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【第一章】第一話『水牢の美少女メイド拷問の日々』

 冷たい水が、膝まで満ちていた。石造りの床は滑り、氷のように冷たい。立ち続ける脚は既に痺れ、感覚が薄れ始めている。それでも私は倒れ込むことは許されない。膝下の水に身を沈めれば、冷えが心臓にまで届き、二度と立ち上がれないだろう。


 この水牢に連れてこられたのは、ほんの数日前……いや、一週間ぐらい前だったのかもしれない。けれど、この暗闇と寒さの中では時間の感覚がなく、実際はもう分からなかった。三姉妹の屋敷に巣食う従者や庭師、警備兵たちに囲まれ、両腕を掴まれ引きずられるように石畳の廊下を進まされたことだけが、鮮明に記憶に残っている。私の名はセリーヌ。貧しい村で飢えをしのぐ生活をしていた私が、この屋敷に売られたのはほんの数か月前のこと。華やかな宴や煌びやかな庭園を夢見ていたあの頃の私に、この結末を教えてやりたい。


 廊下を進むたび、私の裸足は冷たく湿った石に痛みを覚えた。曲がり角のたびに、壁にかけられた燭台の炎がゆらゆらと揺れる。従者の一人が鎖をじゃらつかせ、私の首にかけていた縄を引く。庭師は無表情で後ろから私の背を押し、警備兵は冷たい眼差しで前方を見据えている。彼らにとって、これが日常なのだ。


 重く軋む扉を抜けると、そこはじめじめとした地下の空間だった。カビと鉄錆と湿った石の匂いが鼻を刺す。水滴が天井から落ち、ぽたり、ぽたりと、私の耳を苛む。


 やがて私の両手は頭上に吊られ、膝下までの水に立たされる。敢えて吊るした縄は緩くされていた。痛いが気を抜くと水の下に顔をつけてしまう。だから……眠ることも、腰を下ろすことも許されない。少しでも気を抜けば、冷たい水が私の命を奪う。悪意そのもの……。


 ──ギィ……。


 奥の扉が重く軋み、足音が近づいてきた。赤いドレスに身を包んだ長女イザベラが、蝋燭を掲げて姿を現す。その首筋に影が落ち、瞳は氷のように冷たい。続いて金髪を揺らす次女マリーベルが扇子で口元を隠し、唇の端に笑みを浮かべた。最後に現れたのは、無邪気な笑みを浮かべた三女シャルロッテ。小さな鈴を指で弄び、足元の水を軽くはねさせる。


「まあ、まだ生きてるのね。しぶといこと」イザベラの声が低く響く。

「ねえ、お姉さま。今日からが本番でしょう?」マリーベルが扇子を閉じ、期待に満ちた瞳で私を見下ろす。

「ふふっ、どんな声で泣くのかしら。楽しみだわ」シャルロッテがしゃがみこみ、水面を覗き込む。


 心臓が強く脈打つ。恐怖に足が震えるが、鎖に吊られた腕は痺れて力が入らない。冷たい水が骨の芯まで染み込み、絶望がじわじわと心を侵していく。


「さあ、始めましょう」イザベラが指を鳴らす。従者たちが鎖や桶を運び込み、地下室に水音と鉄の響きが混じり始める。水牢はざわめき、さらなる恐怖の時間が幕を開けた。


 鉄の棒に手かせと足かせをつけられ、私は冷たい石の床に無理やり寝かされた。鉄は骨に食い込み、肌の上に冷たく重くのしかかる。鼻をつくのは湿った石と鉄錆、そしてどこかにこびりついた古い血の匂い。石造りの地下室は暗く、壁からは絶えず水滴が落ち、ぽたり、ぽたりと音を立てていた。


 顔の上に濡れた雑巾が落とされた瞬間、世界が暗く閉ざされる。ひやりとした感触が鼻と口を覆い、冷たい水がじわじわと染み込んでくる。息ができない。胸が焼けるように痛み、肺が悲鳴を上げる。必死に体をよじるが、鎖がじゃらりと鳴るだけで、自由はどこにもなかった。


 胸が破裂しそうになったとき、意識は暗闇に引きずり込まれる──そして、


 ──バシャッ!


 氷のような水が顔に叩きつけられた。私は激しく咳き込み、喉が焼けるように痛む。腹の中は水で重く膨れている。長女イザベラが冷たい手で私の腹を押すと、耐えきれず口から水が溢れ出た。その瞬間、甲高い笑い声が響く。


「見て、お腹から水が出たわ! まるで魚みたい!」

「次はわたしが遊ぶ番!」


 笑い声にかぶさるように、再び雑巾が顔に落ちる。視界は水と暗闇に閉ざされ、肺が軋み、頭が割れるような圧迫感が押し寄せる。喉が勝手に水を吸い込み、胃が冷たい液体で満たされていく。意識は遠ざかり、しかしまた水をぶつけられ、強制的に引き戻される。そのたびに、耳に焼き付くのは三姉妹の笑い声だった。


 やがて、三姉妹が飽きたのか、従者や庭師たちが取り囲む。靴音と笑い声が反響し、冷たい手が腕や足、髪を乱暴に引っ張る。湿った吐息が耳元にかかり、恐怖が全身を締め付ける。

「いいんですかい? お嬢様……こんな上たま好きにしていいなんて……」

 庭師の男が興奮した口調で醜悪な顔を私に見せていた。

「私たちの王子さまをたぶらかした罰よ。乱暴にしていいわよ」

 男たちはそれを聞いて「ありがたい、この屋敷に仕えて良かった」

 と屋敷に巣食う仲間と頷き合っていた。

 おもむろにズボンを脱いだ獣たちの一物は大きく私の理性を失わさせるには充分だった。

「逃げられないわよ、セリーヌ」

「ほら、まだ目が開いてる……もっと面白くしてあげる」


 笑い声と水音が、湿った石壁に何度も反響する。冷たい床の感触、濡れた雑巾の重み、そして体を這う無数の手。胸の奥から嗚咽が漏れた。絶望しかない暗闇の中で、私の中に静かに膨れ上がるのは、冷たく重い憎悪だった。


 いつか必ず、この笑い声を沈めてやる──そう心に刻みながら、私は再び暗闇に沈んでいった。


 最初の本格的な拷問から、どれほどの時が過ぎたのか分からない。水牢の冷たい水は、膝まで満ちたまま変わらず、鎖の食い込む痛みも日常に溶け込んでしまった。けれど、心は確実に削り取られ、冷たい空洞になっていく。


 あの日、私の歯はすべて抜かれた。自死を防ぐためだと笑いながら、長女イザベラは顎を乱暴に掴み、鉄の器具で一本ずつ歯を引き抜いていった。骨に響く鈍い痛み、鉄と血の味が口いっぱいに広がる。

「これで、もう舌も噛めないわね。死ぬことすら許されないのよ」

 イザベラの冷酷な言葉が耳に残り、胸の奥で何かが凍り付いた。


 その日を境に、三姉妹は姿を見せなくなった。代わりに現れるのは、夜ごと水牢に降りてくる醜悪な男たち。水音と靴音が階段を下りて近づくたび、冷たい恐怖が背骨を這い上がった。

「まだ生きてるな……」

「今日はどんな顔を見せるか楽しみだ」

 湿った笑い声が闇を満たし、石壁に反響して幾重にも重なる。獣のような視線が肌にまとわりつき、鎖がわずかに震えるほど私は身を固くするしかなかった。


 体を逃がす場所も、目を閉じて現実を拒む勇気もない。ただ、荒い息と水滴の音だけが世界を支配する。暗闇の中で響く靴音と、耳元に感じる湿った吐息。胸が張り裂けそうな恐怖に、喉の奥でかすかな声が漏れた。

「……やめて……」

 その小さな声は、闇に呑まれて誰にも届かない。


 やがて、男たちの足音も笑い声も途絶えた。水牢には水滴の音と、私の荒い呼吸だけが残る。闇は深く、世界は水と鎖と石しかなかった。


 その孤独の中で、胸の奥に生まれたのは、冷たく重い感情だった。恐怖に凍えながらも、静かに膨れ上がるのは、すべてを沈めてやりたいという暗い願望だけ。かつての怯えは、やがて鋭い刃に変わり、私の心の奥底でひそやかに光を帯びた。


 

⚠ ご閲覧前にお読みください【R15相当の表現を含みます】⚠

この作品には、暴力・拷問・身体損壊・死・怨恨・呪術的描写など、精神的・肉体的苦痛を連想させるグロテスクな表現が含まれております。

特に【復讐・裏切り・支配・生贄・呪い】といった重いテーマを軸とした物語構成となっております。


近年の映画・VODサービス(NetflixやAmazon Prime等)でもR15指定として分類される作品群と同等の表現レベルを意識しており、視覚的な直接描写は抑えつつも、文章によりイメージ喚起される残酷性・心理的衝撃を重視しています。


◆ ご注意ください

体調がすぐれない方、情緒が不安定な方、過激な復讐劇・ホラー描写に敏感な方は、無理な閲覧をお控えください。


読了後、気分の悪化や不安・睡眠への影響が出る可能性がございます。


万が一、不快な感情が生じた場合は、すぐに読書を中止し、心身を休めてください。


◆ 本作の表現方針について

本作は**復讐のカタルシス(浄化・解放)**を読者の皆様に届けるため、主人公の過酷な体験や精神の変化をリアルに描いています。

過激な描写は、単なる残虐さのためではなく、「圧倒的な理不尽と痛みに晒された者が、それでもなお立ち上がる物語」を演出するためのものです。


同作者による夏のホラー企画第一弾『河童になった少年』よりはマイルドな構成ですが、明確な暴力と心理的な闇を含むため、全年齢向けではありません。


読者の皆様にとって、少しでも「怒りが癒される」「気持ちが代弁された」ような体験を届けられることを願い、誠実に書き進めております。


慎重に、そしてご自身の体調と心に配慮しながらお読みいただければ幸いです。


――作者拝

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