文化祭当日
文化祭当日の楽羅の格好は、ゴスロリだった…
黒をベースに、ピンクで色のアクセント。
レースやフリル、ファーやリボンがあちこちにあしらわれ、スカートはミニスカ。
丈はかなり短いが、勿論下着は見えない仕様になっている。
黒のニーハイタイツと裾にファーを縁取っているミニスカの間の数cmの隙間からは、楽羅の白磁の太ももが見え、完璧な絶対領域を作り出している。
足元も黒のゴスロリブーツ、そして手にもレースの手袋を装備。
髪は慎一郎の希望で巻いたりはせず、いつものストレート。
ネコ耳付きのカチューシャも完備。
そして最も目を引くのは、首に巻かれた真紅のチョーカー。
この格好で部屋から出てきた楽羅を見て、屋敷に居た執事や侍女が全員目にした瞬間動きを止めた。
そして、動きを止めてから2秒後に皆仕事を再開していた。
誰一人突っ込まないのは、主に対して不敬にあたるから…
そのまま車で学校に向かうが、車で送ってもらう間藤原は目を合わせてくれなかった。
完璧な無表情だったのは、正にプロフェッショナルだと感心した慎一郎。
学校に着き車を降りると、楽羅が慎一郎にロープのような物を渡してきた。
「なんだこれ?」
「えへへ、こうすれば何か分かるでしょ?」
慎一郎の疑問に、楽羅は上機嫌のままその真紅のロープの端に付いた金具を、自分の首に巻かれたチョーカーの金具に取り付け、
「今日は1日は、そのリードを握ったままでいてね」
「…は?…」
「私が慎のモノだっていうのを、誰が見たって一目で分かるようにしとかなきゃね。
私のチョーカーに繋がったそのリードを見れば、誰も私に声を掛けようとする男は居ないと思うの」
ちなみに慎一郎の服は、いつもの制服。
(この格好の首輪を付けた楽羅を普通の制服姿の俺がリードを持って?
徐々に俺の人見知り的なのを治すつもりじゃなかったのか?
これじゃいきなり最高難度、レベルMAXの最早意味不明な領域なんじゃ?
……むしろ、俺を社会的に殺すつもりなのか?)
「その格好の楽羅に声を掛ける事のできる勇者に、俺は会ってみたい…」
慎一郎はそれだけを言い、内心で思っている全てを飲み込み…というか考えるのをほぼ放棄して楽羅の後に続いて学校に入って行く。
すれ違う生徒、教員の全てが屋敷に居る執事や侍女達で見たのと同じ反応。
ただ違うのは、行動再開までに要する時間…
屋敷の皆は2秒で動き出していたが、生徒達は動き出すまでに5秒掛かっていた。
教室に着くと、早めに来ていたクラスメイト達がお好み焼きの店の準備をしていたが、やはり全員が動きを止めて楽羅と慎一郎を凝視する。
やがて準備を再開したクラスメイト達だったが、やはり気になるのかチラチラ見てくる…実行委員の長浜と吉野が近づいて来て、
「……おい、ナイト君…」
「…その天切さんの格好…」
2人が多くを言う前に、慎一郎はとりあえず謝った、
「すまん…メイド服じゃなくなった…この格好でも大丈夫か?」
長浜と吉野は顔を見合わせ、
「「いや、反則でしょ!!」」
同時にハモった感じで声を上げた。
その2人の声を皮切りに、クラスメイト達が手を止めて楽羅と慎一郎に群がった、
「これどうなってるの?」
「いやスゲーな、AIの画像の女の子がリアルに飛び出すとこんな感じか?」
「それな!ガチで現実離れしてるよな」
「おいお前ら、間違っても触れるなよ!」
「だな、多分数十万はするだろこの服」
「いや値段の問題じゃねえだろ!」
「っていうか、心配しなくても誰一人触ろうとか思わないでしょ?凄すぎて皆自然と距離を置いてるじゃないの…」
「そうね、でももし天切さんに指一本でも触ったら、私達が処すわよ?」
「なあ、ナイト君…それって…」
長浜が皆を代表するように、慎一郎が持っているリードを指差して聞いてきた、
「ああ、これな…リードだって…」
慎一郎の答えに、長浜は引きつったように笑いながら、
「……お前の事、勇者って呼んでいいか?」
「好きに呼んでくれ…」
「いや…ホント、堂々とそれを握ってる時点で尊敬する…」
「もし学校だけなら逃げてるけど…俺の場合、家に帰っても楽羅が居るから、学校で逃げてもあんま意味無いしな…」
遠い目をして言う慎一郎を見て、クラスメイト達は苦笑いするしかなかった。
結局その日はずっと、楽羅のチョーカーから伸びたリードを握っていた慎一郎…
無論…主は慎一郎だと口では言いながら、行き先を決めてスタスタ先を歩いていたのは楽羅だったが…
ちなみに、ミスコンではダントツで優勝だった。




