壁を飛び越えてスユゥアンの屋敷の外へ出た私は闇に隠れながら西門へと向かった。奴らが動き始めるまで寝ずの監視を行い動き出したら気付かれぬよう追跡し巨獣をおびき寄せる手段を探るのだ。
……
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大陸東部 トーロ・コロの集落 25日目 自機標準時0144 標高15m
北緯30度 東経60度 西門外の天幕付近
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監視を続けて2時間近くが経とうとしている。見えるのは夜行性の小動物の動きだけだ。
退屈して欠伸を噛み殺して周囲の状態を確認しようとしたとき、奴らが動き始めた。
薄い月明かりの下、4人は天幕から出てきて周囲の様子を探っている。西門の物見にいる戦士からはその場所は物陰にあたるため見えない。私のいる200mほど離れた茂みの奥へも視線をやるが当然見つけられるわけもなかった。そして奴らは顔を寄せ合い、
「ひとり減ってしまったのは面倒ですな」「なに、取り分がひとりぶん増えたと思えば」「ああ、あの乳臭いガキに俺の子を産ませてやるんだ」「では2人任せたぞ、本来なら3人でないと危険だがやむを得まい、必ず複数引き寄せて来い。この集落の戦士たちではまず敵わない奴だ、こちらは我らがなんとかする。よし美しい我らの黒い街のため始めよう」
声をひそめて話しているがTASの音響センサーは余さずこの会話を捉えていた。2体の走竜が肉袋を乗せて集落から離れる。私はそれをHMDの温感センサーの探知範囲から逃さぬよう距離をおいて追跡を始めた。残った奴らの事は気にかかるが今は巨獣の件が優先だ。
……
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大陸東部 トーロ・コロの集落北西20km 25日目 自機標準時0250 標高70m
北緯30度 東経60度 丘陵部の盆地・渓流部
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薄い月明かりが昇りかける中、1時間ほど獣道を進んで一山越えた先に渓流に囲まれた盆地があった。奴らは移動を止めて周囲を警戒しながら松明を持ち獣道から少し森へ逸れた木陰に入っていた。 そして走竜の背に括りつけてある厳重に梱包された大きな包みに手をかけている。
あの包みで何をしようとしているのだろう、私は奴らの後方150mの樹上からそれを監視していた。Caesarに全周スキャンを命じ報告を待つ。
「アイン、この周辺は巨獣の生息地と思われます。周囲に多くの足跡や排泄物が点在し、自然の力ではない折れ方をした立木が多数確認できます。……警告、250m程奥の100平方mほどの広さの窪地に巨獣の反応が4体確認されました」
やはりここが巨獣のすみかなのか、集落からはかなり離れているがどの程度の個体がいるのかここからでは予想がつかない。
一方、奴らの片割れが示し合わせて包みから取り出した何かの塊を短い投槍の先で突き刺したあと力いっぱい盆地の方向へ投擲した。放物線を描いて40mほど先に落下する。その間にもう一方は大きな包みを素早く開き中身を晒す。
宵闇の奥から人ではない息遣いが聞こえてきた。それは規則正しいものから短く大きなものへと変わっていく、それを聞いた奴らは慌てて反対方向へ向きを変え移動を始めた。こちらに向かってくるが松明の乏しい明かりでは樹上の高みにいるTASを見つけることはできない。私の下を奴らが通過したあと、鈍い足音が響いてくる。まもなくHMDに温感スキャン反応から映し出された実像が眼下に現れた。CaesarがDBを検索して該当個体のデータをHMDに表示させた。
昨日の早朝目にしたマジュンガサウルスよりもさらに二回りも大きな竜脚類の個体、ティタノサウルスだ。背中に装甲を持つのが特徴で全長20mほどもある巨体を震わせ奴らの通り過ぎたあとを追うように進んでくる。その迫力には私も息を呑んでしまった。続けてCaesarからの報告が入る。
「観測完了しました、アイン、巨獣の個体は2体、走竜2体を追うように南東へ移動を始めました。両個体の移動速度は15km毎時、1時間20分後には集落周辺へ到達する見込みです」
私は我に返ってこの巨獣をどこで迎え撃つか考え始めた、集落の戦士たちだけでは返り討ちに遭うことは間違いないだろう……考えながら集落への移動を開始する。奴らを追い越して罠を張り、集落へ到達する遥か手前で奴らを巨獣ごと始末しよう。
数分後で奴らが視界に入り見つからないよう距離をとって追い抜いた。引き返す道の途中には丘陵帯の終わりに木々に覆われた狭い獣道がある、そこを奴らの最期の場所にする計画だった。
15分ほどかけて集落へ戻る途中にある丘陵部を下った先にある小さな林の中に続く獣道の所々に跳ね罠を設置した。ここに走竜の足が嵌まれば頑丈につくられた束ね縄で大木の枝先に吊るしあげられ、奴らはしがみつく間もなく振り落とされるはずだ。大木の枝を引き降ろし終えて罠を設置し終えた私は奴らを待ち受けた。
5分ほど待ち走竜2体が奴らを乗せ500mほど北西の丘の向こうから駆けて来るのをHMDに捉え、Caesarがその様子を報告してきた。
「走竜2体が速度20km毎時で接近中です。続いて400m後方から巨獣2体が若干速度を増し17km毎時で追跡しています。アイン、先程設置した罠で巨獣を斃すことは不可能だと推測します」
「いいんだ、無理に巨獣を斃す必要はない。奴らを巨獣の餌にしてやるつもりで跳ね罠を仕掛けたのだからな。それにここは集落からはかなり遠い、これ以上集落へ近付かせたくない狙いもある」
「罠にかかる確率は75%と予想しています。罠に掛からない場合のオプションは問題ありませんか?全兵装は既に準備できています」
Caesarの予測は私の期待とは別にそれほど罠に期待できないということだが狙いは他にもあった。
「再確認しておくがTASの兵装で直接攻撃はしない。私が直接奴らを始末した証拠を残すと集落の戦士たちに疑われる。私と彼らの信頼に傷がつけばミャンの今後の待遇にも影響が及ぶだろうからな。可能な限り事故に偽装して全員始末するしかない」
それに奴らが移動速度を大きく落として襲い来る死の恐怖に狂い逃げる有り様を見物するのも一興だと考えたからだ。
悪趣味かもしれないが見逃せば集落の戦士たち、下手をすれば集落そのものに大被害が及ぶ、罠で始末されるか巨獣によって始末されるかの違いではあるが奴らの行く手に待ち受けるのは地獄だけなのだから。Caesarは私に更に別の選択を提示してきた。
「アイン、昨日の戦闘で行ったのと同様、焼却処分し河川へ投棄する方法を取ればよいのではないでしょうか」
「あれは集落との距離の問題だ、600kmも離れていれば黒焦げの屍と私が関連付けられるものはほとんど無いと考えてもいい、だがこの場所は集落から近すぎる、コマ切れにして始末するには時間も距離も足りない、夜明けまでに集落に戻れなければ戦士たちから私の仕業かと疑われるかもしれないからな」
「了解しましたアイン、では巨獣の処遇はどのように?」
「奴らのとった巨獣をおびき寄せる手段がわかればそれをつかって元の場所に戻してやるさ、わからなければ実力行使だ。巨獣に遠慮する必要はないだろう」
私はそういってMB-14CQCのぶらさがる右腰のアタッチメントに手をかけた、暗闇の中での死闘を予感し一筋の汗が頬を伝った。
数分もしないうちに何も知らない奴らは後方から迫る脅威に気を取られているのか罠を設置した場所へ無警戒に近づいてくる。そこから200mほど背後に2体の巨獣が追いすがろうと進んでくるのが見えた。
罠の設置した一帯に入った2体のうち後ろを駆けていた走竜の1体が罠にかかる。走竜は太い足を束ね縄の輪に捉えられバランスを崩して横倒しになろうとするが走竜の重さに枝が耐え切れず完全に宙吊りになることはなかった。だが効果はあった。乗っていた大きな包みをもつ畜生が叫びをあげて転がり落ち、受け身をとり損ねたのか呼吸を乱して動けなくなる。迫る巨獣の餌になるまであと1分20秒だ。
先行していた一方はそれに気付いて舌打ちをして戻ってくる、こちらは罠にかからなかったようだ。青銅槍を構えて先にくくりつけた松明の明かりを落ちて呻いている同僚の方へ向ける。あと1分だ。
そうしてようやく起き上がった豚野郎は罠にかかった走竜を解放しようとするが、半宙吊りになっている走竜の足にくいこんだ太縄を切断することができなかった。あと40秒ほどだ。奴らの来た方向から足音が響いてくるのが聞こえた。
走竜を解放するのを諦め、大慌てで大きな包みだけを切り離して脇に抱え込むと近くまで来ていた同僚の走竜に駆け寄って相乗りした。あと20秒。闇の向こうから巨獣の息遣いが聞こえそうだ。
2人分の重量を乗せた走竜の速度は極端に鈍った。しかし生命の危機を前にした奴らは冷静さを失っていたのだろう、速度を上げた巨獣に追いつかれることなど考えていなかった。あと5秒。巨獣の頭が明かりに照らされ奴らの頭上に浮かび上がる。奴らは後方の気配に気付いて表情を凍りつかせていた。たまらず走竜に槍腹で鞭を入れようとしたがもう遅い。
時間切れだ。追いついた巨獣たちは荒い鼻息を立てながら容赦なく走竜に体当たりする。たまらず地面に叩きつけられ動けなくなった奴らにもう一方の巨獣の顎が迫り、まず大きな包みをもつ方が犠牲となった。ばりばりと鎧を噛み砕く音と共に断末魔の悲鳴が森にこだました。
「そぼな!どれぐぁあああ!!」
何を云っているのかわからないがそれが最後に発した言葉だったようだ。
すぐに静かになって抱えていた大きな包みが転げ落ちると梱包が解け中身が飛び出し地面に落ちる。暗くてよく確認できないが血の滴る肉塊のようだ。
体当たりした巨獣はすぐに体勢を戻してもう一方の餌の下半身を強靭な脚で踏みつけていた。両足を踏み砕かれた悲鳴と絶叫が交じり合って聴こえてくる。
「足ぶぁ!痛べへェェェ!!動けな、ああぎゃはあああ!!!」
屈んだ巨獣の顎は大きく開かれて動けない餌の上半身に襲いかかる。再び断末魔の悲鳴があがる。もし屠殺場に居合わせたとしたらこのような光景に違いない。
そんな事を考えながら、2体の生き餌が巨獣に噛み砕かれ咀嚼されていく様を見届けた私は素早く少し離れたところへ落ちている大きな肉塊の元へ駆け寄った。巨獣は眼と鼻の先に居るが餌に夢中で装甲のある背を向けており、私の気配には気付いていないようだ。
HMDの視界に巨獣2体を捉えながら慎重に落ちている肉塊を観察する。足元に落ちているそれは血抜きをしていない生肉の塊だった。Caesar曰く物凄い匂いがするそうだがTASを装備している私には感じないし嗅ごうとも思わない。恐らくこの肉塊の発する匂いが巨獣の食欲を掻き立て引き寄せたのだろう。血の匂いと餌で肉食獣をおびき寄せるとは、単純だが有効な方法だ。
地面に落ちている松明の灯りが捕食者たちの巨体を映し出している中、私は肉塊に手を触れる。しかしそれを持ち上げようとして手を止めた。巨獣を誘うその匂いが私にもついて狙われるかもしれない、そう考えたところでCaesarが警告を発してきた。
「アイン、巨獣1体の捕食行動が終了しました。当機が捕捉される確率が50%を越えます。すみやかに次の作戦行動に移行してください」
その警告が発せられるや否や巨獣の1体が襲いかかってきた。足音が響くと同時に血肉にまみれた巨獣の鼻先が迫ってくる、私は後ろに跳躍しようとするが獣道は狭く有効な間合いを作り出せないことに気付いて斜め前に身体を投げ出し前転した。辛うじて巨獣の脇に逃れることができたが、そこに巨獣の尾が間髪入れずに横薙ぎに振るわれてきた。
これは無理だ、躱せない。私の心臓は縮みあがり、衝撃に備え全身の筋肉を硬直させようとした瞬間、重力が消失した。
巨獣の暴力的な質量をもつ尾があたる直前にCaesarの自動補助で最大出力のエアブーストが発動したのだ。地面に強力な圧縮空気の束が吹き付けられTASの機体が4mほど浮き上がる。砂埃が巻き上がり僅かな松明の灯りも消え、振るわれた巨獣の尾は空を切って巨大な影は空振りの反動で体勢を崩した。
Caesarは滞空するTASの体勢を数瞬のうちにエアブーストで整えTASを森の外へと滑空させながら素早く私に助言してくる。
「アイン、大変勝手ながら自動回避行動を実行しました。作戦目標を巨獣2体に設定変更し制圧します、迎撃準備はよろしいでしょうか」
「危なかったCaesar、助かった。TASの防御力なら問題ないと考えたのが良くなかった、すまない」
「お安いご用ですアイン。当機の戦闘速度は目標のそれを遥かに凌駕します。防御行動は受けることではなく躱すことを心掛けて頂ければ最小の被害で回避することが可能です」
「ああ、これからそうする、おのれの過信が禁物だとよくわかったよ。よし、あの場所に着地しよう」
薄い月明かりに照らしだされた小高くなっている高さ1.5mほどの茂みを見つけた私は着地態勢をとった。Caesarはそれに応えてHMDに着地地点の情報を表示させてきた。
「了解しました。エアブースト減速制御、パワーアクチュエイター着地準備開始、着地5秒前……」
数秒後、放物線の軌跡を取りながら森の外へ滑り込みながら着地した私は振り返って砂埃立つ空間の先にある森の方角を見る。巨獣が2体こちらに向かってくることをHMD越しに確認した。距離は300mほどだ。私がいる場所まで20秒もかからないだろう。
MB-14CQCを抜き放ち安全装置を解除する、20m近い巨体にプラズマ剣が通じるかわからないが……すぐにその迷いは消えた。通じねばすぐに離脱して距離をとりレールランチャで消し飛ばせばよい。未知の脅威に対しての生死を賭けた一戦に戦力の出し惜しみなどしていられない。そう考えた私は迫る巨体を睨みつけながらCaesarに指示した。
「Caesar、方針転換だ。全兵装準備、レールランチャ起動、HE装填。リニアキャノン、スタングレネード装填。パワーアクチュエイター各部チェック後、高速機動開始」
戦闘行動に移行したため、音声返答のかわりにHMDに映る視界の隅に装填完了と準備完了の表示が現れた。そして視線を移すと巨獣が50m手前まで迫っていた。
先程は油断したが今度は違う、私は不敵に笑ってMB-14CQCを正中線に構えプラズマ剣を起動する。光の渦と共に光刃が現れ切っ先の向こうにせまる巨獣を捉えた。ここをお前たちの墓場にしてやろう。
最初の3分で戦いの帰趨は決した。
数回の巨獣との対決で私は巨獣の攻撃手段は鋭い牙と強靭な脚による蹴りと尾部の振り込み、そして体当たりだけということを学んでいた。野生の素早さと巨大さゆえにたった一撃ですらこちらにとっては脅威だが、巨獣に歴戦の智慧があるわけでもなく恐れることはなかった。
巨獣たちはTASの高速機動に反応しきれずに翻弄されていた。匂いと音だけを感じているのだろうか、私が着地して通過したあとにやっと攻撃行動が届くありさまだった。
私は2体の巨獣にプラズマ剣を容赦なく振るって一方的な殺戮を行う。TASの機体が宙を舞う度にプラズマ剣が巨獣の装甲をものともせず切り裂いていく。一撃、二撃と光刃が闇に軌跡を残すたびに返り血が次々と飛び散って地面を叩き、2体の巨獣の咆哮がTASの防御システム越しに私の耳に響いてくる。致命傷を喰らったティタノサウルスの動きは鈍くなり、やがて2体とも暗闇の中に崩れ落ちた。
傍から見ればあっさりと片付いた戦闘ではあったが私にとっては緊張の連続だった。数分の戦闘で乱れた呼吸を整えつつ巨獣たちに止めを刺す。戦いは終わった。
20m近い巨体は私一人で動かすには難しい、夜が明けてからソータ・タッタに依頼して人を出して貰うことにしよう。
時間は0330、夜明けまであと2時間程度だろう。
休んでいる時間は無い、残る先遣隊の畜生2体も早めに始末しなければ。そう考えた私は集落のある方角へ向けて移動を開始した。