表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エスパーワールド  作者: 碧鬼


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

62/105

Eシリーズを作ったのは…

お疲れ様です。

今回は少し長めになってしまいました。

楽羅は智英達と話し合った結果、とりあえず慎一郎達の所に行く事にした。連絡が通じない以上、誰かが今の状況を伝えに行かなければならないからだ。


「ヘリの所で待ってる2人に伝えるべきなのは、襲撃され始めてるって事と、あと連絡が通じないのはジャミングを掛けられてるって事ね」


「そうですね、ジャミングが使われているのはここを狙っているのが、統制のとれた軍隊ではなく金目当てで各個に競い合っている連中だからでしょう。

お互いに連絡の必要がありませんからね」


楽羅に答えた智英の言葉に、沙姫が首を傾げた。


「いや待て、そうなると…ジャミングを掛けている奴は金目当ての下っ端ではない、と思わないか?

金目当てで個々に競い合っているような奴らが、わざわざそんな金の掛かる装置を持ち出してくるとは思えないし、その連中にとってはジャミングなどあまり意味が無いだろ?

ジャミングで利害が生まれるのは…普通に考えれば、襲撃によって救援を呼ぼうとする智英と、それを阻止したい傭兵連中の雇い主。

しかも、襲撃されたタイミングに合わせてジャミングを仕掛けてきたのだから…」


「その雇い主は、今の状況を正確に把握しているという訳ですね。

この辺り一帯にジャミングが掛かっているにも関わらず、今の状況を正確に把握しているという事は、つまり雇い主かもしくは雇い主から現場の裁量を任された者が、ここを視認できるほど近くに居るという事になります」


沙姫と智英の会話を聞いていた楽羅は、嬉しそうに笑い、


「うんうん、私も十中八九その読みは当たってると思うわ。さっすが慎が信頼してる2人ね♪

じゃあ私は一旦ヘリの所に戻るから…あ、そうだ…

2人にお願いがあるんだけど、もし可能なら私が戻るまでにジャミングの発信源の特定と、それを止める為の方法を考えといてくれない?」


「分かりました、どうにかしましょう」


穏やかな笑顔で答えた智英に、笑顔でウインクを返し、楽羅はログハウスの出口に向かった。


………………………………………………………


「待て、その画像を拡大しろ」


楽羅がログハウスから出てきた時、その120m上空に肉眼では何も見えはしなかったが、そこには中型の飛行船が音を殺して浮かんでいた。


「正直なところ半信半疑だったが、あのメールを送り付けてきた奴は、一体どこまでの事を知っている?」


そう呟きながら飛行船のブリッジで指揮を執っている男は、軍港の件でレイスに命令を出した者。

組織内では頂点のグループに在り、フェンリルと名乗っている。


フェンリルが使っている表向きのオフィスにそのメールが届いたのは、3週間前だった…

送り主の名前は無かった。

普通ならばそんな物を読む事は無いが、しかしフェンリルがそのメールを開いたのは、そのメールが直接オフィスにあるパソコンに届いたからだ。

何故ならそのオフィスは…イギリス、国防情報参謀本部の地下2階にある。

分かりやすく言うのならば、送り主が誰なのか判断できないメールなど、届くはずが無いパソコンにそのメールは送られてきた。

しかもその宛先には、自分の役職名でも本名でも無く、フェンリルと記されていた。


この時点でフェンリルは、自分が途轍もなく危険な状況にある事を、はっきりと認識した。

まず第一に組織内の誰かがこのオフィスに直接連絡を取るような愚行をするはずが無い。

そんな事をすれば自分達の繋がりを公表するようなものだからだ。

そして送り主の名前が無いというのは、イギリスで…いや恐らくは世界で最高レベルのセキュリティが、まるで意味を成さないような奴が送り主だという事。

何故ならこのメールは至って普通の物で、何重ものセキュリティを潜り抜ける為の暗号化すら、されていない。

仮にこの建物内からメールを送ったとしても、セキュリティは同様に働くし、送り主の欄にはそのパソコンのあるオフィスのナンバーが表示される。

それを消す事など例え何処の誰だろうと出来はしない…アメリカもロシアも中国も…例え何処の国がどれほど高度に組み込まれたプログラムを使っても、暗号化すらされていないなど不可能だと断言できる。

つまりこのメールは、今使われているアルゴリズムとは全く違うやり方で届いたという事になる。

常識では考えられないほどの、頭が狂っているような天才の仕業。


「冗談じゃない…ダ・ヴィンチなど敵に回した覚えはないぞ…」


しかしメールを開いたフェンリルの顔からは、次第に緊張が消えていく。

それはメールに書かれた内容と、それに添付されていた画像を見たからだ。


【このメールを見た時点で、貴方は自分が危険な状況あると判断したはずです。しかしこのようなメールがそのパソコンに届く事は、二度とありませんのでご安心下さい。

私は日本の在日軍港で起きた件について、貴方方が関わっていると知っている者です。

私に協力して頂けるのであれば、1枚目の画像の男について居場所等の情報を提供致します。

その交換条件として私からの要望は、2枚目の画像に写っている男をある場所まで移動させて欲しいのです。

2枚目の画像の男についての現在地と経歴、本名については今日届く事になっているスーツケースの中にファイルが有ります。

移動させる場所については、男の身柄を確保した時点で貴方に伝わるように手配済みです。

確保の手段については、貴方の立場と状況をこちらで判断した結果、プロの傭兵連中を金で雇う事が最良だと考え、その連中の名前とリスト、そして雇う為の資金も送ります。

それともう1つ…もし貴方がその男に興味が有るのでしたら、直接現地に行く事をお勧めします。

その為の手段も送りますので】


メールの内容は、実に簡潔な取り引きの誘いに過ぎない。しかしその文章と添付されていた画像は、フェンリルの興味を掻き立てるのに十分だった。

1枚目の画像には、確かに在日軍港で天切の一人娘と行動を共にしていた少年が写っている。

そして2枚目の画像に写っていたのも、同じく10代の少年。

その2枚目の画像を見たフェンリルは、唇の端を吊り上げながら、何故メールの送り主が現地に行く事を勧めたのかを理解した。

その少年については、現在地こそ知らなかったがその異常としか言えない経歴は、知り過ぎるほどに知っていた。


「…このメールを送ってきた奴が何処の誰だろうと関係無い。この男は俺が手に入れる」


フェンリルは湧き上がる興奮を抑えきれずに呟く。

フェンリルがここまで興奮しているのは、軍港での少年よりも、2枚目の画像の少年の方が遥かにインパクトがあったからだ。


7年前、重力制御装置の基礎理論とその理論を実証した試作機を、90億ドルという値段で米国に売りつけた奴が居た。

その4年後、ドイツに対しEシリーズの設計図と製作技術を1億ユーロで持ち掛けた。

それをやったのは信じられない事に一個人、しかも子供だった。

この事は、当事者達を除けば世界でも極僅かの者しか知り得ない事実。

それをフェンリルが知り得たのは、表向きの立場であるイギリスの諜報機関の監査官としてだった。

フェンリルが初めてそれを知った時、その子供がその技術を生み出した事よりも、その技術を売りつける相手の選び方に感嘆したものだ。

宇宙開発競争で他の国に大きく差をつけたままの状態を維持したい、その願望を持っている米国に重力制御装置を。更にこの技術は使い方次第では、軍事や産業にも活かす事ができると十分に計算した上で、この法外な値段を受け入れさせた。

ドイツにEシリーズの製作技術を売りつけた時、EUでは経済問題が末期に至っており、唯一他の加盟国よりも安定していたドイツは、その舵取りを担わざるを得なくなっていた。

そこに他の追随を許さない性能を持った兵器の技術をもたらせた。

米国や中国等の軍事や経済の面で優位に立つ事を望んでいる国にとって、どうあっても手に入れたい物を…

そしてドイツはその技術をすぐさま売る事をせずに、それらの国々に経済政策支援を求める為の切り札とした。


それをやった子供が、今は何処で何をしているのか…世界中の諜報機関が極秘裏に躍起になって探しているが、何処の国も把握できていない。

ドイツとEシリーズの製作技術を取り引きしたその当時の国籍は日本。

名を漢字で表記するなら…


軌創智英



「ジャミングを解け。そして、今ログハウスから出てきた女の殺害を追加するよう下の連中に送れ。

女を殺す事ができただけでも、1000万ドル払うとな」


「了解しました」


「さあ、軍隊や兵器ではどうにもできなかった天切の娘。能力に特化したプロの傭兵連中が相手ならばどうする?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ