世界がヤバい
竜人……ガイドゥが目を覚ました。
ガイドゥの四肢は拘束されており、火を吐くのも封じられている。今は無害化されており、後々処刑されることも決まっている。
俺とは真っ正面から拳を交わした仲なので色々と思うとこともある。しかし、この国へ略奪行為を行い、多くの人を殺傷している。破れた末が処刑というのも仕方がないとも思う。
「オーガウさん。あいつとは処刑される前に話せないかな?」
自分が闘った相手の事を少しでも知ておきたい。今後も俺と闘い、結果として命を落とす者もいるだろう。聞くとことによればこの世界は命をやり合う闘いに溢れている。
人族と敵対する竜人のような者たちや黒の魔力から産まれる魔族達。町を出れば野生生物に襲われることもある。同じ人族でも戦争もあるし野盜といったものもある。
自己満足なんだろうが自分との闘いで命が失われるのなら、失われた命を魂に刻もう。
「処刑される相手と話をしても恨み言を聞かされるだけかも知れませんよ?」
「ああ。それでも話をしたい」
「……分かりました。もっとも、本当は私の方からそれを打診しに来たのですけどね」
オーガウさんによれば、ガイドゥの方から俺と話をしたいと言ってきたらしい。俺相手になら聞きたいことは全て話すととも。
「分かった。なら、オーガウさん達の聞きたいことをリストアップしてくれないか?俺は頭が悪いから予め知ってないと聞き出す事もできない」
それにこの国に重要なこととか、俺にはよくわからんしな。
「話はアクエリアスさんとの話の後かな」
「その会談なら私も参加することになっています。竜人との件は部下にまとめさせておきましょう」
俺の召喚理由や天恵の話に何でオーガウさんが?とも思ったが知っている人がいた方が俺も話しやすい。王様も考えがあっての事だろうし。
俺達は会談の時間まで食堂で過ごした。その間にオーガウさんとは色々と日常的な会話もした。許嫁がいてベタぼれなのも知った。その辺の事を食堂にいた同僚達に弄られていた。弄られても怒ることなく笑みを浮かべている。どうやらこのやり取りには慣れている模様。うん、いい人だ、オーガウさん。
で、その許嫁に会った。
「初めまして、英雄様。カツー王国第二王女、アクエリアス・ギール・カツーですわ」
オーガウさん。近衛兵団に入る際に家から離れる必要があるそうで、その際に名字を捨てたそうな。元々の名はオーガウ・ディアス・カツーと言い、王族の血を引く家の出だとか。で、男児がおらず第一王女も隣国に嫁いでいたこともあり、オーガウさんに白羽の矢が立った。
好青年で血筋はいいし、近衛兵団団長の立場上アクエリアスさんとは接触の機会も多い。お互いに悪くないどころか好きあっていた事を婚約後知ったとか。
なお、結婚後オーガウさんが王様にはなることはないとのこと。何でも直系のみが王の座を継ぐことが出来る決まりだそうな。
「初めまして、アクエリアスさん。俺の事はソレイユでいい。それで身体の方は?」
「十分休ませていただいたので大丈夫ですわ」
顔色はいいとは言えないが、元々の肌の白さで余計にそう見えるのだろう。赤い厚手の生地の服に身を包んで立つ姿はしっかりとしていた。王様も赤い服を着てサンタみたいだったが、アクエリアスさんもそれっぽい。この手の赤い服がカツー王国、王族の正式な衣装なんだろう。
「どうぞ」と勧められてソファーに座る。今回呼ばれたのは、普段諸外国との会談に使われる部屋だ。世界の危機に関わることなので、会談内容が外に漏れないこの部屋が選ばれたらしい。
ソファーは俺の巨体でも大丈夫だった。隣にはちょこんとシルクが座る。テーブルを挟んで向かいには王様とアクエリアスさん。オーガウさんはアクエリアスの後ろに立っている。
「巨人族や獣人族の方達とも会談をする時もありますので、こういう場には丈夫なのも用意してありますわ」とアクエリアスさんは茶を淹れながら言う。この国ではホスト自ら茶を淹れるのが持て成しだそうだ。同じ物を淹れ、同じ物を飲む。毒も隠し事も無いと言うことらしい。お茶はやっぱり緑茶だ。美味い。
「それではソレイユ様。この世界の行く末、どこまでお聞きになりましたか?」
「一年後世界が終わるとぐらいしか聞いていないな」
「では、天恵より知らされた内容をお話しします」
お茶を一口。そして語り出す。
「まず、この世界には魔力というものが存在します。これはソレイユ様の世界には無かったものとお聞きしています」
「ああ。魔法とか魔術、それと魔物とかも無いな」
「では、魔物のことは……」
「私が少し話したかな。魔物は倒したら黒い魔力になって力になるって」
確かにゴブリンを倒した時に聞いたな。
「魔物はね、黒い魔力から産まれて死んだときに黒い魔力に戻るの」
「そりゃ完全に人とは違う生き物なんだな」
「うん。生殖活動もしないで魔力溜まりからどんどん産まれてくるから、発生と言った方がいいかもね」
「その魔力溜まります」
「魔力溜まり?」
「はい。シルク様がおっしゃられた魔力溜まり。一年後、そこから今までとは比べ物にならないほどの魔力が溢れ、魔族が大量発生すると言うのが『世界の終わり』ですわ」
「魔力溜まりがどういうものか知らないが、蓋をするとかじゃ駄目なのか?」
そんな疑問に首を降る。
「世界中に魔力溜まりは存在します。このカツーの側のも二つ。確かに魔物が発生し、被害も色々と起きますわ。でも、それ以上に私達人族は魔力溜まりの恩恵を受けておりますの」
「ソレイユ殿、今飲まれているそのお茶。そして先程食べた食事。それらはどうやって作られているか知っておりますか?」
オーガウさんが俺に問う。
「火でお湯を沸かしたり米を炊いたり?」
「そうです。ではその火は何処からと?」
ああ、そうか。ガスみたいなものなんだな。いや、電気に近いのか。俺は部屋の灯りを見る。今まで気にしていなかったがそれは電灯じゃない。蝋燭でもない。この灯り……明かりをもたらしているのが魔力なんだろう。
生活に根付いている物はそう簡単には排除できない。便利な物なら尚更だ。
「魔力溜まりの重要さは分かった。で、俺は何をすればいいんだ?大量発生した魔物を倒すのか?違うよな」
世界的な大量発生に俺一人じゃ無理だろう。さすがに俺でも分かる。
「ええ。ソレイユ様にはなぜ魔力が溢れることになるか、世界を回って調べて貰いたいのです」
「まった、それは無理じゃないか。俺は魔力の専門家でもないし。ハッキリ言ってそこらの人の方が詳しいと思うぞ」
「んー、私がガンバルよ。世界が終わっちゃうと美味しいもの食べれなし。」
そんなのでいいのか?
「シルク様には感謝いたしますわ。ただ、今回は専門家が調査していただけますの」
専門家なんか居るのなら、俺要らないんじゃないか?あ、護衛か。魔力溜まりは危ないみたいだしな。
「そこでソレイユ殿にはその者を迎えに行ってほしいのですじゃ。西の大国エンドゥ。そこに住むもう一人の英雄を」
次回『もう一人の英雄』




