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エスパーワールド  作者: 碧鬼


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戦略

文化祭が終わってからも、慎一郎と楽羅は以前と変わらず高校に通っていた。

敵対勢力と智英については、慎一郎が毒から回復してすぐに信彦達と話し合っていた為、何か動きがない限り今まで通りの生活を送っていた。


慎一郎が回復した夜、信彦が書斎として使っているその部屋で、信彦、楽羅、藤原、慎一郎がお互いの思考を口にする、


「何故世界中で同時に武力蜂起を起こすと?」


「それしか手が無いからです。本来、兵力の分散なんて下の下策…ですが今回だけは別です。

同時に襲撃を掛ける事によって、こちらが他の所に救援をよべなくなる。

逆に初めに1カ所に兵力を集中させてしまえば、他の所を順次叩いていかなければならなくなる。

そうなれば、半分も叩いた頃には最初に潰した所が体制を立て直す…イタチごっこになってしまう。

それに1カ所手を出しただけで、他の所を攻めるのが極端に難しくなる。

なにせこっちは天切という強大な一枚岩です。

この本家を潰し、親父殿と楽羅や俺を殺したからといって、その血縁と勢力が消えて無くなる訳じゃない。

相手が持っている戦力と戦略戦術をこちらに教えてしまうようなものです。

その結果長期戦に成らざるを得ず、あちらに勝ち目は無くなる」


信彦の質問に対して、慎一郎は一切の淀み無く自分の考えを明確に説明していく、


「長期戦になったとして、相手に勝ち目が無いと言い切れる理由は?」


「長期戦とは詰まるところ、ただの地力勝負です。

相手もこちらと同じように世界中に手を伸ばしているとは思いますが、その形態は天切とは全くの別物だと思います。

その理由は、軍港の件から1ヶ月以上経っているにも関わらず、相手の事をほとんど把握できていないからです。

俺が言うのもなんですが、天切の影響力と諜報力は半端じゃない…それなのにここまで相手の実態が見えてこないのは、その形態が天切のような一枚岩の勢力では無く、いくつかの勢力が重なり合い、互いに互いを隠し合って、お互いの影に潜んでいるからでしょう。

そしてその重なりを支えているのは、十中八九で利害の一致。

今も昔も、どんな勢力であれ…人が束ね、集団によって構成されている以上、一枚岩以外の勢力の繋がりの在り方というのは変わりませんからね。

軍港の時のように、表にその顔を見せずあくまで裏で動くのであれば、その形態の在り方は理想的と言えるかもしれない。

しかし、実際に手を出して動くとなると神速で事を決してしまわなければ、時間が掛かれば掛かるほど脆くなって破綻してしまう。

長引けば長引くほど、損失が大きくなります。

お互いに利益があるからこそ繋がりを維持している連中が、損をしてまでお互いを助けるとは思えないですからね」


「慎一郎様は先ほど、こちらから打って出る事をせず、迎撃に専念するのが得策だと仰っていましたが、動かない方が良い理由とは?

今は相手の尻尾ぐらいは掴めていますが…」


「今の段階では、恐らく尻尾を掴んでいるのではなく、掴まされていると考えた方がいいでしょう。

俺が智英なら、こちらの動きをコントロールする為にあえて情報を流しますから」


「あっちの体制を整える為の時間稼ぎ?」


楽羅の問いに、慎一郎は頷く。


「時間稼ぎが必要だと考える理由は?」


「まだ戦闘が始まっていないからです。

もし、智英を抱き込んだ時点で相手の体制が整っているなら、既に武装蜂起は始まっているでしょう。

ですが、それがまだだという事はまだ相手には時間が必要だという証拠です。

そもそも、敵勢力にとっては智英を抱き込む事は想定していなかった可能性が高い。

智英を抱き込むのが敵のシナリオにあるなら、軍港の件の時にそれをするべきだった。

楽羅を拉致し、在日米軍を動かした事で米国の軍部を混乱させ、この屋敷にまで刺客を送り込むほどの周到さ…

もしこの時に智英を狙っていたら、完璧でした。

それをしていない時点で、智英の存在は敵のシナリオには無かったと思っていいでしょう。

つまり智英が敵についたのは智英のシナリオだと、俺は考えます。

そして智英は一から体制を作り変え、万全の状態で天切を潰しに掛かる…かと」


「分かった、今の婿殿の戦略としての考えは私も間違ってはいないと思う。

ただ、戦略面だけしか見えていない…というのは天切の当主としての諫言だ。

戦闘が始まる前には、必ず経済市場に何らかの動きが生じる。

藤原…金の流れ、物流、それらを徹底的に注視しろ。

無論、正規の流れだけではない、マフィア、テロ組織、宗教団体、慈善団体、企業同士の裏の繋がり、ありとあらゆる流れを見逃すな」


「畏まりました」


藤原が深く一礼し、部屋を出た後…信彦は慎一郎と楽羅に穏やかな顔を向け、


「2人は事が起こるまで、今まで通り学校に通うように」


「でもお父様、私達も手伝える事はあるわ」


楽羅の反論にも、信彦は穏やかな顔を崩さず、


「分かっている、2人が邪魔だとは言っていない…

事が起これば無論働いてもらう。

ただそうなれば、今のように学校に通う事はできなくなる。

もしかすれば、抗争がかなり長引く可能性もある。

何より、今の天切の当代は私だ。

私の代での問題は、できる限りお前達に負担を掛けたくはない。

だから、できるだけ学校には行きなさい」


そう言った信彦の意志を尊重する意味でも、2人は普通通り学校に通っていた。


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