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エスパーワールド  作者: 碧鬼


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学校とは、楽羅にとっての…

この日の朝も、慎一郎と楽羅は校舎の玄関に向かって校庭を歩く。

10月も残り僅か…ここ数日で気温もかなり下がっており、少し強めの風が肌寒さを増している。


「そろそろコート着ようかな…ねぇ、シックな感じのと、リボンとかでちょっと可愛くアクセントがあるのと、大人っぽいオシャレなの。

どれが良い?」


「その日着たいのを着るのが一番いいだろ。

ここの校則じゃコートの指定まではしてないんだろ?

相当変な色のヤツとかじゃない限り、注意も受けないだろ?」


慎一郎の返答に、楽羅は目をどんよりさせて溜息をつく、


「相変わらず点数すら付けられない答えね…いい加減わざとやってるんじゃないかって疑い始めてるんだけど…うりゃ!」


いきなり腕に抱き着いてきた楽羅のせいで、慎一郎は足をからませそうになる、


「なんだ?歩いてる時に抱き着くなよ。

っていうかその状態を維持するな…歩きにくい上に恥ずかしいだろが」


「文化祭の時に皆に見せつけてるんだから、今更これくらいどうって事ないでしょ?

それにこうしてくっついてれば温かいし、さっきの慎の答えに対するペナルティになるし」


「ぺなるてぃーってお前、俺はちゃんと答えたろ?」


「あのねぇ…私がなんて言ったか分かってる?

私は、どれがいい?って言ったの。

でも慎は私がその日着たいのを着ればいいって…

それって結局私が選んでるだけで、慎が選んだ訳じゃないじゃん」


「…そう言われてもな…俺服に興味が無いから、センスとか無いぞ?」


「ほらまたそんな言って…恋人としての女心が全然分かってないじゃん。

いい?大事なのは、私が着る物を慎が選んでくれるって事。

自分がホントに好きな人が、自分の為に選んでくれるのって、それだけで嬉しい事なんだから」


「そんなもんか?」


「気の無い返事ね…そういえば、智英の事なんだけど…」


楽羅にそう言われて、慎一郎は渋面になり、


「何で敵対勢力についたのかは俺には分からないぞ…正直言えば、俺の考えが…」


「いえ、そうじゃなくて…私あのログハウスの地下で智英の発明品っていうか、能力で創り出した物をいくつか見せてもらったんだけど、どれ一つ世の中に出してないよね?」


「まあそうだろうな…」


「何で?武器や兵器だけじゃなくて、骨折をたったの5分で完治させる医療機器とか」


「アイツが創るのは、そのほとんどが今の世界にとってオーバーテクノロジーだから。

今の世の中にある物は、今生きてる人間がきちんと使いこなせる物でなければならない…ってのがアイツの考えだ。

それを守らないと、世の中のバランスや進化のスピードが崩れてしまうと考えている。

ガキの頃に重力制御装置を世に出した事を、後悔してるっても言ってた。

だから、Eシリーズは造るのに半端じゃない額の金を掛けなければならない仕様にしたんだろうな。

簡単には量産できないように…

楽羅の親父さんが、商売にするには採算が合わないって判断したのがいい証拠だろ?」


「ふうん…なるほどね」


そんなやり取りをしながら教室の扉を開いて、


「……?」


違和感…

2人は同時にそれに気付いた…


早めに教室について暇してるクラスメイトが、今日は窓際で一塊になりタブレットを覗き込んでいた。

そしてそのクラスメイト達は、慎一郎と楽羅が教室の扉を開くと同時に2人を凝視した。

中に入ろうとしない慎一郎と楽羅に、誰かが呟いた…


「ヒトゴロシ…」


その呟きと重なるように、楽羅のスマホが鳴る、

藤原からの連絡、


「すぐに屋敷にお戻り下さい、車を回します」


「何があったの?」


「7分前、ネット上のいくつかの動画サイトに動画がアップされました。

御嬢様と慎一郎様が、山中で傭兵と戦闘していた時のものです。

今、その画像は全て削除させていますが、すでに…」



「分かったわ」


楽羅は無表情のまま、慎一郎の手を引いて、素早く今通って来た廊下を戻る。


「どうした?」


「私達は、高校生でいられなくなった…」


「…何でだ?原因は?」


「私達が傭兵を殺した時の画像が、ネットに流れたって」


「…そういう事か、クラスの連中はその画像を見たって訳だ」


「その通りよ」


楽羅は表情を動かしていない…

しかし、腹の底から湧き上がる怒りで歯を食いしばるのを止められない。

楽羅にとって、学校に通う事は唯一と言っていい年相応の行為だった。

そうする事で、まだ自分は周りの生徒達と同じ子供なのだと、そう実感できていた。

天切の人間として、その立場で生きていかなければならない。それは十分に理解している。

その覚悟も信念として持っている。

それに対する不満など、微塵も持っていない。

しかし…子供であるという自覚もある。

これから先、天切の人間として生きる…だからこそ自分達が子供であるという事を今はまだ実感していたい。

その思いは普通の生徒の何倍も強い。

人が子供でいられる時間は限られている…

だからこそ、楽羅はその時間を慎一郎と共に夢中で楽しみたかった。

それを何の前触れも無く、何の抵抗もできず、あっさりと潰された…


「最低のクズ共!

絶対に許さない!徹底的にすり潰すように潰してやる!」


楽羅の怒声に、慎一郎はいつもならなだめようとする…しかし今回は、なだめようとしなかった。

なだめたところでどうにかなる怒りじゃない…

というのが、楽羅の表情と声、身体の動き、それら全てから噴き出すように伝わってきているからだ。




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