表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/28

スタンプは感情を映す

 夜。

 風呂上がり、髪をタオルで拭きながらスマホを見た。

 通知欄に“榊ボタン”の文字。


『質問。明日の課題、提出フォーマット確認』


 ……うん、安定のテンション。

 どうせなら「こんばんは」ぐらいあってもいいと思うんだけどな。


『フォーマットはA4。校内アドレスあるんだから、そっちで連絡しろよ』


 送って数秒で既読。

 そして返ってきたのは、相変わらずの論文モード。


『不合理。メッセージアプリの方が通信の往復時間が短い。さらにUIが直感的であり、心理的ハードルが低い。校内アドレスは卒業後アクセス不能、ログ消失のリスクあり。よって非効率』


「……長ぇ」


 風呂上がりのリラックスタイムを全力で論破してくるタイプ。


『はいはい、合理的な理由了解』


 短く返した。

 その直後、画面にスタンプが飛んできた。


 頬をぷくっと膨らませたキャラが「ぷんっ」。


「……スタンプ? ボタンが?」


 なんか、脳が一瞬バグった。

 こいつが使うには、あまりにも“人間味”がある。


『意外。スタンプ使うタイプなんだな』

『感情表現の補助ツール。誤読を防ぐためのノイズ制御』


 そう返ってきたあと、うさぎが土下座してるスタンプ。


「ノイズ制御っていうか、情報量爆発してるんだが……」


 それから、なぜか会話が続いた。

 要件の合間に、ボタンが感情の代わりみたいにスタンプを投げてくる。

 怒りマーク、照れ笑い、無表情のカエル。


 文面はいつも通り冷静なのに、画面の中は、やけに賑やかだった。


 ……あいつ、今どんな顔でこれ送ってんだろ。

 無表情のまま“ぷんっ”押してたら、それはそれで破壊力ある。


『観察対象、明日の天候確認を推奨』

『了解。観察者も外出予定?』

『別に、君を追跡するわけではない。たまたま経路が一致するだけ』


 ――猫が草むらから覗くスタンプ。


「それ完全に追跡宣言だろ……」


 思わず笑って、スマホを置いた。


 不思議だ。

 テキストでは何も動かないのに、スタンプの中だと、ボタンがちょっと生きて見える。


 無機質な観察者が、絵文字一個でここまで“人間”になるなんて、誰が予想しただろう。


 SNSの中のほうが、あいつの温度がわかりやすい――

 そんな矛盾が、妙に心地よかった。


 画面の光が少しだけ温かくて、寝る前の通知音が、やけに柔らかく響いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ