理不尽な存在
淵之宮についての大まかな本質と役目を聞いた慎一郎は、
「そこまで知っている…いや、理解しているって事は、楽羅も淵之宮の修行とかやった事あるだろ?」
慎一郎の言葉に、楽羅は苦笑する。
「やっばり分かっちゃうんだ…
多分普通の人なら、淵之宮の異質さに気を取られて、そこに食いつくんだろうけど…」
「いや、楽羅が淵之宮の修行をした事があるなら、空気に能力を反映できるのも納得できる、って思ったからな。
感覚を極限まで研ぎ澄まし、それを広げて溶かす…
正に楽羅が能力を使う時にやってる事、って気がした。
逆に言えば、それを意識して…あるいは感覚として自然にできるから、あれほどの能力を使えるのも不思議じゃない…
あと、淵之宮の屋敷を見た時には…最初、城って印象を持ったんだ。
でも、淵之宮の役目を考えると…城じゃなくて【結界】なんだろうな…
淵之宮の異能を、最大限強化する為の…あるいは…
その研ぎ澄ました【感覚】を護る為の結界。
屋敷、二重の塀を含めた全て…もしかすると、この山丸ごとが結界として機能してるのか?
だから、楽羅は妹さんが淵之宮を離れて使いに出ているのを驚いたんだろ?」
思考しながらそれを口に出していく慎一郎を、楽羅は改めて凄まじいと思った。
慎一郎は、逆神としての戦力だけでも十分過ぎる脅威なのだが…真に恐ろしいのは、その天性の洞察力。
今の慎一郎の考えは、正しい。
淵之宮の敷地内に、道や塀、建物を用いて大規模な結界を構築して機能させているのも事実。
楽羅が淵之宮の血による才能と…1年間という短い間だったが、淵之宮の修行を経たからこそ掴んだ感覚。
その常人には理解すらできない感覚を、能力を発現させる時に活かすからこそ、楽羅は広範囲に極限の能力を反映させる事ができるのだ。
能力を発現できない慎一郎は、ついさっき遥に対し、
『能力はイメージした事象を現実化する力』
と言っていた。
完璧な答えだと、横で聞いていた楽羅は思った。
能力というのもについて、これ以上簡潔で的確な答えはない。
慎一郎は、能力を発現できないにも関わらずに、その洞察力と想像力で完璧な答えに辿り着いている。
いや…だからこそ、か…
慎一郎がそういう人間だからこそ、ここまで強くなったのだ。
慎一郎だからこそ、能力を発現できなくとも今まで能力者と戦ってこれたのだ。
先ほどの遥の言葉を思い出す…
『母として誇りに思います…本当に良い殿方です…』
その通りだ。
慎一郎の隣に居る事を、心の底から誇りに思う…
「楽羅?」
感慨にふけっていた楽羅は、慎一郎にポンポンと軽く肩を叩かれた。
「けっこう歩いて来たから、疲れてるのか?
先に風呂に入るか?」
その慎一郎の問いに、楽羅は瞬時に現実に意識を戻し、そして思いつく。
(最近慎が元気無いし、無理矢理にでも楽しくしちゃおっと!
こういうのって、思い切りが大事だしね!)
「そうね、お風呂に入ろうかな…
ねえ慎、一緒に入ろうよ」
「何で?」
「何で?じゃなくて、一緒に入ってLOVEなスキンシップをしましょう♡
また何で?って言いたいんでしょうけど、もう言わせないから。
理由は?って聞きたいんでしょ?
それも慎が聞く前に言うわ。
もう止めてくれ、って慎が言うまで私が…
あらあら、俺が何をした?って顔ね。
慎は何もしてないわ…まだ、ね。
お母様に夜這いを掛けないようにする為に決まってるじゃない。
だから行かないって言ってるだろ!?って言いたいんでしょ?
男は皆そう言って浮気する…ってお母様が前に言ってたの。
男はそういう生き物だって。
そう言われたお父様は、本気で怒ってた…」
遠い目をする楽羅に向かって、慎一郎は本気でキレる。
「俺にも何か言わせろ!!
俺の言葉を全て先に言うな!
あとな、親父殿は浮気なんかしてねえ。
俺は親父殿の味方だからな!」
慎一郎は心底怖いと思った。
楽羅は慎一郎が言おうとしたセリフを全て先回りして勝手に言いながら、それに対して自分の言いたい事を言い、更にそれに対する慎一郎のセリフを先回りして言う。
理不尽だ…
圧倒的なまでの力の差を思い知らされる…
勝てる訳が無い…
女とは、これほどに理不尽な存在なのか…
(帰ったら、親父と親父殿と3人で旅行にでも行こう)
心の中でそう決める慎一郎は、物理的には楽羅の能力によって無理やり風呂に向かって行った…




