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無能と追放された〈戦後処理官〉、英雄たちの失敗を全部押し付けられていただけでした 〜戦争は勝ったのに滅びる国で、俺は“後始末”を任された〜  作者: 風牙シオン


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第19話 救われたはずの命

 中立連合の旗が、平原に並んだ。


 白地に青の紋。

 どこの国にも属さないことを示す、簡素な意匠だ。


「……来ましたね」


 城壁の上からそれを見下ろし、アレンは呟いた。


「想定より、大規模です」

「三千は動いています」


 エレナの声は淡々としていたが、その数字が持つ意味は重い。

 食料、医療、治安部隊。戦後救援としては、申し分ない規模だ。


 先頭の馬から降りた男が、ゆっくりと歩み出る。


 長身。簡潔な装い。

 官僚の服だが、無駄がない。


「中立連合復興監察官、クラウス・フェルナーだ」


 名乗りは、静かだった。


「グランツ王国の戦後処理官、アレンと聞いている」

「本人です」


 二人の視線が、正面から交わる。

 どちらも、相手の目を逸らさない。


「境界地域への救援を開始する」

「把握しています」

「反対は?」

「……ありません」


 クラウスは、わずかに眉を上げた。


「意外だな。君は、線を引く男だと聞いていた」

「今も、そのつもりです」

「では、なぜ止めない」


 アレンは、少しだけ間を置いて答えた。


「あなたのやり方は、正しいからです」


 その言葉に、リーゼが小さく息を呑んだ。


 クラウスは、ふっと笑う。


「君も、そう思うか」

「ええ。ただし――」


 アレンは続ける。


「“今は”です」


 クラウスの視線が、鋭くなった。


 救援は、即座に始まった。


 炊き出し。仮設医療所。

 子供たちの泣き声が止み、歓声が上がる。


「助かった……」

「本当に、来てくれた」


 人々は、クラウスの名を口にし、

 中立連合を称えた。


 その様子を、グランツの兵たちが遠巻きに見ている。


「……あれを見たら、誰でも信じます」

「ええ」


 マルクの言葉に、アレンは頷いた。


「そして、期待します」


 数日後。


 噂は、想像以上の速さで広がった。


「中立連合が、村を救った」

「グランツは、見捨てた」


 比較は、残酷だ。

 結果だけが、真実として語られる。


 リーゼは、報告書を握り締めていた。


「……民の支持が、流れています」

「分かっています」

「あなたの判断が、間違っていたと――」

「言われるでしょうね」


 アレンは、否定しなかった。


 その夜、クラウスはアレンを訪ねてきた。


 応接室。

 二人きり。


「君は、救えるのに救わなかった」

「はい」

「私は、救った」

「ええ」


 クラウスは、机に地図を広げる。


「ここも、ここも、我々が支援する。

 人は生き延びる。国がどうなろうと」


 アレンは、静かに地図を見つめた。


「物資は、どこから?」

「連合の備蓄だ」

「補充は」

「……これから考える」


 アレンは、視線を上げた。


「クラウスさん」

「なんだ」

「あなたは、優しい」


 それは、皮肉ではなかった。


「だが、長くは持ちません」

「それでも、人は生きる」

「一時的に、です」


 クラウスは、少しだけ沈黙したあと、言った。


「君は、冷たいな」

「ええ」


 アレンは、即答した。


「だから、国が生きています」


 その頃、救援地域では。


 食料を巡る小さな争いが起き始めていた。

 列に割り込む者。

 配給に不満を言う者。


 誰もが、救われたはずだった。


 ――はず、だった。


 アレンは、城壁の上でその報告を聞き、目を閉じた。


「……始まりましたね」


 これは、誰かが間違ったからではない。

 善意が、現実に追いついていないだけだ。


 戦後処理官は知っている。

 救われた命は、

 “救い続けなければ、すぐに重荷になる”。


 そしてそれを、

 誰が引き受けるのかという問いは――

 まだ、答えられていない。


(第19話 了)

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