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群青の世界へ  作者: 零-rei-
1/1

キャラクター設定と序章

これはTwitterの診断結果を参考にキャラ設定し、東京異端審問の世界観をお借りした一次?一、五次?創作です。

バトルシーン、流血シーン有り。異脳者に産まれてしまった双子の、生きざまと絆をお楽しみください


【空-ソラ-】

15歳。群青の髪。朱色の瞳。男

重力(30%)と傷を癒す(70%)の異能を操る。


過激派【松】のグループに加入し、主に治療役。敵情視察や希に交戦にも参加する。

他者の傷を癒す場合、その代償として空の中の“何かが”減る。(血液、学力、視力、記憶等)

癒す傷の重傷度に寄って異なり、かすり傷程度なら血液。生死をさ迷う程の傷なら寿命を減らす。


双子の兄と共に孤児で、ゴミ捨て場で暮らしていた。

至るところに包帯を巻いているが、自身の怪我の他に持ち歩くのが面倒という理由から。ちなみに自分の傷は癒せない。


一人称は「俺」

しかし、異能を使うほどに学力低下等の幼稚化していくため、ボク→ソラと変わっていく。


このまま異能を使い続ければ、彼はいつか【空-カラ-】になってしまうだろう……



「……怪我、してる?いたい?怪我治したら……笑ってくれる?」



.


【陸-リク-】

15歳。緑の髪。青紫の瞳。男

身体能力向上(100%)の異能を操る。空の双子の兄。


過激派【松】のグループに加入し、交戦時は最前線。

サバイバルナイフを使用し、接近戦が得意。異能を使って、超人並みのパワーを発揮させる。

しかし、異能を使いすぎた場合、体のキャパが越え体内で血管が切れたい、激しい頭痛等を起こす。

そのたびに空が傷を癒すため罪悪感を日々募らせている。


一卵性だが、身長は陸の方が5センチ程の高い。

他人に対して表情筋は動くがだいたいしかめっ面のため、眉間にシワが増える程度。

空の前では笑うが眉間のシワはそのままのため、困ったような笑い方になる。

かなり生意気な性格で、空以外信用していない。

空には素直。他人には冷酷。しかし、女性には一応礼儀を使う。(かなり不器用だが)

メンタルは強い方だが、時より凄く不安定になる。


よく空が死ぬ夢を見るらしい……


「作戦?知らねえよ。お前等、怪我しても空に頼るな。つか怪我すんなら死ね」な、一番重傷で帰ってくる奴


.


【蛇蠍-ダカツ-】

28歳。橙の髪。紫の瞳。男。未覚醒


過激派【松】のリーダー

自己中心、娯楽主義

天才的な頭脳を持ち、銃の腕前かなり凄い。肉体戦も好きではないが苦手ではない。

人を捨てゴマのように扱う。グループの仲間も変わらず。

心底に強い野心を抱いており、使えるものは何でも使う。


幼少期、未覚醒の母が異能者の父に殺された。

火を操る父は、蛇蠍を守る母を目の前で燃やし、蛇蠍は母が灰になっていく様を最後まで見ていた。

一人称は僕と私を使い分ける。

切れ長の糸目。

伊達サングラスは焦げ茶色のレンズ。

人をバカにしたような笑顔をいつも貼り付けた顔。

髪は上を縛っていて、下は下ろしている。

重度の喘息持ちで、今のところ再発は無いが風邪を引きやすく、よく咳をしている。

あまり長生き出来る方ではないだろう……



「さて、次はどんな計画を立てようか。ああ……早く、理想の世界になればいい。アイツ等を殺したバケモノどもなんて……」




.


【りんね】

享年26歳。青の髪。銀の瞳。女。電気と熱を操る異能者。

蛇蠍の元恋人。


元々は警察側の人間だが、スパイとして他派に潜入していた。

しかし、潜入がバレ、作戦は失敗。仲間の手によって殺害される



蛇蠍も元々は警察側の人間。

二人は警察訓練学校で知り合い、その後恋仲へ。

当時、かなり荒れていた蛇蠍に声をかけ、ゆっくりと縁を深めていた。

潜入捜査が終わったら、蛇蠍と籍を入れる予定であった。

潜入捜査の数ヶ月前から、嘔吐等等の体調不良が続いていたため、もしかしたら……




【篁-タカムラ-】

享年26歳。桃色の髪。水色の瞳。男。

身体能力向上と透視(千里眼)の異能者。

りんねとは幼少期からの幼なじみで、蛇蠍とは親友。

りんねに生涯片想いをしており、二人の幸せを願って自ら身を引いた。

しかし、作戦を失敗したりんねを殺害するようにと上司から指示を受ける。

りんね殺害後、後を追って自殺。



.

【楔-クサビ-】

青緑の髪。黄色の瞳。男

火と影を操る異能者。異能を隠している。

篁、りんね、蛇蠍の元上司にして蛇蠍の父親。

篁にりんね殺害を指示した張本人。

妻殺害後、整形を繰り返したため蛇蠍には今も父親だとバレていない。

整形後、訓練学校で蛇蠍を見つけコマにしようとりんね、篁と共に引き上げた。


ふてぶてしい。汚ならしい。ぶよぶよのキモいオッサン。

金に強欲、性欲満載。


数年前、一夜限りの関係を持った女が双子を出産し死亡、雪が降る日に双子をゴミ捨て場に捨てた






≪序章≫



あの日。俺達双子の非日常が、あの男の手によって全く別の世界になったことを……

俺はこの先も喜ぶことは出来ないのだろう。






『只今入った速報をお伝えします。本日未明、東京◯◯町にてビルの爆発事件が発生。これによる怪我人などは今のところわかっていませんが、ビルは使われていない物とのことです。テロによる反抗かは不明なため、住民の皆さんは警察の指示に従ってください』



液晶画面の向こうでは、ヘリが上空から現場の撮影に向かっていた。もくもくと煙を上げたビルが半分倒壊したように佇んでいる。ヘリからは人の姿は伺えないが、その映像は、まるで洋物の映画を見ているような、なんとも悲惨な現場を写していた。



「嫌だわ、物騒な世の中になったこと」

「まだテロだって解った訳じゃないんだから」

「でもやっぱり怖いじゃない。そう言えば、あなたこんな噂を知ってる?」



世の中にはバケモノの力を持った人間が居るんですって







巻き込まれる前に逃げなければ、彼らは部外者が怪我をしようが、最悪の結果を招こうが興味はない。

超人並みの力で、町を壊していく。


逃げろ。逃げろ。死にたくなければ逃げろ。そして、絶対に知ろうとするな。彼等とは決して関わってならない。





***********



「っ!ちくしょうっ、嫌な奴とはちあっちまった!」

「おいっ!お前瞬間移動で一人だけ逃げようとしてんじゃねえよ!」


崩れたビルの間は、昼間だと言うのに薄暗く視界が悪い。満足に清掃もされていないのか、ポイ捨てられたゴミにはウゴウゴと複数の虫が集っていた。


「クソッ!相手は一人だってのに!」


男が虫ごとゴミを踏みつける。スニーカーの下から、まだ僅かに虫の足がピクピクと動いていた。



「噂に聞いてたよりもガキだったから油断したぜ!」

「ああ。…………おい、アイツ何処に行った?」


先ほどまでビルの向こうで自分達を探していた敵が、少し目を話した時にはその姿を忽然と消していた。敵がいたところには、ソイツと自分達の血が混じった水溜まりが風により波紋を揺らせているだけだった。



「おい!冗談じゃねえぞ!アイツいったい、何処に」

「隠れるなら、もっと静かにするんだな」


足元の影が一層濃くなったと思え時、頭上から聞こえた小さな呟き。

ポタポタと赤い水滴が頬や服を汚した瞬間、男達の視界がブチンと切れた。




******



「あー、また怪我しちまった」


フードを被った青年は、血が滴る手をブラブラと振り、傷口を舐めた。


「……これで治りゃ、いいんだけどな」


変わらず溢れてくる血は、青年の願いも聞かず再び皮膚を汚していく。

アジトに帰ればこんな傷直ぐに治せるが、アジトには帰りたくない。しかし、帰ろうが帰らまいがどのみちこの傷は数時間後には跡形もないのだろう。


ビチャッ……ビチャ……


先ほどまで戦闘をしていた場所で、赤い水溜まりを躊躇もなく踏みつけながら近づいてくる足音がある。

その音の持ち主が解っているから青年は警戒もせず、目の前に積み上げた肉の塊を椅子に、ドサッと腰かけた。


「……りく?」

「空……」


互いに被っていたフードを脱げば、同じ顔をした二人の瞳が交わった。


バラバラの長をした群青の髪を風に靡かせながら、空はゆらゆらと不安な足取りで陸に近寄ってくる。ここに来るまでに、他の仲間のところに寄ったのだろう。先ほど合ったときより顔色はかなり悪い。


「りく、怪我」

「ん……」


額同士を宛がって、空は静かに目を閉じる。すると空と合わせている額から、ホカホカとした暖かな温もりが伝わって行き、傷は痛みと共にスーっと消えていった。



「空……」

「……」


この後、空が目を開けたとき……彼は何を失っているのだろう。

知らないでいられるなら、このままずっとこうしていたい。

もう傷一つない体を憎らしげに見つめ、空の服をギュッと握った。




それは、誰も知らない。

青年の願い。



これは、この先も誰にも伝えられない異能者と呼ばれた双子の生涯の物語。






異能と呼ばれる未知の力をご存知だろうか。ある一人の人間から発生的に生まれたものか、あるいは人間なら本来誰もが持っているものなのかは分からない。

結局のところ、その異能と呼ばれる力を完璧に解き明かしたものなど居ないのだ。しかし、世界の歴史の裏には確かにこの力と思われる謎が数多く存在している。

今はなき国の悪行王が革命により捕らえられ処刑された歴史も。ある一族の民が自由を求め世界をさ迷った歴史も。その裏には人には決して実行出来ないような謎がある。


処刑された王は実際は影武者であり、隣国の王となり自国の民を滅ぼした。世界をさ迷った民はうまれた場所より遥か彼方。地球の裏側に渡り、自分達の国を作り、栄え、滅んだ。もともと奴隷として捕らえられていたその民は、拷問により、皆足がなかったという。

王はいつ牢から逃げ出したのか。足がない民はどうやって地球の裏側まで行けたのか。そのどちらも謎のまま、今世紀まで語り継がれている。

歴史は謎に満ち、人々は追求する。しかし、それは決して踏み入れてはならない道だったと、謎を解き明かしたときに後悔するのだ。






**********





過激派グループ『松』は東京都の一角にある古びたビルをアジトにしている。活気ある街並みより少し奥ばった所にあるこのビルは、昭和の時代に会社が倒産したらしく、今も当時の名残を残したまま静かに佇んでいる。

グループ『松』は少数派だ。しかし、力でしか主張できない程度の大人数の他グループと違って、その手癖の悪さは警察も頭を抱え難儀していた。警察内でも『松』が絡んだ事件が起きれば、綿密な計画と会議が行われる。

それでも、警察は幾度も『松』を逃がしている。それは警察よりも優れた知能を持つリーダーの存在があるからだろう。



他グループとの交戦を終えた陸は、リーダーに仕事の報告に向かっていた。もともと会社のため、このビルには社長室がある。そこには当時の社長が使っていた椅子があり、その場所をリーダーだ活用していた。昔のもののため、椅子はカバーが破れ中から綿が出ているが、うちのリーダーはそんな細かいことを気にするような性格ではない。


(作戦に関してもズボラなら楽なんだけどなあ)


今回の交戦は、実を言えば満足な結果ではなかった。リーダーが求めた結果は、もっと完璧でミスの無いものだ。破壊活動は最小限にと言われていたのに、陸はあろうことかビル一本をほぼ壊滅させてしまった。今のところ怪我人等の報告はニュースでは流れていないが、まだ煙が上がるビルがどのチャンネルでも生中継で放送されている。ここまで大事にする必要は無かったために、それなりのお咎めを喰らうだろう。陸は自身のリーダーを好いていない。叶うなら会話さえ避けるぐらいなのに、自分はグループの中でも中官の位置に置かれているため逃げようがない。

陸はリーダーがいる社長室の前に立つと、大きく息を吸い、ゆっくりと吐き出して、ノズルを捻った。



「今帰ったぞ。蛇蠍」



中には社長椅子に座り、優雅に煙草を吹かしている青年が居た。焦げ茶色のレンズがついたサングラスが、大きな窓から射し込む光に反射して、蛇蠍の素顔が伺えない。しかし、様子はわからなくても部屋に漂う煙草の煙と、それにのし掛かる重い空気で大体が理解できた。

現在リーダーは、虫の居所がかなり悪いようだ。



「あぁ、陸か。遅かったな」


加えていた煙草を離し、陸に向かって微笑む。さも今陸の存在を気づいたかのように振る舞っているが、蛇蠍の事だ。陸が扉の前にたった瞬間から気配で察知していただろう。扉を開けたと同時に発砲が無かっただけ、機嫌は最下層という訳では無さそうだ。

いつものように貼り付けた笑みのまま、蛇蠍は陸を見つめる。全く本心を見せない笑顔は、相手に感じたことの無いような恐怖を与え、隙を作らせる。これで未覚醒者とは恐ろしい。蛇蠍は、特別な力を一切持たずしてこのグループを築き上げた。しかし、彼の事を深く知るものは誰もいない。



「私が言いたいことは解るか?」

「……派手にやり過ぎた」

「そうだな。今回は他グループの偵察と、最近回りを彷徨いているネズミ数匹の掃除だった筈だ。お前はそんな簡単な掃除も静かに出来ないのか?」


社長椅子から立ち上がった蛇蠍は、灰皿に煙草の吸い殻を押し付けると、ゆっくりと陸の方に歩いてきた。


「今回の事件が、私達が絡んでいることを警察が知れば今後予定してあるアノ計画にかなりの皺寄せが行く。だから当分は静かにいるようにと、そう忠告していたな」

「っ、でもアイツ等!わざと人が集まる方に逃げやがって。他人巻き込む前に仕留めるにはあれしか」

「言い訳は結構だ」


陸の頬に激しい痛みが走った。能が頭の中でグワンと揺れ、体はバランスを崩す。一瞬の事で受け身も身体向上の異能を使う暇も無かった陸は、そのままヒビが入った壁に頭を打ち付けた。


「っ……!」

「お前のせいで計画は練り直しだ。」


貼り付けの笑みは変わらないと言うのに、その地を這う声が陸の足に絡み動きを封じた。


「…………わりい」

「………、まぁいい。先に戻ってきた空から詳しく事情も聞いている。お前へのペナルティも全て空に与えてある」

「なっ…!まっ待てよ!なんで空が!空は関係ないだろ!」

「本人の要望だ。弟想いの兄を持って良かったな」


蛇蠍が離れた事によって、回りの空気が軽くなった。まだ満足に力の入らない足を引いて、壁を支えに立ち上がる。僅か数分の間にも関わらず、極度の緊張から陸の息は軽く上がり、汗が頬を伝っている。


「話は以上だ。下がっていいぞ」

「……空は」

「屋上で異能の訓練を指示してある。お前が来るまでそこに居るように言ってある」


陸は蛇蠍に返事もせず、フラフラと揺れる体で社長室から出ていった。

蛇蠍は戸が閉まったことを確認し、再び椅子に腰掛ける。胸元のポケットから煙草を取り出そうとしたとき、フッと外の音に気づいた。


「そう言えば、雨が降っていたな」


陸がアジトに戻ってきた辺りから降り始めた雨。おそらく陸は雨の事に気づいていないだろう。空はどんな天候でも顔色一つ変えず、言いつけを守って屋上にいるはずだ。


「そういえば、空は今日『ただいま』を言わなかったな」


空の中でその言葉が消えたのか。空が仕事から戻る度に、彼は確実に『人』から離れていく。その事実を知りながら、逃れられない絶望に、陸の心も壊れるのは近いかもしれない。


「まあ。私の野望に役立つなら、何でもいいが」


煙草に火をつけフーッと煙を吐き出す。外の世界は、いっそう激しい音を響かせていた。



***********




上に、上に。ビルの頂きを越え、更なる高みへ。降りしきる雨にうたれ、服の重みが増そうとも、上に、上に。守るべき者のために……。





屋上へと続く階段を登りながら、陸は先ほどの蛇蠍の言葉を思い出していた。

蛇蠍は、陸に代わり空にペナルティを与えたと言っていた。主にサポート役をしている空が、前戦に立つのは希だ。と、いっても空だって蛇蠍直伝の体術を心得ているのだから、一般人よりは手強いだろう。それでも、ペナルティで空が前戦に立つように言われたとは思えない。



空の能力は異端の中でも稀に見るものだ。異能を使うとき、基本それに代償というものはない。しかし、空の治癒の異能には、本人に大きな負担と代償がのし掛かる。空は異能を使う度に、『何か』が減っていく。

それは、細胞だったり、学力だったり、語彙力だったりと治癒する怪我の限度により変わってくるが、生死を分けるほどの重傷者には己の命を減らしてしまう。

異能を使う度に、どんどん『人』としての意志疎通が出来なくなっていく兄を、陸は守るのだと誓った筈だ。

なのにこの不甲斐なさはなんだ。自分の不始末を空が拭い、己はお咎めなしと来た。








空はペナルティとして仕事を多く追加されるだろう、その度に異能を使い『人』から離れていくのだろう。

陸は力を込めた拳を壁に打ち付けた。ふがいない自分が何とも情けない。


「……いてぇ」


拳がヒリヒリと痛む。結局この傷も、先ほど蛇蠍に叩かれて出来た頭部の痛みも、空が我が身を削って癒してくれるのだろう。

不甲斐ないと言ってるのに、結局空の力に甘えているのは自分ではないか。


「………」


これ以上、深く考えるのはよそう。

長い長い階段を上り、屋上の扉にたどり着いた。外からは雨の匂いが漂っていて、空は濡れていないだろうかと扉を開けた。


「そ……」


陸は目の前の光景に息を飲んだ。

屋上はザーッと降りつける雨に濡れ、所々水溜まりが出来ている。しかし、一ヶ所だけ雨雲の切れ目から射し込む光が、ちょうど空が立つ屋上を照らしていた。

空の回りの雨だけが、スローモーションのようにゆっくりと落ちる。雨の形が解るほど、ゆっくりと、ゆっくりと……。

その光柱の中で目を閉じている空は、落ちる雨に逆らうように、空へと足を浮かせた。まるで天に召されるように、光に沿って空に浮く。幻想的で、美しい、その世界に。

陸は悲鳴を上げた。



「行くな!!空!!」



既に手では届かないところまで浮いている空を、陸は異能を使い高く飛び上がった。天へ昇る空の腰を掴み、重力に任せて地上に落とす。

空の重力を操る異能は、一人しか効果が出せない。二人分の重力をコントロール出来るはずもなく、二人は屋上にドスンと落ちた。

幸いそこまで高い位置では無かったために怪我は無かったが、陸は空の腰を掴んだままで、雨に濡れるのも構わずにいる。

スローモーションだった雨は通常のスピードで降りつけ、空を元の世界へと連れ戻した。

陸は変わらず空の腰にしがみついたまま。よく見れば彼の体は小刻みに震えていた。


「りく?」


空はなぜ陸はが震えているのかも分からず、ただ顔を伏せているその体を包むように抱き締める。

どこか怪我でもしているのだろうかと、手探りで陸の頭を撫でたとき、大きなコブが出来ていた。

「陸、大丈夫。すぐに、治すから」


濡れた緑色の髪を優しく撫でてそのコブを癒す。少しずつ小さくなるコブが完全に消えたとき、陸は顔を上げてくれるだろうか。


「陸、まだ痛い?いたいとこない?ね、りく」


コブが無くなった頭を撫でながら空は優しく問いかける。それでも、陸は顔を上げてくれなかった。


「りく?痛い?つらい?」

「………っ。く、るしい……苦しいよ。なぁ空、空……そら」

「りく、どこ苦しい?僕に治せる?治ったら、笑ってくれる?」

「そら、頼むから……頼むから、どこにも行かないでくれ。俺を、独りに……しなっ」

「りく?大丈夫?大丈夫。僕、ここ」


空には、陸の願いは届いていないのだろう。ここにいる。どこにも行かないと繰り返し囁く声はあれど、陸が聞きたい本当の意味はそこではない。

どんどん意志疎通が出来なくなっていく空。

自分の知らない存在になっていく空。

自分自身さえわからない空。

それでも、他者に無条件に優しくし、今でも懸命に陸を笑わせようとする空。

世界の全てが、自分から空を奪おうとしている。空はそれに気づかずに、誰にでも優しくし、己をどんどん壊していく。

世界はなぜこんなにも、自分達に優しくないのか。

なのに、世界はなぜこんなにも空を必要とするのか。

幼子のように、わんわんと泣きわめけたらどんなに楽だろうか。そうすればこの心の奥底にたまる不安が、少しでも空に届くだろうか。

陸が恐れるのは、空が己の側から離れることだ。

先ほどの光景は、陸にとって地獄だ。空が目の前から居なくなる。恐ろしく、絶望的で、それでもなぜか現実味のある。陸の恐怖だった。


「陸、りく。ねぇ、顔上げて?笑って。笑って。僕、陸の笑顔が大好き」


上から降り注ぐ雨音と共に聞こえる優しい声を。陸は唇を噛み締めながら一文字一句聞き逃さないようにしていた。

今、顔を上げることは出来ないが、もう少しすれば笑えるようになるから。いつもの少し困ったようなはにかんだ顔を上げるから。

今はまだ、この腕で、この耳で、この全身で空が居るという現実を感じていたい。

それぐらい、この冷たい世界も許してくれるだろう。




つづく

この度は、ご多忙の中お目を通していただきありがとございます。続話も早めはやめに投稿できるよう頑張っていきます。

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