俺の名は
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「な、なあ。大丈夫なのか、それは?」
緋色の瞳。
よく後輩がゲームで徹夜をし過ぎ、白目が充血して真っ赤になったことがあるが、それとは全く違う。
白目自体には何も変化はない。
《登録完了致しました。これより『英雄召喚システム』は個体名称『シルク』となります。》
んんっ?
表情もそうだが声に感情がない。抑揚が無いだけで同じ声でもこんなにも印象が変わるのか。
正直、さっきまでのシルクとは差がありすぎて怖い。
《『命名』の条件を達成しました。アップデートを行います。》
再び目を閉じるシルク。
《ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー》
音なき声。三度目の魔力操作の声だ。今までで一番長い。
その声に呼応し、あらゆる所から色が染み出す。
赤、青、緑、茶……むぅ、何だろうか、あれは。ピンク、黄、紫や白。黒なんかもある……全部、魔力の塊だ。
色の濃淡 、塊の大きさもそれぞれ違う。
数えきれないほどの魔力の塊。力の奔流。
私に入った火の魔力とは比べ物にならない濃さだ。
その魔力が選別される。
導かれた魔力のうち、より濃く、より大きく、より強い力。
それらは渦を巻き、シルクに吸い込まれる。
するとどうだ。
シルクの白い髪が吸い込まれた魔力の色に染め上げられる。時にはグラデーション状に、時には唐突に、時には玉虫色的に。
見る角度で色の変わる塗料……マジョーラと言ったか、あんな感じの変化がその場で起こっている。
あれは私の衣装を造った際の変色と同じか。
残った魔力の半分。
シルクの周囲を漂い、何か幾何学的な模様を空中に描いていく 。
シルクに入っていった物に比べると力の弱かったはずのそれらは、幾何学模様が増えれば増えるほど質が上がっていく。
それがあの模様の効果なのだろう。
髪のいろが変わるシルクと極彩色の幾何学模様。
私はその光景に、その美しさに心を奪われた。
ついさっき、表情のないシルクは人外で不気味、怖い等と言った。
それもそのはずだ。
神々しい。
熱い。
私の中の火の魔力が反応している。
大量の汗が流れる。声もでない。喉が乾く。目頭が熱くなる。何も聞こえない。胸が締め付けられる。動機が激しい。勃起する。畏縮する。
訳のわからん感情がいくつも同時に起こる。
あらゆる感情に揺さぶられ、体が律儀に反応する。
内包する神秘性。
それに感動し同時に恐れる。
どれぐらいたったのか。
髪の色が薄くなっている事に気付く。
幾何学模様も上部から徐々に崩壊していた。
ああ、この光景ももう終わるのか。ついに終わるのか。
もっと見ていたい。でも、これ以上は肉体も精神ももたない。
やがてあの感情のない声。
《アップデートを完了しました。今回のアップデートで個体名称『シルク』は性能を12%アップ。ポータブル機能等、これまで必要としていなかった機能を得ました。》
ゆっくりと目を開ける。
「何かパワーアップしちゃった。こんなの初めて。でビックリ。」
今度の声は感情のこもった、元のシルクの声だった。
瞳の色も青。
ああ、こっちの方がいい。
思わずシルクの頭を撫でてしまう。
触れた瞬間はビクッと体をこわばらせるが、やがて気持ち良さそうに身を委ねてきた。
あ、ミー子撫でたときもこんな感じだったな。
少女と猫じゃ大きさが違うが、今は私がでっかくなっている。シルクは細身だしなんとなく同じ感じ。
撫でながら思う。
緋色の目のシルク。
彼女は『英雄召喚システム』のシステムに特化した部分か?
アップデートとか言っていたし。
「で、何が変わったんだ、シルク。」
すると手を頬に当て、チラチラッと私を見る。身長差がありすぎるので、絶えず見上げている形となり……うん、可愛らしい。
「あのね、私も一緒に行くの♪」
「はい?」
「私、ここから出れるようになったからね、着いていくことにするの。名前貰っちゃったし、がんばっちゃうよ。」
ふふーんと鼻息が荒い。やる気マンマンだ。
着いてくる……か。
知り合ってまだ一時間もない。信用出来ると言えるほど信頼関係は築けていない。得体が知れない。あの年頃の女の子をどう扱っていいかわからん。やっぱりあの緋色の目シルクは怖い。
でもなあ。
この世界の事はよくわからん。サポーターとかガイドが居ると有り難いかもな。
信頼関係ならこれから築けばいい。これから彼女を知っていこう。 それに、こんなところに独りは、私の精神衛生上良くない。袖振り合うも多生の縁とも言うしな。
そうそう、名付け親にもなった。
……なら当然、だ。
「こちらこそヨロシクだ、シルク。」
「ヨロシクね、……そう言えば名前知らない。どんな名前?無かったら今度は私が着けるよ。」
期待に満ちた眼差しだが、スマンね。
「私の名は大しろ……」
いや……
手に持っている『それ』を見る。
ああ、大城太陽はあの時死んだんだ。私は生まれ変わり、全盛期以上の肉体を持ち、そしてこの衣装。
ならば当然、名乗るべき名は一つしかない。
『それ』を被る。
久しぶりの布地が頬に当たる感触。
「俺の名はソレイユ。太陽の勇者ソレイユだ。」
次回『シルクとソレイユ』