魔力
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「死んだ私がこうしているのは一応納得した。なら、何で英雄が喚ばれた?」
少女は右手を前に突き出す。そして手を広げると空中に絵らしいのが浮かび上がる。ホログラムみたいなものか?
私はそれに近づいて眺める。これは……地図……かな。
何処のかはわからないが、恐らくはこちらの世界。しかし航空写真みたいにリアルな地図だな。
「今回、英雄召喚の儀式が行われたのはカツー王国。その第二王女が召喚主です。召喚理由は彼女に聞いてね。私はシステムだから『武の英雄召喚の儀式』が行われた以外は知らないの。まぁ、知とか財とか政の英雄じゃないから、頭を使う必要はないと思うよ?」
地図の左上の方が拡大され、山と森に囲まれた町が映し出される。この山にある大きな建物は城か。ふむ。城を基準にすると、私が住んでいた街よりは小さいな。
しかし王国に王女様ねぇ。お伽噺や昔話の様な世界だ。
私は学がないからなあ。頭を使わないでいいのは良いな。しかし他に何が出来るかと言われても困るが。ずっとプロレス一筋で手に職もない。
「まぁ詳しいことはあちらで聞くとして、どうやってカツーとかに行くのかね?」
「その点は心配ないよ。すべての準備が終わり次第送るからっ」
「ん?まだなんかあるのかい」
「うん、まだ貴方の体は完全じゃないんだよ」
それはどういう……と訪ねようとした時、その感覚がやって来た。
全身が熱い。炎の近くに立っているときの様な、太陽光を浴びすぎたような。
そして力強い。安心ができる。
私の中に、少女から、草や大地、空気からも。
世界の何処にでもある、それ。
最初は違和感でしかなかったが、徐々に馴染んでいく。
何だろう、この感覚は?
「その感じている力。それがこちらの世界の法則。魔力やマナ、魔法の力。誰もが感じ取る事ができて、誰もが何かしら扱うことができるの」
「魔法?そんなものがこの世界にあるのか」
少女は地図を消し、両の掌を私に見せる。
「ーー」
一言二言分の音に聞こえない声。しかし何かを感じる声。
それが終わると掌の上に、ピンポンの球ほどの四色の塊が浮いていた。
「これがこの世界での基本、四色の魔力の塊。赤いのが火で青いのが水、緑が風で茶色が土」
少女はそれらを自在に操る。まるで妖精と戯れているようで、非常に絵になる。その光景だけならホッコリする。
だがしかし、油断はできない。皮膚にピリピリと、鳩尾あたりに重く、脳にズキズキと。それぞれが訴えてくる。あれはヤバイ。とてつもなく大きな力を感じる。とてもお手玉チックに扱って良いものには思えない。
「あら?」
四色の魔力。そのうちの一つ、赤いのが私の方にふよふよと飛んでくる。敵対心とかは感じない。これは好奇心か?
だが、生きた心地がしない。例え危害を与える気がなくとも、猛獣が側にいるのと変わらないのだ。今の私は蛇に睨まれた蛙だ。
汗をだらだらと流す私の回りを何周か回った後、それは胸の中に飛び込んだ。
比喩とかではなく実際に胸から体内に。
「お、おいっ。これ大丈夫なのか?ヤバくないのか?ひぃっ、熱いっ。中から燃えるっ」
おいっ、なに笑ってるだよっ。くそっこんな風に入ってくるなんて訳がわからん。胸をかきむしったところで肌が赤くなるだけだった。
「心配しない。すぐに馴染むから。その子が貴方を気に入ったんだよ。その子は貴方の中で成長し、いつか炎となって手助けしてくれるはず」
「はぁっはぁはぁ……おさまった……その話本当か?デメリットないんだな?」
「多分」
「無いって言えよっ」
少女は焦る私が本当に面白かったらしく、しばらく笑い転げて話にならなかった。
そのうち私も、今が大丈夫なら今後も大丈夫だろうと、根拠も理屈も何もない少女の言葉で諦めることにした。
「魔力を感じる感覚を得た。貴方の体は完成したよ。最後に何か問題ある?指が足りないとか、目が三つあるとか。なかったら、これでここでのお話はおしまいかな」
「問題はあるぞ」
「何かしら。やっぱりどこか失敗してた?127年ぶりの召喚だったし」
「やっぱりって怖いわっ。そうじゃなくてな」
そう問題ありまくりだ。こいつは全然気にしていないが、間違いなくカツー王国に行ったら問題になる。大問題だ。
「カツー王国が裸族の国でもないかぎり、フルチンはまずいだろ」
「よく分からないけれど、裸なのが問題なのかな?
じゃぁ、貴方の魂から貴方に一番ふさわしい衣装を作るよ」
「便利だな、魂の情報」
目を閉じ少女は俺の胸に手をあてる。
と言っても身長差がありすぎるので、背伸びしてようやく届いた。さすがにこれでは辛そうなので、私は片膝立ちになっている。
「あった。これが貴方にふさわしい姿かあ。まってて、すぐ魔法でできるから」
「ーーー」
あの声の後、地面に向かって手をかざすと土が盛り上がり、草が延び、風が集まり、炎が点る。それらは混ざり合いマーブルな感じのドロドロの液体に、やがて混じりきりひとつの色となると輝き出した。その光は魔力。私の目の前で物質が魔力に変換されていた。
私の体もこうやって出来たのかねぇ。じっと掌を見る。
っと、そうだ。
「なぁ、魔法はどうやったら使えるんだい?」
「それは王国に行ってからのお話ね。英雄召喚システムの仕事ではないよ。わたしの役目は英雄の魂を喚び、それにふさわしい姿を与えて送り出す事だけだから」
詳しいことも、今後の方針も、すべてはカツー王国とやらに行ってからって訳か。システムはシステムとして働くだけ……ねぇ。
じゃぁ何で?
「なぁ、何であんたに人格とかあるんだい?」
「え?」
次回『少女の名は』
シルクの話方が今(2015年4月17日)とかなり違うので修正