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4.

 ソフィアは日に日に痩せていく。

 王城での新しい暮らしになれないのだろう、かわいそうに。

 

 私達がセリモラ島で暮らしていた頃の主食は小麦をこねた手製のパン。山羊のミルクで作ったチーズやケーキ、家庭菜園で育てた葉物野菜やベリー類が食卓に多く並んだ。

 ソフィアは食欲旺盛で、毎日もりもりたくさん食べていたので、頬などはつやつやでふわふわしていたというのに、悲しいかな、今はげっそりとこけ、顔色も白い。

 そうだ、昔からソフィアは食べ物を一度頬にためこんで、幸せそうに微笑みながら咀嚼を始める癖があって、私はそれを見るのが好きで、食卓はいつもとても楽しかったものだ。

 それが今では、食事の時のソフィアときたら、まるで死刑宣告を待つ罪人の様な顔をしている。

  

 なぜ、ヴァレンタインや城内の者は、彼女をかように酷く扱うのだろう。

 おじいに詰め寄ろうにも、婚儀以来、とんと姿を見かけない。

 まったく、じいめ。どこに逃げおった。

 城内を探索すればするほど、この王城はとことん胡散臭い場所だと知る。

 敷地内には窓のない塔があるのだが、それは明らかに罪人を幽閉するに違いないおどろおどろしい造りをしている。施錠されてはいるが、私にはそんなものはあってないも同然で、この世もあの世もその世もどの世も、フリーパスで一瞬で行ける。でも、行きたくないんだなぁ、その塔のなかにだけは。


 それに、気になることがある。

 ヴァレンタインの自室を出てすぐの廊下の壁に隠し扉があり、彼は日に何度もその扉を開き、中に眠る青年を見舞う。

 ベッドで寝たきりのその青年は、ヴァレンタインと似た面差しをしており、暗い髪色も同じなので、おそらく彼の兄弟の一人であると思われる。

 その青年は、寝言がすごい。寝たきりのままで会話と思しき意思疎通が可能なほどに優れた寝言を自在に駆使する恐るべき使い手だ。それに、体中からあふれ出る魔力が半端ではない点も無視できない。

 そうそう、使用人たちの中にも、怪しい者が多々見受けられる。

 戦闘能力の高さをうかがわせる戦士のごとき身のこなしを持つランドリーメイドや、これまた高い魔力をダダ漏れさせたパーラーメイドがいる。

 毒蛇の巣とヴァレンタインが例えたこの王城は、別名ケーニカ城と呼ばれ、敷地内には議場がある。

 そこは、催事や政一部を取り仕切る法王庁の管轄下にあり、毒蛇を生み出す温床はまさにその議場であった。

 ヴァレンタインの叔父であるロメロ・バル・ジルゼロイドが法王であり、太っており、いつも何かしら食べている。彼からは、だらしなく邪悪な気配が迸っている。それは、光であり、匂いであり、色であり、熱でもある。全てが、彼は忌避すべき存在であると私に教える。つまり、あいつは激やばい。


 といった話をベッドの中で、御伽噺のかわりにソフィアにしたのだけれど、かなり不評だ。

 眠れなくなるからやめてよと、おびえた顔で叱られた。

 謝罪の代わりに全身の毛を膨らませ、寝間着からさらけ出されたソフィアの素肌のあちこちにこすりつけ、ありったけのもふもふ加減で癒そうと試みると、ソフィアはくすぐったいよと甘い声で笑う。

 もっと元気になれ。そのためなら、なんでもするよ。

 

「お願い、オルガ。抱きしめてほしいの」

「喜んで」


 ヒト型を取り、ソフィアを抱きしめ、眠るまで背中をさすり、髪を撫でる。

 子守唄を歌えば、ソフィアはあっという間に夢の中に落ちてしまった。

 無理もない。

 多くの人間に囲まれて暮らす王城での生活は、これまでのソフィアの暮らしとはかけ離れ過ぎている。

 それというのも、セリモラ島は、人間よりも幻獣の数が多く、人間はみな島のはずれの窮屈な城塞都市に閉じこもり、幻獣たちから身を守るように暮らしているのだ。だが、ソフィアたちだけは違った。

 彼女とおじいを傷つける者には私が容赦ない制裁を加えるので、幻獣たちはソフィアとおじいにだけは手出しはしなかった。そのため、二人だけは城塞都市を離れ、幻獣たちの支配エリアで彼らと平和に共存できていたのは紛れもない事実だ。

 ただ、それを実現させたのは私の力ばかりではなく、ソフィア自身に内在する能力によるところも大きい。

 おそらく、今回ソフィアが無体な結婚を強いられたのも、その能力に依るものが大きいはずだ。

 今はまだ半分眠ったままのその力が全貌を現す時、ソフィアを取り巻く運命が逆転することだってあり得る。

 それでもどんな時でも 私の存在が、少しでもソフィアの力になれますようにと、窓の外の降るような星空に願わずにはいられない。静かな、寒い夜だった。

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