超が付く美少女に声をかけられた
グラウンドの中央から、1人の女子生徒が慎一郎の腰掛けている花壇の方に歩いて来る。
遠目でその女子生徒を目にした時、慎一郎は瞬時に理解した。
(今の馬鹿デカイ炎の塊は、コイツが発現させた)
理屈ではなく、否応なしに本能が理解したと言うべきか…
(違う…コイツはそこいらの奴とは違う。
能力の大きさとか、性格とか、そんな小さな事じゃなく…そもそも根本的な信念、自己の在り方、あるいは立っている場所が違うっていう感じだ)
近くなってくると更に驚く、これ程の顔とスタイルの人間がいるのか…とおもってしまう程の、超が付く美少女。
無駄な肉が一切無く、スラリと伸びた彫刻を思わせる手脚。
頭から腰に掛けて一直線に伸びた背筋と上半身のしなやかさは、ネコ科の猛獣を連想させる。
肩甲骨の下辺りまである髪は、黒よりは赤みが強く、陽の当たり方によっては鮮やかな茶色に見える。
誰もが記憶に残すであろうその整った顔の中でも、目の印象が特に強い。
(まあいい、それはいいが…なんでコイツは真っ直ぐにしかも俺の目を見たままこっちに来る?)
慎一郎に向かってくる少女の印象的な瞳は、一切の妥協と弱さからはかけ離れた絶対的な意志の強さを宿し、慎一郎の顔を見たまま視線を外そうとしない。
面倒な人間関係が大嫌いな慎一郎は、嫌な予感がしてその場から逃げるべく、立ち上がり足を踏み出そうとしたが、
「今立ち上がった貴方、少しお話しをしたいのですが…宜しいですか?」
よく通る綺麗な声、ではあるのだが…慎一郎はなぜかその声に肩をつかまれた様な気がした。
(宜しくはないが…ここで逃げても、コイツは何となくまた後で来る気がする。そもそも、この場で逃げ切れるのか分からない)
そう考えて、努めて冷静に振り返り応える。
「何か?」
「私はクラスが違いますので、始めましてとなりますが、始業式の日に転校して来られたばかり、ですよね?」
「そうです」
「宜しければ、私と能力の訓練をしませんか?もしかしたら、私が貴方の能力を発現させる事ができるかもしれません」
穏やかな微笑と共にそう言われたが、慎一郎としては正直なところ戸惑うしかなかった、今までこんな事を誰かに言われた経験が無かったからだ。
「…えっと、失礼ですが貴女は?」
「あ…これは失礼しました。申し遅れました、天切楽羅といいます」
その女子は慌てて頭に手をやりながら、名前を告げた。
その仕草が少し可笑しくて、慎一郎も何となく手を上げながら名前を告げる。
「坂神慎一郎です」
慎一郎が名前を口にしたと同時に、目の前の少女、楽羅は何故か押し黙り、驚いたように目を見開いて慎一郎が上げた左手を凝視する。
「…その手は」
「楽羅さん、先生が…」
楽羅は何か言いかけたが、後ろから友達らしき女子に肩を叩かれた。
そのまま呼びに来た女子と一緒に戻りかけたが、一度慎一郎を振り返り、
「また後で、」
そう言って、自分のクラスの持ち場へと歩いて行った。