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悠久の一  作者: さむちゃん
第二章 決意する異邦戦士
16/18

14 廃棄物処理論 三

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 大陸東部 トーロ・コロの集落 24日目 自機標準時0612 標高30m

 北緯30度 東経60度 集落内

―――――――――――――――――――――――――――――――――――


 陽は完全に水平線から姿をあらわし潮風が強めに吹く中、物見が居ない西門を通ってトーロ・コロに入ると集落は朝から慌ただしかった。

 集会場やあちこちの家々で女たちや若い戦士見習いの者どもが忙しなく駆けていく。

 先の巨獣が出たということが判っているであろうから一連の対応なのだろう。まだ戦士たちが戻ってきていないため朗報は入ってきていない。

 それを尻目に私はスユゥアンの屋敷へ向かった、彼女に言伝を頼まないとならないからだ。

 彼女の屋敷の方角に向かうものが他にも幾人かいた、彼らは空の革袋を担いでいる。おそらくスユゥアンが朝早くから品物を手配して私が伝えた数を揃えようとしているのだろう。

 

 屋敷の門番へ挨拶しつつ敷地に入ると屋敷の入口前には革袋と大きな油壺がそれぞれ大量に置かれていた。もうこれほどの数を集めているとは……

 入り口の前でそれを目にして足を止めた私の後ろから声がかかってきた。


「おはよう、アイン。今朝は姿を見なかったけれど随分訓練長引いたんだね、僕、日が昇る前から海岸まで見に行って今帰ってきたところだけれどもいなかったよね、一体どこにいたのかな?」


 他の商いびとたちが入り口から少し入った所へ続々と荷物を降ろしていく中、振り返るとスユゥアンがいた。集落の皆の前ではいつも男装で通す彼女は笑顔で私に近づいてきた。

 彼女は私が不在だったことに疑いを持っているわけではなさそうだったのだが今後のこともある、安全に関わる事はある程度話しておく必要があった。


「やあ、スユゥアン。今日はいい天気だ。少し遠出したんだ、それで出会わなかったんだろう。ところでまだこんな時間なのに革袋が沢山集まっているとは驚いた、これならもう数が揃っているのではないか?」


「そうそう、そうなんだよ、皆がんばってくれたんだ、夜が明けないうちから水汲みの女衆たちに先に声をかけてね、ああミャンも一緒に南へ水汲みに出たよ。彼女たちは偉大な戦士アインが守ってくれると知っているから進んで協力してくれたんだ」


 そう言って纏めた髪に手櫛をいれながらスユゥアンも随分と鼻高々なのか決め顔で私に向かってウィンクしてくる。ありがたい話だ。再び西へ発つ時間が差し迫っているため急いで彼女にいくつか頼み事をした。

 

「わかったよ、ずいぶん変わった注文だね、小斧と硬さの違う木材を3種類、撚った皮糸に毟った羽根の塊と灰黒石か、一体これで何を?」


「凛々しくて可愛い娘に私から贈り物さ、と言いたいところだが実は違う、以前云っていた弓と矢というのを作ってそれの使い方をお前に教える」


 彼女は喜びから落胆へ目まぐるしく表情を移しつつ今度は好奇心を刺激されたようだ。


「期待させておいてひどいよ……でも、そうなんだ、それは興味があるよ。どちらにしてもアイン父様から贈り物が貰えるだけでも満足さ、あとでミャンに自慢してやろうかな……」


 意地の悪い笑みを浮かべて彼女が聞こえがしに呟くと私は慌てた。


「それだけはやめてくれ……あの子がそれを聞いて我慢できるわけがない、きっととんでも無いものを要求されるだろうから内緒にしてくれよ」


「内緒、ねぇ……あの娘(ミャン)は聡いからすぐに気づくよきっと。だから先にあの娘のぶんもつくっておいたほうがいい気もするよ、ね?」


「わかった仕方ない、このあと石匠のところへ寄るからそこで何か考える。それでいいだろう?」


 私は彼女の強引な説得に降参してミャンの為に贈るものを考えることにする。


「うんうん、それがいいよ。そろそろミャンも水汲みから戻ってくる頃だ、どうするの?今は彼女には話さなくてもいいかな」


「今は急ぐからな、そうだ、あの娘には取引に出掛けたと伝えてくれ、戻るのは日が沈んだあとになると添えてな、その間あの子のことを頼むよ」


「任せておいて、可愛い娘と遊ぶのは大好きさ……おっと誤解しないで、昨日みたいなことはもうしないから……商いの手伝いをしてもらうつもりだよ」


 スユゥアンは肩をすくめて苦笑しバツの悪い表情を浮かべる。


「はは……信用してるから気にするんじゃない、では任せたぞ。それと朝から騒がしかったが巨獣が出たらしいな、海岸側からは窺い知れなかったが」


 私が尋ねると男装の彼女は西の方角をみるようにして、


「そうだね、遠見の戦士が日の出と共に集落中に叫んでいたから僕も気付いたよ、でも戦士たちや走竜兵士たちが揃って出て行ったからきっと大丈夫」


「そうだな、では行くよ。獣油を全部革袋に分けて詰めておいてくれないか、石匠のところへ寄ったあと取りに来る」


「承ったよ、いってらっしゃいアイン父様、無理はしないで無事に帰ってきて、僕はミャンとここで待っているから」


 私は屋敷をあとにして石匠の工房へ向かった。そこで応対してくれた石匠の弟子にいくつかの注文を伝え終えると再びスユゥアンの屋敷に戻る。

 その頃には全ての革袋に油が入れられて壁に吊るされていた。彼女はそこにはいなかったが門番の戦士が声をかけてきた。


「これは戦士アイン、スユゥアン様は戦士ミャンと共に北の集落へ向かわれました、日の中天(おひる)までに戻るとの事です。それと伝言で革袋は全部用意できたから持って行ってかまわないと」


 こんなに重くて大丈夫でしょうか?と気遣ってくる門番の戦士に私は、


「大丈夫だ、問題ない。ではここの守りは任せた」


 革袋を集めて全部の縛り紐を握って軽々と持ち上げると彼は驚きおののいた。


「おお…!この重さをものともしないとは…!さすがは偉大な戦士アイン」


 縛り紐を両手に分けて持ち直し長老の一族の屋敷を出、西門へ足を向ける。集会場を過ぎるあたりで集落の北側がにわかに騒がしくなってきていた。

 油袋を両手に引っさげ蓑虫の様相さながら移動する私はそれをHMD越しに観察していた。巨獣を斃した戦士たちが獲物を引いてようやく戻ってきたのだろう。

 彼らに姿を見られないよう私は足を早めて集落の西門をくぐる。周囲の目が無くなったら跳躍移動を始めよう。


 予定とは少し違ったが3時間目の授業を待つ生徒たちの元へ急ぎ向かう。遅刻してしまっては楽しい授業が台無しだ。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 大陸東部 トーロ・コロから西へ540km 24日目 自機標準時1025 標高190m

 北緯30度 東経56度 丘陵地帯の狭路

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 途中何事も無く4時間ほど掛けて分断予定地点へ到着した。天候にも問題なく晴れ渡って雲一つ無く、陽がますます高くなってきていた。

 一際高い樹上に登って分断予定地点を一望し周囲の様子をCaesarにスキャンさせる。やがて走竜侵攻団の姿を1km西の丘陵地帯の入り口に捉えた。エク・ヴェリは上手く一団を打ち合わせ通りに誘導してきたようだ。

 先頭集団の全容が視界に入ってきた。20km毎時の速度で進む走竜には大きな荷物が括りつけられていてそれに戦士らしからぬ格好をした男が乗り駆っている、恐らく荷駄兼道先案内人だろう。彼がエク・ヴェリのいっていた奴隷のひとりと考えられた。

 その後ろに同じく大きな荷を抱えた4つ足の走竜が続きそこにはエク・ヴェリが騎乗していた。奴隷にすら走竜を扱わせるとは、これが封建的な伝統をもつ集団であれば奴隷風情などと考え徒歩移動を強いるだろうにヴイラの走竜兵団とは中々に合理的で侮れない。移動速度を統一して足並みを乱さないように配慮している。

 近代的にいうと機械化歩兵運用の概念に近い。いつの時代もスピードは戦闘における大きなアドバンテージになり得るのだ。

 そんな事を考えている内に予定の分断ポイントに先頭集団が侵入していく。先頭集団の中にひときわ派手な鎧に身を包み兜に大きな羽飾りのついたひときわ大きな走竜に乗る戦士がいた。あれがルォ・フと呼ばれている団長なのだろう。見た限りでは十分に威圧的な外見をしている。オツムの中まではよくわからないがエク・ヴェリの策を疑わない程度のものであれば出来の程度はお察しだ。


 先頭集団が乱雑に置かれた障害物を避けながら通過する、続いてやってくる後方集団を捉えた私はいよいよとばかりに3時間目の授業を開始することにした。みしりと音をたてつつ斜面に仕掛けた大きさ5mほどの大岩を後方集団の先頭に向けてひとつ、ふたつ、みっつと転がし落としていく。全部で5つの大岩を準備していた、数秒後残りの2つも時間差をつけて転がし落とす。

 後方集団の先頭が恐ろしい響きをたてて転がり落ちてくる大岩に気付いて足を止めた。先頭集団の最後尾も落石の気配に気付き泡をくって走竜を駆けさせた。一団が分断されてその間に大岩が地響きを立てて狭路を塞ぐ。残念ながら被害は無かったようだがこの罠の本当の狙いは時間差で落とした残りの大岩だ。

 足を止めた後方集団の先頭に2つの大岩が襲いかかる。そうだ、足を止めたのが運の尽きだ。巻き込まれた3体の走竜と3人の戦士(せいと)が哀れな犠牲者となる、血の花を咲かせ原型を留めぬ肉塊と成り果て後方集団は動揺する。


「アイン、作戦計画通り分断に成功しました。エク・ヴェリ少年と道先案内人のひとりを含む戦士たちの先頭集団合計17名と、残りの奴隷人足は3名後方集団に居りこちらも計画通りの人員配置で合計13名、うち戦士3は先ほどの落石策の成功で減じて残り10名です」


 Caesarの報告(レポート)を受けた私は先頭集団へと視線を向けて様子を観察した。彼らは落石をどかそうと無駄な努力を重ねていた。団長のルォ・フも先頭から分断地点まで戻ってきていて落石の大きさを罵っていたがそのうち道先案内人が呼ばれ数度のやりとりの後、こちらにも響く大きな声で道を塞ぐ積み重なった大岩越しに後方集団へ呼びかける。


「聞こえるか!道先案内の奴隷によれば迂回路が北側にあるという、お前たちはそちらへ向かえ!我々は先へ進みあとで野営予定地で合流するんだ!よいな!」


 後方集団にもそれは伝わって、一斉に応!という叫びで返すとルォ・フもそれを聞いて向きを変え、先頭集団に先へ急ぐよう号令をかけた。私はそれを聞いて先頭集団から後方集団へと観測対象を変え移動を始めた、だからこのあとのルォ・フの恐ろしい計画に気付けなかった。


「糞ったれめ!肉穴奴隷女たちを後ろに下げたのは失敗だったな!糞糞糞!仕方ない、集落を見かけたら襲撃して女と食糧を調達するんだ!ああん!?肌の色など関係ないわ!できれば生娘だ!儂の手で女にしてやり種付けしまくってやるわ、ぶわははははは!!」


 それを聞いたエク・ヴェリたちはこの狂行を防ぐためになんとかして私に伝えようと図ったが、既に後方集団の移動に合わせて移動を始めていたため虚しく斜面の上を見つめるだけになってしまっていた。


 ……


―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 大陸東部 トーロ・コロから西へ530km 24日目 自機標準時1035 標高220m

 北緯30度 東経56度 丘陵地帯の狭い盆地

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 前もって準備してあったここが後方部隊の卒業式会場だ。

 地形的には急坂と森がある北斜面と岩肌が風化して断崖になっている南斜面でそこに東西に幅2mほどの底の浅い渓流が流れ、狭い道を造り出していた。

 走竜が素早く移動するのは難しいが足場はそれほど悪くなく注意すればそれほど苦もなく踏破できる石場の通路だ。

 私が南斜面に陣取り仕掛けた落石罠を確認しているうちに突然天候が変わり始めた。暗雲が山岳地帯から垂れ込めて天を覆い始める、一雨来そうな気配だ。

 それから数分もしないうちに大粒の雨が降り始めた。


「アイン、3次元音響センサーがこの地域のみに急速に発達した低気圧を観測しました。加えて新たに現れた巨獣の個体3体が後方集団を捕捉し襲撃をかけているようです、2分後には一団が巨獣に追われてこの渓谷に到達します」


 後方集団に巨獣の襲撃があるとは、予想しなかった事態に私は計画の見直しを迫られた。奴隷たちは無事であろうか……


「Caesar、作戦変更だ。奴隷たちの安否が気になる。パワーアクチュエイター駆動、急ぐぞ」


 そういって私が斜面から飛び降りようとした矢先、突然準備していた大岩の罠の地場が崩れた。雨で地盤がゆるんだのか響きをたてて斜面を転がり落ちると渓谷の道を完全に塞いでしまう。

 これは良くない、巨獣に追われてくる後方集団が袋のねずみ状態になってしまう。戦士たちなどどうでもよいが味方である奴隷たちの生命の危険度が跳ね上がる。

 一向に勢いが衰えず激しさを増す雨の中TASは斜面を駆け降りると狭路の先に我先にと逃げ惑い追われる一団を確認した、巨獣の影も視認できた。数を1体減らして2体居るようだ。今朝トーロ・コロで見たマジュンガサウルスだ。

 そして温感センサーに映る一団の数が減じていた、ここに到達する間に数人犠牲になったのだろう。降りしきる豪雨で視界はますます悪くなっており彼らは次第に足場の悪い渓谷へ進んでいる。このままでは全滅してしまう。


「Caesar、奴隷と戦士の見分けはつくか?つくなら優先して奴隷たちを各個に救出する。分析データを提示してくれ」


「了解しましたアイン、非常に悪い報告となりますが奴隷人足と思しき人数は2人になっています、一団の最後方で巨獣の襲撃を受けており予断を許しません」


 その報告を聞くや否や私は最大戦闘速度に設定したパワーアクチュエイターを駆動させて戦場に身を投じる。逃げてくる走竜戦士たちの一団には目もくれずに通過して巨獣の影が押し寄せる場まで一気に跳躍した。


 巨大な牙を剥き出しにして奴隷たちに襲いかかろうと駆け寄る巨獣たちの姿は壁のように見える。豪雨で視界が歪み暴力的なシルエットだけが一面の光景に溶け込むようにして存在していた。

 私はMB-14CQCを構えて光刃を起動した、瞬間豪雨がプラズマに触れ蒸発し私の周りは水蒸気で視界が遮られてしまった、これはまずい、そう判断した私は光刃をすぐに収容する。

 非常に良くない展開だ。MB-14CQCがつかえない。巨獣たちとの距離は30mに迫っていた。十数秒後には接触することは避けられない。逃げ惑う走竜に載った奴隷2人が目の前に迫る。私は彼らに叫んだ。


「ここは私が引き受けた!エク・ヴェリに連なるものたちよ!時間を稼ぐから走竜を降りて北の斜面へ登り森に身を隠せ!」


 近づいてくる奴隷たちは女2人であった。それが聞こえたのか私の目前を通り過ぎたあと次々と走竜から飛び降りて北斜面へ駆けていく。

 あとは私の仕事だ、先に逃げていった後続隊の奴らは前の道が塞がれているから逃げられはしない。もちろん私の手からだ。

 巨獣たちにはここで退場して貰うとしよう、ここはお前たちが居て良い場所ではない。

 MB-14を構え2体の巨獣に照準を合わせた。HMDには照準固定(ロックオン)のマーカーが表示されている。残弾よし、距離よし、流体偏差よし。

 2回トリガーを引く。5連点射で2回分だ。MB-14から放たれた2mm弾が5発ずつ巨獣の身体に命中した。一瞬巨獣たちは衝撃を受け怯むが勢いは止まらない。やはり制動力(ストッピングパワー)が不足している。小口径弾では仕方ないのだ。私は脅威を目の当たりにしていたがまだ冷静だ。左腕を構えパワーアクチュエイターを高速機動(クイックマニューバ)に切り替える。


 巨獣の1体が顎を大きく開いて私を捕食せんと殺到する。牙が私を捉えようとする瞬間、TASの姿は巨獣の鼻先から消える。

 ここだよ巨獣さん、ずいぶん綺麗な眼をしているな。高速機動で身を躱した私は嘲笑いながら左拳を素早く叩きつけた。


 どがん!!!!


 瞬間TASの左腕に備えられたもうひとつの超近接戦闘兵装浮揚型打撃杭フローティングパイルバンカーが巨獣の側頭部に炸裂した。

 太さ2.5cm長さ50cm、そして重さ10kgの超重金属製の槍が左下腕から飛び出し電磁加速されてぶつかる。TASの守りを破るためにつくられたその威力は巨獣にとっても致命傷になり得た。

 勢いづいたまま私の傍らを通り抜けた巨獣は地響きをたてて崩れ落ちて動かなくなる。気絶したか即死であろう。すぐに私は次の目標に向き直る。


 数秒後、もう1体の巨獣も炸裂音と共に地べたに這いつくばった。浮揚型打撃杭は単発打ちっぱなしの兵装ではない。当たった瞬間に超高速で連打を放つことも可能なのだ。単発では仮想敵であるTASの守りは破れない。

 豪雨降りしきる中、MB-14CQCを抜き放つ、あたりが蒸発した水蒸気に包まれるが、もうそれは問題ではない。私は手早く巨獣たちの首を切断していく。

 そして北斜面の森でこちらの様子をうかがっていた女奴隷たちの無事を確認し近寄っていった。女奴隷たちの表情はまだ恐怖で固い。


「大丈夫だったか、もう巨獣は斃したから安心しろ。ところでもう一人はどこにいる?」


 私が尋ねると彼女たちは身を震わせながら泣き始め涙ながらに語った。

 話によると先行集団とわかれたあと奴隷たち3人が固められて道中の前見をしつつ迂回路を進んでいると後方から巨獣の襲撃を受けたそうだ。

 7人の戦士たちは不意打ちに泡を食い逃走を図る。

 前見で巨獣の襲撃に気づかない奴隷たちを追い抜いて一目散に駆け抜け、通り過ぎようとした間際に男奴隷の載った走竜に投槍を放つと男奴隷は振り落とされて身体を強く打ち身動きが取れなくなった。

 そこへ3体の巨獣が追いついてきて1体が哀れな男奴隷に襲いかかり犠牲になったという、彼女たちは残りの2体に捕捉され見捨てて逃げるしかなかったのだ。

 豪雨に身体を打たれる中、その話を聞いて次第に怒りが私の心の奥底に渦巻き始める。

 あの人非人たちを人扱いしないと考えていたが考えを改めた。あれらは塵芥(ゴミ)だ、ゴミは大地に還元してやる。

 

「……君たちは走竜に乗り、この油袋をもってここで隠れているんだ。私はこの先にいるあのゴミどもを一人残さず始末してくる」


 私の怒りの気配を察したのか彼女たちは身を震わせながらも指示に従おうと別々の方向にいる走竜のもとまで歩いて行く。そして走竜に乗って私の元までやってきた、私は彼女らに抱えていたいくつかの油袋を渡し、


「このままでは雨の冷たさで凍えてしまう、火を起こせるなら木陰に入ってこの油をつかって火を起こせ。油を使いきったら革袋を被って寒さをしのぐんだ」


 彼女たちは頷いて私から油袋を受け取る。そして豪雨から身を隠すために木陰に移っていくのを見届けた私は気持ちを切り替えて袋のねずみになったであろう集団へと向かった。

 跳躍しながら私は考える……残念ながら楽しい授業はここでおしまいだ、これからの私は冷酷な教師ではなく地獄の使者となって塵を土に還す。

 

 数分後豪雨から小康状態になりつつある雨の中、立ちふさがる大岩に足止めを食らっているゴミどもを見つけた。私はゴミにMB-14の照準を合わせひとつづつ丁寧に2発撃ち込み足首を砕いたあと走竜の頭にさらに1発撃って絶命させていった。

 私の目の前には7体の走竜の屍とゴミが7つ泥まみれで転がっている。私は背中に抱えていた油袋を開いて順番にたっぷりとゴミにかけてまわった。ゴミどもが何かものを言っているように聞こえるが幻聴だろう。

 そしてMB-14CQCで火を起こして油袋に移すと炎の舌が伸びる、それをゴミに着火した。全部に炎を移して7つのキャンプファイヤーが薄暗い曇天の中赤く燃え盛る。断末魔の背景音楽(BGM)が炎のショーに彩りを添えた。のたうち回るゴミが動きを止めるまで私は待つ、待ち続ける間西へ向かって口笛を吹いていた。犠牲になった男奴隷に捧げる鎮魂歌だ、彼の魂に安らぎが訪れることを祈る。

 口笛を吹き終えると私は真っ黒に焦げたゴミをつまんで全部川に放り投げていく。あとは自然が土に還してくれるだろう。

 雨は急速に引いてやがて晴れ間が覗いてきた。私は女奴隷たちが待っている木陰まで戻って彼女たちと共に先行集団を追跡することを伝えた。たしか進む先には名は知らないが集落があるはずだ。

 私は走竜に乗った彼女たちを順番に抱えて大岩を飛び越し降ろしていく。そして足並みを揃えて合流地点へ向けて駆けていった。

 曇天の隙間から光が伸びてくる山道を走竜たちと駆け進みながら、私は次の作戦計画をHMDに表示させて検討していた。ゴミ処理はあと21個だ。

 

 しかし先行集団による恐ろしい事態がこの先で起きていたことを私はまだ知らない。

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