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悠久の一  作者: さむちゃん
第二章 決意する異邦戦士
12/18

10 忍び寄る獣たち

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 大陸東部 トーロ・コロの集落 23日目 自機標準時1302 海抜20m

 北緯30度 東経60度  借りている離れ

―――――――――――――――――――――――――――――――――――


 薄暗く日差しが斜めに入ってくる離れの中私は彼女にこれ以上纏いを脱がせないよう抱きしめていた。

 ミャンの話は終わり、彼女は私に身体を許し貞操を捧げようとしている。


 甚だ困った…航宙軍規則に自律行動中に現地人に多大な影響を与える行為はこれを禁止する、とある。しかしそれは私の方便でありこの子の想いとはまったく関係ない。

 彼女はまだ12、3歳の少女だ、私の倫理的に許されない、犯罪だ。弟子からの信頼を利用する悪しき師だ。だから絶対に間違いを犯してはならない。

 ミャンを愛おしいと想う気持ちは確かにある。だがそれは男女の愛情ではない。

 彼女は私の弟子だ。そして守るべき……そう娘だ。彼女の親にはなれないかもしれないがせめて彼女がひとり立ちするまで守ってやろう、そう決めたはずだ。

 私は息を大きく吐く、ミャンは震えながらも私の為そうとすることを受け入れるべく待っている。

 ミャンは覚悟をもって今の話をしてくれた筈だ、生半可な説得では却って彼女を傷つけてしまう。だから私は足りない頭脳を回転させある決断をした。

 この場を上手く収めることができるだろうか……

 

「ミャン、ミャン、顔を上げなさい」


 私のことばを受け、ミャンの顔が上がって私の目の前にあった。前髪の隙間から映る瞳が美しい。見つめ合い、彼女の目が伏せられて閉じられた。再び真珠がこぼれ落ちTASの胸を濡らす。

 雰囲気に呑まれそうになる、ああ……参った。彼女に勘違いさせてしまったようだ。こんなときに間が悪い。よしCaesar聞いているんだろう、それで気を遣っているつもりかAIの癖に。そう思いながら私はおもむろに、


頭部モジュール(ヘッドアーマー)圧縮空気噴射(エアブースト)緊急脱装(ロックアウト)


 音声認識がCaesarに受理され次の瞬間圧縮空気の噴出音とともにヘッドアーマーがミャンの頭上から後方へ宙を飛んで離れの入り口あたりに落下し派手な音を立てる。


「誰!?」


 途端にミャンが私から身体を離し振り向いて顔を隠して露わになろうとしていた素肌を隠す。顔は赤面して茹だっている。

 当然ながら誰もいない。あるのは緊急脱装したヘッドアーマーだけだ。


「アインせんせ…どうして…ッ」


 私は座ったまま少し後退る。そして彼女が私に向き直って追い縋ってくる前に両腕のマニピュレーター、胸部モジュール、バックパックと順に3秒で脱装した。TASのモジュール(パーツ)が床を鳴らす。これで上半身だけは防御スーツで体温だけは伝わるだろう。大事な話をするのにTAS越しでは気分がでないから。

 そして追い縋る彼女の身体をつよく抱きしめて真剣な表情で言った。


「落ち着いて聞いてくれ、ミャン。お前は弟子失格だ。師を誘惑する弟子など私はいらない」


「!……せんせい」


 彼女の瞳がますます潤んで嗚咽が混じってきた。早くフォローしないとな。私は口調を強めて続ける。


「だが聞け、今この時よりお前を私の娘として迎える、わかるか?私はお前の父となるんだ。」


 彼女の目が見開かれた。そして私はひと呼吸置いて、


「お前の気持ちはわかった。私を頼りにしてくれてなおかつこんな私を好いてくれる、こんな嬉しい事があるだろうか、しかし……」


 ここから正念場だ、ひと言間違えばミャンを傷つける可能性があるから慎重に言葉を選ばねば。


「ミャンは言っていたな戦士の妻になるのは同じ戦士でなければならないと」


 強い子孫を残すために彼女の属していた集落では男女ともに成人した戦士でなければ婚姻が認められていないのだ。15、6が成人の年齢だという。


「そしてお前は戦士の教えを受けているがまだ幼い、成人までは年月が要る。戦士に求愛するのにそれは問題だろう?」


「私はお前の父となりお前を守り育て一人前の戦士になれるように努めよう、そして近い将来ミャンが戦士として独り立ちした時なお私を選ぶというならばその時は考えよう」


 私の説得をミャンは息を殺して聞いていた。かなり他力本願な説得だったが、これで問題はなかろう。なんとか分かってくれるとよいが……彼女は少しの間視線を迷わせたあと、相槌を打った。


「……なんとなく、わかりました……困らせちゃったみたいですね……わたし……ダメな娘です」


 私は表情を変え優しく微笑んで、


「わかってくれたか、嬉しいよミャン」


 よかった、一安心だ。私は成し遂げた……ところがここで一件落着ではなかった。ミャンは頬を紅潮させて決意に満ちた表情で、


「私の想いは変わりません、変わるわけがないからです。わたしはあの島で死んでいた身なんです。だから貰った生命は一生かけて返します。わたしは成人して戦士になります。そして父様と結婚するんです」


 ん……?おや?落ち込むかと思いきや違ったぞ……?父様と結婚?なにをいっているんだ?


「おい、ミャンなにを……」


「成人はまだ先だけど、誰にも邪魔なんてさせません、Caesarから父様の好みの女性の話は聞いてあります、スユゥアンにだって負けないくらいいい女にだってなってみせます、そして契りを結んで父様の子を産むのです!」


 ……それ以上いけない。逆にミャンの情熱の火に油を注いでしまったようだ。私は失敗した。なんとかこの場は収まったが将来どうなるか甚だ不安だ……!

 ミャンがこんなに思いつめる子だとは思ってもみなかった、普段あれだけ明るく自由で奔放な彼女なのに。


 しかしこれから過酷な訓練、そして生死を賭けた実戦、考えることはまだまだ多い。将来、ミャンは成長し美しくなって沢山の男性から求愛されるだろう。私はTASがなければただの落ちこぼれ軍人だ、彼女に相応しい男性は他にいる。そしてミャンの未来はミャンのものだ、私に将来を縛られる必要はない。だから私は彼女が成人したら姿を消そう、ミャンの輝かしい未来を祝福するためにだ。

 今それを彼女に告げるわけにはいかないが近い将来現実になるだろう。その選択が正しいかどうかは問題でない、私は自分の信じる道を進むしか無いのだ。

 

 特に親子の誓いを立てた訳ではなかったが、ミャンを弟子ではなく娘として迎えることを彼女は受け入れてくれた。さらに私の姓を与えてミャン・ミカムラとなった。それをこれからソータ・タッタに報告する。周囲の状況とスユゥアンの話を検見すると私とミャンが婚約者だという噂を流したのは彼の仕業に違いないと踏んだからだ、噂は元から絶たないとな。よし善は急ごう。

 偶然本宅で食事を摂っていたソータ・タッタは私たちを快く出迎えてくれた。不自由なことはないかと気遣ってくれさらに夕刻の来訪者の話をいくつかした後、私はミャンを養子に迎えることを伝えた。彼は豪快に笑ってから立ち上がって周囲で食事を摂る一族のものに伝わる芯の通った太い声で、


「うむ、友の決断に敬意をもって祝福しよう。聞いたか皆!戦士ミャンが戦士アインと父娘の誓いを立て晴れて婚約した!」


 うん?親子の誓いはいいのだが、婚約した?決定的な見解の相違を感じて私は即座に弁解する。


「ソータ・タッタ、私たちは別に婚約したわけではないぞ、親子の誓いを立てただけだ」


「なにをいう、偉大な戦士に守られた幼い女戦士は成人とともに娶られ偉大な戦士の子を産むのだ。これは我らが天から授かりし生き残る術なのだ」


「待ってくれ、そんなつもりは全くないんだ。聞いてくれ、私は……」

 

 ソータ・タッタは聞く耳をもたない、すでに既成事実だといわんばかりに声を張り上げると傍らに控えていた一族のものが一斉に動き始め急ごしらえではあるが宴が始まった。

 あとで知ったことだがミャンの一族やトーロ・コロでも親を亡くした娘が優秀な戦士の養子となって成人しそのまま結婚してしまうことは珍しくないということだった。

 彼らの慣習や風習に文句をいうつもりはないのだが……そんな話は聞いていないぞ!


 私はうんざりしていたが好意からの祝福を受けないわけにもいかず、宴の最中は無駄と知りつつ無言の抵抗と言わんばかりの沈黙を守った。ミャンは反対に終始すこぶるご機嫌だった。


 ……


―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 大陸東部 トーロ・コロの集落 23日目 自機標準時1638 海抜20m

 北緯30度 東経60度 集落西の門

―――――――――――――――――――――――――――――――――――


 日が西の空へ傾き始める頃、私はミャンをスユゥアンの屋敷に預け集落西にある小高い丘で両脇を固められた門の前に集まった40人ほどの狩人や戦士たちがいる場所へと向かう。

 西の王国ヴイラから来訪する傭兵団先遣隊の到着を待つためだ。私が到着するとソータ・タッタは一団の真ん中に陣取り卓座を置いて腰を下ろしていた。

 物見が高みから監視してその一団がこちらに向かってくることを告げたのはまもなくの事だった。

 やがて私たちにもその姿が見えてきた。

 異様な雰囲気を漂わせ彼らは近づいてくる。それを見た集落の戦士たちが身構えた。彼らはなんとそれぞれが2m程度の四足歩行で移動する巨獣の背に載って現れたのだった。

 意気揚々と近づいてくる彼らに対し集落の戦士たちは畏れ始めた。無理もない、彼らは巨獣の恐ろしさをよく解っているからだ。

 私は毛皮の纏を集めて装着中のTASに被せ銀色の輝きを隠している、目立ちすぎると判断したからだ。来訪者たちを警戒させるのはよくない、巨獣の傭兵たちが正式に雇われたわけではないこともあった。

 なにか起きたら集落を守ることを優先にあとは自分の判断で動いていい、とソータ・タッタから行動の自由を約束されていた。


 巨獣に跨った戦士たちは我われの前で停止する。彼らは全部で5人と5体だった。その中のひとりが巨獣から降り立ってこちらに歩み寄ってくる。こちらからはソータ・タッタが前に歩み出てその戦士となにやら身振り手振りで合図を交わしている。

 私は毛皮でカモフラージュをされたHMD越しに彼らの様子をあらゆるセンサーを駆使して監視した。おおよそ全員装備が統一されている。これは彼らが高度な武装化集団であることを物語っている。それに加え装備している槍、穂先が黄緑色に鈍く光るあの材質は青銅であろう、よろいは全身ではないが騎乗する際に動きを妨げないような機能を持たせている造りになっている。そのよろいの洗練度もトーロ・コロのものと比べると比較にならないほど進歩していた。彼らが評判どおりの力を持っているかはまだわからないが少なくとも巨獣を操る機動力と地の利を得た戦いで挑めば5人でこの集落を十分に混乱に陥れることができるかのように見えたのだ。

 私がそんな事を考えている間にソータ・タッタと巨獣の戦士のひとりはお互いを確認しあったのか槍の穂先を地に刺して石突の部分を交差させた。あらかじめ聞いていたがこの一連の動作がお互いの身元を保証する一種の合言葉のようなものなのだという。

 我々の前に控えている5体の巨獣たちは非常によく訓練されているのか騒ぎ出す気配さえみせない。ただ主人たちの命令を待つ忠実なる戦闘兵器のような印象があった。

 

 彼ら傭兵団のうちのひとりが私の姿を認めたのかしきりにこちらを指差して他の傭兵団の戦士たちに何か話している。何と言っているのかよく聞こえないのでCaesarに集音させて解析させた。それによると「おい、毛皮のデカブツがいるぜ」「てっきり飼われた獣かと思ったぜ」「2本脚で立つ獣とは気が利いてるな」「何の芸を見せてくれるんだ?」「戦士の数が足らないのか?」などと口々にのたまわっている。

 私はそれを聞いて多少腹は立ったが、未知の相手を警戒するどころか侮ることしかできない彼らが一流の軍人ではないことが判り苦笑した。驕れる者は久しからず、私の故郷の言葉だ。


 我われと共に巨獣に乗った傭兵たちが集落に入ろうとするがソータ・タッタがそれに割って入りもし集落のものが巨獣をみたら総出で襲いかかってくるかもしれないので降りて進んでくれと請願した。

 傭兵たちは最初渋る様子をみせたが彼らの中のひとりがそれを制すると全ての者が巨獣より降り立って近くの立木に手綱で縛り付けると会合が終わったらすぐに様子を見に戻るのでこれでいいか、とソータ・タッタに告げた。ソータ・タッタは一礼し穂先を地に刺して感謝する、と返していた。

 そうして私たちは傭兵団の戦士5人と共に集会場に並べられた切り株の椅子と蜜入り水の壺がおいてある会合の場へ入っていく。集落の者どもは遠目にその様子を伺っているようで全く近寄ってくる気配がなかった。あいかわらずよそ者に対しては態度がよくないな、と私は呆れるように見やっていた。


 会合は武器をお互いに収めて穏やかに進行した、ただ色々作法があるようで、私にはお互いの武器の素晴らしさを讃え合ったり、故郷の美しい景色を自慢したりそれを褒めたり、自分の妻がいかに素晴らしい女性か語り合ったりと、まるで世間ばなしをしているようにしか聞こえなかった。実はこれで交渉中なのであってお互いの価値観が一致するかどうかこれで探りあうのだという。交渉というともっとストレートな試験行程会議か、もしくは完全に根回しされた航宙軍統合作戦会議しか知らなかった私には新鮮な驚きがあった。

 やがて怒号も絶叫もない静かな会合が終わりソータ・タッタが宣言した


「約定は交わされた、ヴイラ走竜兵団の誇り高き戦士30人が我がトーロ・コロと肩を並べ戦う。戦士たちよ、彼らを讃えよ。女たちよ、彼らに祝福のため流れる蜜乳を捧げるのだ」


 そう周囲に宣言すると集会場を遠目に伺っていた集落の者が待ちかねていたのか一斉に集会場に押し寄せて口々に祝いの唄を高らかに歌い始めた。集会場の傍らに控えていた女たちが先遣隊の戦士たちに盃を振る舞う。

 会合は成功裏に終わったようだった。しかし私は腑に落ちない部分があって、彼らが集会場から立ち去り乗用巨獣の様子を見に戻る前にその場所へ移動する。


 ……


 2分後毛皮を脱ぎ捨てTASの高速機動(クイックマニューバ)で傭兵たちの乗る巨獣が繋がれている場所の近くの茂みに辿り着いて用意しておいたシダの草木を敷き藁にして被り身を潜めた。

 私が気になったのはヴイラ王国が差別主義的思想を持ち、傭兵たちも弾圧行為に関わっているであろうと予想すると、先ほどの会議のように何の騒動もなく徹頭徹尾決められたシナリオのように進んだ会合に疑問を持ったためだ。集落の目がない状況をつくり、彼らを監視して油断を誘い真意を探るのだ。何事もなければよいが、もし彼らが味方のフリをした敵であった場合一番厄介な相手になることが予想できたからだ。

 果たして彼らは私の予想通り何者をも伴わずに乗用巨獣のところへ歩いてきた。彼らの周囲は開けており会話を聞き取れる位置に人がいないことを確認していた。だが私は200mは離れており風下を選んだので彼らからTASを認識することはできないであろう。足跡を残すような愚もおかさない。


「なんとか耐え切れましたな」「ああ、だめだまだ悪寒が止まらない」「あの女俺に色目つかってきましたぜ」「美しく輝く黒き誇り高き民でない奴らをみると怒りに我を忘れそうです」「まあ皆よくやった。あとで団長には褒美を弾んでもらうとしよう、ところでどれくらいクロでないやつらがいるのか見分はできたのか?」


 ……いきなり本題か、私は会話を3次元音響(ソナー)センサーで盗聴しつつ録音していた。彼らは私に盗み聞きされているとは知らずに話し合い始めた。


「ざっとみて100はいるでしょうな」「小屋の建っている数からみてもそれくらいでしょう」「全員奴隷にして並べて種付けしてやる」「我々は何もなければここで本隊が到着するまで待機ですな」「そうだ、それまでは大人しくしていないといけないぞ、それまで巨獣が現れたのなら約定どおり共同で斃す、そして仕込んだ巨獣の襲撃を我らだけで撃退し報酬を莫大に吊り上げる。拒んだら本隊が到着するまで待って、そこからは略奪の幕開けだ」


 ふふふ、と全員が舌なめずりをしながら股間を勃起させているのを私は見逃さなかった。


 こいつ等は傭兵の姿をした野獣だ。被害が出る前に始末したいがまだ早い、5人程度の騎乗兵ごときMB-14の一斉射撃で秒殺できる。もし近接戦になったとしても走竜とやらがどれくらいの移動速度があるかわからないが200km毎時の速度を瞬間的に発動できるTASの高速機動(クイックマニューバ)からは逃れられないだろう。

 私は今後彼らを人間扱いしないことに決めた。恐らく傭兵団本隊も数や装備に頼んだ野盗と変わるまい。そのような鬼畜どもが国の看板下げてのさばっているのは気分がよくない。

 正義の味方というわけではないが、ミャンがもしここで生活を営むのなら、未来に繋がる障害は全て探して始末(サーチ&デストロイ)するのだ。

 彼らが愚かで助かった。もしここで得た情報がなければこの集落は大した抵抗も出来ずに鬼畜どもに蹂躙されていただろう。無論私も全て防ぎきれないだろう、多勢に無勢というやつだ。

 すぐに準備を始めないとならない、この畜生どもはもちろんソータ・タッタにも気づかれない様に罠を張るのだ、そして罠にかかったゴミどもを苦痛にまみれさせてなぶり殺しにしてやる。

 私は学んでいる、優秀ではないが落第はしなかった。それは非対称戦での対抗策(カウンターテロ)とゲリラ戦法だ。事前に対抗策を仮想で立て事が起きる前または起きた瞬間に対応する。

 必要な情報はこのケダモノどもが自白した。敵は全部で30人、私が一度に相手できる数は限られている。しかし蛮族どもが移動中に暗闇から襲撃しその数を少しづつ減らしてやろう。恐慌を起こしたクソ貯めどもに真実の恐怖を教育してやり、卒業と同時に地獄へ突き落とす。簡単だ。

 そうなるとやることはひとつだ、今目の前にいる5人の動きを見極めないといけない、予測できない事態を招く可能性を排除しなければこれからの罠づくりに支障をきたす。


「今晩はここで野営ですな」「一人寝はさびしいですが少しの辛抱ですぞ」「我慢できないぞ、巨獣の穴でもいいんだ」「やめておけ、本隊到着までな、我慢したほうが気持ちいいぞ」「われわれが交渉決裂で本隊に戻ればこの話はなかったことになる。戻らねばすでにこちらに向かっている本隊は3日後ここにやってくる、辛抱だ。周囲を警戒しておけ。すぐにここに黒く美しい我らの町がつくられる。あとは我らの思うがままよ」


 ひひひ、と今度もまた全員が興奮を隠しきれずにいた。すでに彼らは妄想の世界に入っている。

 あそこにいる意志をもった肉塊たちはおそらく慈悲にあふれる神でも救えまい、愚かな家畜共め。よしあらかた必要な情報は揃った。あとは実践だ。

 私はTASを密やかに移動させてこれから展開させる罠を構築するためにCaesarのDB(データベース)から原始的な各種トラップの運用方法を再確認しはじめた。

 授業の準備開始だ。

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