超が付く美少女は、大財閥のお嬢様
慎一郎は放課後までにクラスの、あるいは自分の周りにいた生徒達から、あの天切楽羅と名乗った生徒について、大体知る事ができた。
世界規模の大財閥のお嬢様で、しかも運動、成績共に優秀。
だがやはり、特筆すべきはあの能力の大きさと、それを扱える才だろう。
中学に上がる前から超天才児扱いされ、もはや国内には及ぶ者さえいないと言われるほどの能力者だとか。
慎一郎が今まで知らなかったのは、テレビやネット等のメディアで天切楽羅という存在を映さないように規制されていたからだ。
顔が世間に知れ渡っていないのならば、有名人に興味のある生徒達ならばともかく、他人に興味が無い慎一郎が知るわけがない…
しかも芸能人やグラビアアイドルでさえ、裸足で逃げ出すような顔とスタイル。
それほどまでに皆の注目を集める存在が、何の能力も発現できず、人並みの顔しかしていない、しかも転校してきたばかりの、[男]に声を掛けたのだから、話題としてはこれ以上のモノはない。
慎一郎が他の生徒に質問する必要すら無く、耳から入る情報だけで十分知る事ができた。
そこで慎一郎としての問題は、
(なんで俺なんかに声を掛けてきたのか?)
なのだが、それも家に帰りシャワーを浴びた頃には、ただの気まぐれだったのだろうと、考えるのをやめようとしていた。
頭をバスタオルで大雑把に拭きながら自分の部屋まで戻ると、着信があった事に気付く。
開いてみると、高校の担任からだった。
非常時の連絡用にと、書類に書いていたのを思い出し、何事かと電話してみる。
「もしもし、あ、先生…何かありました?……え?あ、はい…グラウンドで会いましたが……え?俺の番号を、ですか?…いえ、かまいません。……はい、それでは失礼します」
(何であの天切って女子が、俺の番号を知りたがるんだ?
そういや昼間に会った時、最後に何か言いかけたがそれで…)
ヴーッヴーッヴー…
(はやっ!もう掛けてきたのか?)
慎一郎は警戒するが、とりあえず電話に出て相手の話を聞かない事には始まらない…
「もしもし、坂神です」
「あ、もしもし、天切です。すみません、急にお電話なんか掛けてしまって…今、お話ししてもかまいませんか?」
「かまいませんよ、それで…何か急用でも?」
「はい、それなんですが…その前に一つお願いがあるのですが、あの…敬語ではなくて、もっと楽に話したいかな、なんて…ダメですか?」
まあ、確かに。グラウンドで話した時もそうだったが、お互いに堅苦しい敬語。
(そういや、最初に向こうが敬語だったから、ついそれに合わせたのか…これじゃ落ちつかんわな)
慎一郎は苦笑しながらそう気付き、口調を変える。
「いいよ、俺も今自分の部屋だし…天切さんはまだ学校?」
「今帰り道…やっぱりこっちの方が話しやすい。あの…名前、楽羅でいいよ。それで、用事なんだけど…国道沿いにあるファミレスって、場所分かる?」
「ああ、それなら分かる。帰りに通ったし…信号のとこだろ?」
「そうそうそれ、えっと…もしよかったら、これからそこで会えないかな?…何か他に用事があるなら、無理にとは…」
「あ〜、うん、いいよ。暇だし」
慎一郎は少し悩んだ結果、
とにかく会わない事には話の内容が分からない
という結論で、承諾した。
「ホント?よかったぁ〜…なら、そうね私も一度家に帰らないといけないし、1時間半後、くらいでいい?」
「分かった、18時前には着くようにする」
「ありがとっ、ならまた後でね」
通話を切った慎一郎は小さく呟く…
「天切か…もしもあの【天切】なら無視できないしな…」