瞬間移動の能力者
楽羅がログハウスを出て山道を降り始めてほどなく、下から駆け上がって来た藤原に会った。
「あら?ヘリまで行く手間が省けたわね」
「御嬢様、申し訳ありません。ヘリが襲撃されて大破してしまいました。
それから、この山は恐らく包囲されていると考えた方がよろしいかと…」
「ヘリが?…しょうがないわね、じゃあ貴方はヘリの応援が到着するまでさっきの野原を確保しておいて。
次に失敗したら向こう1年間タダ働きさせるから、そのつもりで死ぬ気で死守するのよ?
あと、ここが包囲されつつある事は知ってるわ。
私と沙姫が智英の所に着いた時には、既に建物の中に入ってた奴が居たしね。
今分かってるのは、連中が金目当てで智英を連れ去ろうとしてる傭兵連中だって事と、この一帯にジャミングが掛かってるって事。
まあ今のところジャミング自体はそれほど困らないけど…ヘリの応援は破壊されたヘリの信号が消えた時点でここに向かい始めてるしね」
「分かりました、それから慎一郎様が後ほど智英様の所に行かれるはずです」
「慎は今何処にいるの?」
「ヘリを襲撃した3人組を黙らせてから向かうと仰っていたので、もうほどなく姿が見えるはずですが」
「そう、ならあと10分ここで待って来なかったら、探しに行くわ」
「では慎一郎様はお任せします、ですが智英様は大丈夫ですか?」
「今のところは大丈夫だと思う。
そもそも私ヘリの所に戻って貴方達に現状を伝えてこようと思ってたのよ、その時間は沙姫がどうにかするって言ってたし、こっちの現状では人手が足りないし…」
楽羅がそこまで言った時、藤原のスーツの内ポケットから電子音が鳴った。
「何?」
「これですか、ここに来るまでに傭兵の1人から獲ったもので」
藤原がそう言いながら液晶端末を取り出すと、そこにはメッセージが追加されていた。
「…御嬢様、今ならばジャミングが解かれているかもしれません。
それと、傭兵の雇い主は御嬢様が何者か知っているようです」
「へえ、どうして?」
「御嬢様の殺害にも、1000万ドルの賞金が掛けられました」
それを聞いた楽羅は嬉しそうに笑い、
「あらそう…もしかして軍港の時のレイスの雇い主と同一人物だったりしたら、ラッキーなんだけど」
そこまで言って、今度はその顔を不機嫌にしかめる。
「それにしても私の首がたったの1000万ドルなんて…私そんなに安い女に見えたのかしら?
まあいいわ、貴方はさっきの場所を取られる前に早く行って」
「畏まりました、では私は応援が来るまで場所を確保しておきます。
くれぐれもお気をつけて」
そう言って藤原は山道を駆け下りて行く、
「さて、慎はあとどれぐらいで来るのかしら?
っていうか、慎て能力をぜんぜん発現できないのよね。藤原の肩に傷があったけど、藤原に傷を負わせるような連中が相手なら…どうやって戦うつもりなんだろ?
ちょっと見てみたいわね」
藤原が走って行った方を見ながら、独り言を呟く楽羅。
その左側、5mほど離れた所にいきなり金髪の青年が現れた。
それに気付いた楽羅は、
「お〜ユゥアナイスガイ」
その男の見た目が物凄いイケメンだったので、素直な感想を馬鹿にしたような英語で口にした。
それに対して相手の青年は、見た目通りの流暢な英語で楽羅に問いかける。
「失礼ですが、5分ほど前にこの上にあるログハウスから出てきた方ですか?」
藤原が手にしていた端末と同じ物を、楽羅の顔と見比べながら丁寧に尋ねてくる青年に対し、
(この金髪のイケメンも傭兵の1人みたいだけど、何コイツ、今から殺す相手に対してこの喋り方。
まるで智英か、校庭の隅で花壇に腰掛けてた時の慎みたい)
楽羅は思わず笑い出しそうになるのを我慢して、真面目な顔ときちんとした英語で答えた。
「ええそうよ、貴方も私と智英に掛けられた賞金が目当てなんでしょ?律儀に質問しなくていいから、さっさと私を殺すべきよ?
ああでもできれば、名前とか教えてくれないかしら?」
「名前ですか?確かに俺は顔には自信がありますし、よく女性から声を掛けられますが、貴女とは付き合えませんよ」
「何かすっごいムカつく返し方ね、別に貴方に興味がある訳じゃないわよ。
ただ素性を聞き出そうとしただけ!
でももういいわ、顔に自信があるイケメンて一番嫌なタイプだし」
楽羅はそう言って手をかざすと、2mの火球を2つ同時に別方向から発現させ、青年に当てようとするが、
ドフッ
楽羅が火球を命中させたと思った瞬間に、一瞬で目の前に迫ってきた青年に脇腹を殴られ、横に吹き飛ばされてしまった。
「こふっけほっ…くっ」
楽羅はどうにか地面に倒れる前に手をついて、更に能力で体勢を整えながら、今度は青年の正面から10m以上の炎の壁を発現させる。
それと同時に自分の体を上空に上げて、青年の動きを見極めようとするが、その時には既に青年の回し蹴りが頭上から降ってきて、
「ちょっ…!」
ドガッ
どうにか両手をかざして蹴りを受け流し、そのまま手を下ろさずに反撃しようとするが、楽羅が炎を発現させる前に青年は楽羅の視界から消え、地面に着地している。
「…なるほどね」
楽羅は攻撃を止め、空中に浮いたまま青年の能力を判断する。
(私の能力の発現に合わせて反撃、私が攻撃を仕掛けようとしない限り、自分からは手を出そうとしない。
今も私は隙だらけで浮いてるのに、アイツは普通に立ってるだけ。
相当自分の能力に自信を持ってる奴の典型的なタイプって感じね。
まあ、その自信が本物だとは認めるけど…だってアイツの能力は多分、瞬間移動。
テレポートの領域にまで能力を極めているのかは分からないけど、炎とか氷での普通の攻撃方法ではアイツの動きについて行けないのは確か。
さあ、どうやってアイツの自信を潰してあげようかしら)
楽羅が再び青年に手をかざそうとした時、青年が左に視線を向けた。楽羅もその方向を見ると、坂の下から慎一郎が駆け上がって来た。
「ウソ!最悪のタイミングじゃない!
慎っ来ちゃダメ!
能力を発現できない貴方じゃソイツはどうしようもないわ!」
楽羅は叫びながら青年の気を自分に向けさせようと、火球を連続して撃ち出すと同時に、慎一郎の方に行くのを少しでも阻もうと、青年の左側に分厚い氷の壁を発現させた。
楽羅が焦るのも無理はない。能力をここまで極めている楽羅でさえ、まだ青年に対して打開策を検討している段階。それほどに、瞬間移動は希少で異常な能力。
しかし青年は、楽羅の焦りを嘲笑うかのように火球も氷も意に介さずにその場から姿を消し、楽羅に言われて急停止した慎一郎の直ぐ側に現れて、
「せっかく楽しんでいたのに、邪魔はいりません」
そう言ってナイフを抜くと、再び消えて次の瞬間には慎一郎の背後からその後頭部目がけて、ナイフを振り下ろして…
「慎っ!!」
ガッブンッドスッ、ゴガッ
楽羅が叫び、慎一郎に向かって全速で飛んで行く途中で…青年の顔面を慎一郎の拳が潰していた。
楽羅が慎一郎の側に来た時には、青年は白目を向きかろうじて息をしている。
「ちょ…慎?これ、どうしたの?」
楽羅が目を丸くしながら呟くと、慎一郎は首を傾げながら、
「あれ?喋れないようにしたらまずかったのか?
でもコイツ、テレポートできるだろ?動けないようにしとかないと、っていうかさっさと殺しとかないと厄介じゃないのか?」
慎一郎の言葉に、楽羅は釈然としない顔で青年の体を空中に浮かせると、
ゴオッ
一気に火球で覆い、数秒でその体を灰にした。




