シルクとソレイユ
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『太陽の勇者ソレイユ』
それはプロレス人気回復のため、若返りのために、アニメや雑誌とタイアップしたキャラクターだ。
太陽の力で闇を凪ぎ払う変身ヒーロー。
光線技はほぼなく、肉体を駆使して戦う男。
たしかそんな設定だった。
前の人生で一番輝いていた頃の私だ。
脚を前後に開き、腰を少し落とす。両腕ではクロスさせ掌は前面に。ふむ、10年ぶりだがポーズも忘れていないものだな。
しかし、このマスク。どういう仕組みだろうか。
ソレイユの顔は赤い隈取りと金の鬣を持ったライオンの意匠だ。口の部分は開いていて表に出ているが、目の部分はメッシュで隠されている。
当然、正直レスラー時代のそれは視界が悪かった。慣れるまでに時間がかかったし、慣れてもコーナーポストに登る時は怖かったのだ。
それがどうだ。
このマスクも目の部分は外見上、出ないようになっていた。なのに視界がいい。何も着けていないのと同じかそれ以上。
フィット感も凄い。と言うか、本当に着けているのか、マスク。
「なぁ、このマスク……」
「……うわぁぁぁぁカッコいいッ。ライオンさんなんだねッ」
「そ、そうか?」
何か黙っていると思っていたら感動していたらしい。触らせてと言うのでしゃがむとペチペチ叩かれた。全く痛くないのだがその感触に驚いた。布越しじゃなく、直接触られているような。鬣さえも地毛のようだ。
「ふふーん、わたし特製だもん。そのお顔はソレイユの顔そのものと言っても良いぐらいっ。」
「それでか。衣装の方も同じ仕様だな。タイツが皮膚みたいに感じる。」
「うんっ。それにね、ソレイユを送ってくれた想いの力も入れちゃった。いっぱい余ってたし。」
「……それは大丈夫なのか?」
「わかんない。」
これといい、火の魔力といい、何かいくつも不安を抱えている気がするぞ。
まあ、一番の不安要素はシルク自身だったりもするが。
「そうだ。ーーー。」
魔力を操作し光に包まれる。
突然の事で「えっ?」と驚いたものの、光は一瞬で消える。
「おおっ!」
そこにはマントを羽織ったシルク。デザインは基本的に俺と同じ。違うのは色が淡いのとファイヤーパターンが丸みを帯びていて可愛らしくなっているところだ。
「じゃーん、おそろい。」
「似合う似合う。しっかし、えらく簡単にできたな、それ。俺のと比べて。」
「うん。一度作ったからショートカットで出来るの。」
滅茶苦茶便利だ。魔力があれば衣食住の衣は気にしなくても良さそうだ。
「さて、そろそろ行くか、シルク。」
俺は立ち上がり、手を差し出す。
一瞬キョトンとした表情を浮かべたが、俺の手がどういう意味か気づいたようで、小さな手で繋ぐ。
繋いだのは手ではなく指。
俺とじゃ手の大きさが違いすぎるし、今の関係だとこれぐらいって気もする。
「うん、行こうソレイユ。」
太陽のような笑顔。ホッとする。
あの神々しい姿よりもこっちだな。やっぱりアレは怖いし。
嬉しいのか恐怖なのかよくわからん感情で、思わず漏らしそうだったのは内緒だ。いいオッサンのお漏らしなんて悪夢でしかない。
「ー」
今までで一番短い魔力操作の声。
俺達は光に包まれる。
視界が白一色になる。
空を見上げても青から白に。
あの時、死の間際に見た白。
あれは太陽じゃなく、この白だったのかも。
タイミング的に違うか?
でも、俺の中ではそういうことにしておこう。
あれはシルクが喚んだ白。
シルクが見せてくれた白。
白。
しろ。
白一色の世界の中、変なものを見た。
あれは俺とシルク。それはいい。
俺達を囲む人々。
目立つのはデカイ黒鎧と立って歩く水色の象。
今の俺よりどちらもデカイ。
他にもどこか変なやつら。
なんだ、ありゃ。
わからん。
ただ。
嬉しそうなシルク。
太陽のような笑顔がそこにもあった。
名もなき英雄召喚システムの白い少女は、シルクとしてこの日産まれた。
大橋太陽として死んだ男は、ソレイユとしてこの日生まれ変わった。
シルクとソレイユ。
白い少女と太陽勇者の物語が始まる。
次回『召喚先で』
今回でプロローグ終了です。