第21話 救済の副作用
条件付き配給が始まってから、救援地の空気は一変した。
列は整い、暴力は減った。
数字上は、確実に“改善”している。
「……だが、笑顔が消えたな」
倉庫の影で、クラウスが呟いた。
配給を受け取る人々の顔は硬い。
感謝よりも、警戒が先に立っている。
「登録していない者は、後回しだ」
「働けないなら、申告しろ」
連合兵の声は淡々としていた。
正しい。正しすぎる。
アレンは、その様子を遠巻きに見ていた。
「秩序は戻りました」
「……代わりに、敵意が生まれた」
クラウスの言葉に、アレンは否定しなかった。
「救われたという感覚が、失われました」
「ええ」
「人は、施される側に回ると、必ずそうなる」
クラウスは、唇を噛んだ。
「私は、感謝されるつもりはなかった」
「それでも、期待はしていた」
「……そうだな」
その日の午後、救援地の外れで小さな集会が開かれた。
「連合は、約束を破った」
「最初は、誰でも救うと言った」
声は小さいが、確実に増えている。
そこへ、一人の老人が立ち上がった。
「……あの時、グランツは助けなかった」
ざわめき。
「だが、正直だった。
最初から、できないと言った」
その言葉は、刃のようだった。
クラウスは、その報告を聞き、目を伏せた。
「……正直さで、負けたな」
「いいえ」
「?」
「あなたは、正直になる途中です」
アレンの声は、静かだった。
夜。
二人は、火の落ちかけた焚き火を挟んで座っていた。
「私は、救えると信じすぎた」
「それは、罪ではありません」
「だが、今は……」
クラウスは、両手で顔を覆った。
「誰もが、裏切られた顔をしている」
「期待は、裏切られた時に憎しみに変わります」
「君は、それを知っていた」
アレンは、ゆっくりと頷いた。
「だから、最初から線を引きました」
翌日。
救援地の一角で、倉庫火災が起きた。
原因は不明。
だが、放火の可能性が高い。
「……象徴だな」
クラウスは、黒煙を見上げて言った。
「救済が、敵意に変わる瞬間です」
「君は、これを止められるか」
「完全には、無理です」
アレンは、はっきりと答えた。
「ですが、拡大は防げます」
「どうやって」
「責任を、明確にする」
その言葉に、クラウスは顔を上げた。
「……私が、前に出るべきか」
「はい」
数時間後。
救援地の中央で、クラウスは民の前に立った。
「……私の判断で、配給に条件を設けた」
ざわめき。
「誰もを救えると言ったのは、私だ。
それができなかったのも、私だ」
その場に、静寂が落ちる。
責任を取る者が、初めて姿を見せた。
遠くから、それを見ていたアレンは、目を閉じた。
「……遅いが、正しい」
その夜、エレナが報告を持ってきた。
「王国で、大規模な徴発が始まりました」
「……英雄が、限界に来ていますね」
戦後処理官は知っている。
救済とは、与えることではない。
――引き受けることだ。
そして、その重さに耐えられない者は、
必ず、誰かを傷つける。
(第21話 了)
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