第15話 信用の代償
使者の数が、目に見えて増え始めていた。
城門前に並ぶ馬車。
掲げられる紋章は、グランツよりも大きく、古い。
「……周辺三国から、正式な照会です」
エレナが書類を置く。
「内容は、ほぼ同じ。“なぜグランツだけが安定しているのか”】【支援を受ける条件は何か】」
アレンは、書類に目を通しながら言った。
「想定より早いですね」
「羨望と警戒が、同時に来ています」
「当然です」
国が滅びる中で、一国だけが踏みとどまれば、それは異物になる。
応接室では、外交官たちが慎重な笑みを浮かべていた。
「グランツ王国の復興は、奇跡だと聞いています」
「奇跡ではありません」
「では、秘訣は?」
「責任の所在を明確にしただけです」
外交官たちは、微妙な顔をした。
誰もが欲しがり、誰もが避けてきた答えだった。
「我が国としては、協力関係を――」
「条件があります」
アレンは、淡々と告げる。
「人の流入制御は、グランツ主導で行うこと」
「……それは」
「感情論で国境を開けば、全てが崩れます」
外交官は、言葉を濁した。
「貴国は、冷酷だという噂もあります」
「ええ」
「それでも、信用できると?」
「信用とは、“期待を制限すること”です」
沈黙。
やがて、数名は席を立ち、数名は条件を持ち帰った。
――全員は、残らない。
それでいい。
だが、代償は確実に積み上がっていた。
「反グランツ同盟、という言葉が出始めています」
夜、エレナが報告する。
「救われなかった地域を中心に、“冷酷な国家への対抗”を掲げて」
「政治的には、自然な流れですね」
リーゼは、黙って地図を見つめていた。
「……あなたのやり方は、正しい。でも、孤立を招く」
「承知しています」
アレンは、即答した。
「だから、内部は完璧に守ります」
「外は?」
「外は――制御します」
その言葉に、リーゼが顔を上げる。
「制御?」
「戦争ではなく、戦後で」
リーゼは、何かを言いかけて、やめた。
同じ頃、王国。
勇者レオンは、荒れた執務室で拳を握り締めていた。
「……グランツが、周辺国と直接交渉している?」
「はい。条件付きですが、成果を出しています」
「俺たちは、何をしている」
答えは、ない。
英雄の時代は、終わりかけていた。
一方、グランツ。
アレンは、一人で城壁の上に立っていた。
夜風が、重い。
「信用を得るということは……敵を得ることでもある」
マルクが、隣に立つ。
「覚悟はできてるか」
「最初から」
街の灯りが、遠くまで広がっている。
守られた光。
そして、その外側に広がる闇。
戦後処理官は知っている。
信用とは、好かれることではない。
――嫌われる覚悟を、積み重ねることだ。
(第15話 了)
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