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無能と追放された〈戦後処理官〉、英雄たちの失敗を全部押し付けられていただけでした 〜戦争は勝ったのに滅びる国で、俺は“後始末”を任された〜  作者: 風牙シオン


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第14話 正しいが、優しくはない

 境界の村が、完全に崩壊したという報告は、紙一枚で届いた。


 簡潔で、感情のない文章だった。

 略奪。放棄。生存者不明。


 アレンはその報告書を読み終え、静かに机の端へ置いた。


「……予定通りですね」


 エレナは何も言わなかった。

 言葉にすれば、どちらかが壊れる。


 その日、グランツの城下町では、いつも通りの一日が流れていた。

 市場は開き、炭鉱は動き、倉庫には物資が積まれている。


 国は、守られた。


 だが、守られたがゆえに、失われたものもある。


「殿下がお呼びです」


 兵の声に、アレンは頷いた。


 謁見の間にいたリーゼは、以前よりも少しだけ疲れて見えた。

 王女としてではなく、一人の人間として。


「境界の件、聞きました」

「はい」

「……あなたの判断は、結果として正しかった」


 その言葉に、アレンは驚かなかった。


「グランツは安定しています。備蓄も持ち直した。周辺国が混乱する中で、ここだけが“持ちこたえた”」

「それでも――」


 リーゼは視線を伏せる。


「私は、納得できません」


 アレンは何も言わない。

 反論も、説得もしない。


「助けを求めた人々は、確かに存在した」

「はい」

「あなたは、その存在を切り捨てた」


 リーゼは、はっきりと言った。


「それが正しいと、私は理解しています。……でも、受け入れられない」


 沈黙。


 やがてアレンは、静かに答えた。


「それでいいと思います」

「……え?」

「全員が同じ価値観であれば、もっと多くが死にます」


 リーゼは、アレンを見る。


「あなたは、私が“優しさ側”に立つことを、止めないのですね」

「止めません」


 アレンは、淡々と続ける。


「あなたが人々の感情を受け止め、私が現実を受け止める。それで、ようやく均衡が取れる」


 リーゼは、しばらく考え込んだあと、小さく笑った。


「……あなたは、ずるい人です」

「よく言われます」


 その日の夕方、城下町で小さな集会が開かれた。


 王女リーゼが、人々の前に立ち、語る。


「この国は、全ての人を救えるわけではありません」


 ざわめき。


「それでも、救える命を増やす努力は、続けます」


 感情に訴える言葉。

 希望を失わせないための言葉。


 一方で、アレンは城の奥で、新たな布告を書いていた。


 ――支援範囲の再定義。

 ――境界警備の強化。

 ――流入制御の明文化。


 国は、より堅くなった。


 夜。

 マルクが、酒瓶を持ってやって来た。


「境界の村、完全に終わったな」

「はい」

「後悔は?」

「……後悔は、あります」


 マルクは眉を上げた。


「珍しいな」

「正しい判断でも、痛みは残ります」


 マルクは、しばらく黙ってから言った。


「それでも、あんたの判断で、この街は生きてる」

「ええ」


 窓の外、城下の灯りが揺れている。

 守られた光だ。


 その光の届かない場所が、確かに存在する。


 アレンは知っている。

 正しさは、万能ではない。


 だが――


「それでも、私は線を引き続けます」


 それが、この世界で生き残る唯一の方法だと、知っているから。


 戦後処理官は、今日も嫌われ役を引き受ける。


 正しく、そして――

 優しくはないやり方で。


(第14話 了)


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