フェンリルとの攻防と、その能力
フェンリルと対峙する慎一郎に、上から楽羅の声が降ってきた。
「慎っ!離れて!!」
その声に慎一郎が即座に反応し、フェンリルから距離を取ると同時に、楽羅が能力でフェンリルの体をその場に固定し、極大の業火を発現させる。
だが…
フェンリルはその超高温の炎をものともせず、能力による固定も意に介さないように炎から飛び出し、再び慎一郎との距離を詰めてきた。
「ウソでしょ!?」
「マジかよ!!」
慎一郎と楽羅は同時に驚愕する。
ナイフで慎一郎の心臓を突いてくるフェンリルの腕を、絡め取るようにしてその手首を右手で掴み、同時に左拳でフェンリルの脇下の急所を全力で撃ち抜く慎一郎。
しかし、フェンリルの動きは止まらない…
空いている左手で慎一郎の首を掴み、そのまま力任せに慎一郎の首と後頭部を地面に叩きつけ、そのまま強引にナイフで頭を突いてきた。
(ふざけやがって!!)
慎一郎は渾身の力でフェンリルの下腹を蹴り上げ、その体を浮かせて掴んでいた手首をねじ切るようにしてフェンリルを投げ飛ばす。
即座に起き上がり、構え直す。
フェンリルもすでにナイフを構えている。
慎一郎の頬は僅かに切り裂かれ、血が顎を伝って地面に落ちる。
「この男は俺がここで潰す!
お前らは構わずに襲撃を完遂しろ!」
そのフェンリルの怒声に、武装兵士達は素早く反応して屋敷の中に侵入していく、
「楽羅!
アイツらの相手を頼む!
こいつは俺が相手する!」
慎一郎の声に、楽羅もすぐに動く。
「分かった!
任せたからね!」
楽羅も慎一郎の事が気掛かりでこの場を離れたくはなかったが、
(自分の能力が意味を成さない相手に、どうする事もできない…)
という判断から、後ろ髪を引かれる思いで屋敷に侵入した武装兵士を追って行った。
フェンリルと慎一郎は、誰も居なくなった屋敷の庭先で対峙する。
…………………………………………………
(さて、こいつ…どうする?
俺の突きも蹴りも効いてない…
楽羅の能力も、多分効いてない…
こんな人間が敵の勢力に居たのか。
原理はなんだ?能力?どういう使い方なんだ?
恐ろしく頑強な身体…俺を力任せに地面に叩きつける力…
身体能力は、多分俺と同等か…俺以上。
それに加えて、俺に傷を負わせるナイフ…
体術では俺が上みたいだが、ダメージを与えられないならそれほどのアドバンテージにはならない、か…
それに、どうやって楽羅の能力を無効化してやがる?
俺と同じタイプの能力の使い方なら、楽羅の能力を防げない…
能力を防ぐには、アンチコーティング。
いや、それは無い。
敵兵も楽羅もこの場で能力を使用できているし、こいつも軽装でそんな装置類を装備していない。
他には、能力は能力でしか防げない。
だが、楽羅レベルの能力を上回るとしたら…沙姫のような絶対防御なのか?
だが、あのナイフは?
ナイフ自体は形状から考えて、普通のナイフだ。
頑丈なのかもしれないが、それだけで俺に傷をつけるのは無理だ…親父レベルなら話は別だが、それほどの体術なら俺はすでに死んでるからな…
身体だけじゃなくて、ナイフまで俺と同等に能力で強化してる?
楽羅の能力を防ぐのと俺と同等レベルの身体とナイフの強化…同時にやるのは無理がないか?
それこそ、それに能力の全てを全振りしてどうにかできるような芸当…
いや待て、そうか…こいつ!
能力の全てを凝縮させ、身体とナイフの表面を覆っているのか!
おそらく、厚さ数mmの極薄にまで纏う能力を凝縮する事で、楽羅の能力を防いだ…
能力値の大きさで言えば、楽羅が上なのは間違いない。
だが、能力の密度を極限まで高める事で防ぐのを可能にしてる。
こいつの纏う数mmの厚さだけなら、そして自分の身体という最小値の範囲だけならば、楽羅の能力値を上回っているんだ!
そして、同時に身体強化も可能にしている。
俺と同等の頑強さも力の強さも、纏う能力でそれを成し得ている。
俺の打撃を意に介さない訳だ。
楽羅の能力を防ぐレベルなら、正直俺には有効な手は無い…
クソッ!!
俺の能力は体内でしか作用せず、こいつの能力は身体の表面…
この薄皮一枚の差が、絶対に届かない差か…
正に紙一重だが、それが埋まらない…
ちくしょうっ…!
俺には勝てないってのかっ!!!)




