新しい生活…2
「私と坂神慎一郎君は、親同士も認める婚約者です。
ですから、私は今日からこのクラスに移動し、慎一郎君の隣の席に座ります」
朝のホームルームでそう宣言してから、楽羅は当たり前のように慎一郎の隣の席に座り、それだけでは満足できないのか、四六時中慎一郎にくっついて行動した。
「俺にくっついてると、楽羅まで人に避けられるぞ」
昼休み、楽羅が持ってきた弁当を2人で食べている時に、慎一郎はそう言って忠告してみたのだが、それに対する楽羅の答えは、
「だから?」
「…いや、だからってお前…前のクラスに友達とか居たんじゃないのか?あと楽羅と一緒に話したい女子とか、気のある男共も居るだろ?飯ぐらいそいつらと食っとかないと、俺みたいに友達居なくなるかもしれないぞ?」
「私、今まで能力の訓練の為に部活にも入らずに、放課後にも誰かと遊び歩いたりしてないから、そんなに親しい友達って居ないの。
慎と一緒に居られる事に比べたら、友達なんてはっきり言って二の次よ。それに…10年近く会えなかったのよ?言わば、その間お預け状態で待たされてたの。
今の私に最も必要なのは、慎だけよ」
そこまで言われると、慎一郎としてもそれ以上言う言葉が無く、黙って楽羅のやりたいようにやらせるしかなかった。
放課後、それまで2人の事を聞いてくる生徒は居なかったが、いよいよ我慢しきれなくなったのか、1人の女子がクラスを代表するように楽羅に質問した。
「ねえ、天切さん…その、朝言ってた婚約がどうの…って話なんだけど、やっぱりそういうのって親同士が決めた事なの?」
今時、学生の内から婚約者が居る。という事実にいまいちピンとこないという感じで、その女子は質問してきた。それに対して楽羅は首を振り、
「いいえ、慎一郎君との婚約は私が最初に言い出した事です」
はっきりとそう言った楽羅を、その女子はまじまじと見つめながら、
「それって…つまり、天切さんが坂神君を好きになって告白したって事?」
そう聞きながらも、それが信じられないという表情、
「その通りです。私が慎一郎君を好きになり、告白した結果、慎一郎君はそれを受け入れてくれました」
その言葉に女子は唖然としながらも、一番気になっていた核心まで聞いてきた、
「…あの…どうして坂神君なのか、聞いてもいい?」
(この女子、スゲェ勇者じゃんかよ…)
横で黙って聞いていた慎一郎は、その女子の事を驚いた顔で見る事しかできない。
自分にはそんな事を聞く勇気なんぞ、絶対に無いと思いながら…
「慎一郎君は、私の事を二度も命を懸けて守ってくれました。命を懸けて自分を守ってくれた男以外に、一体この世の誰を好きになれますか?」
平然と楽羅は言う。
楽羅が言った事は楽羅にとっては理由の一つに過ぎなかったが、目の前の女子は、
「…カッコイイ…」
驚いた表情でそう呟いて、
「でも命を懸けるなんて、一体どんな事があったの?」
「それは、慎一郎君と私だけの秘密です♪」
楽羅はそう言いながら席を立ち、慎一郎の手を引っ張りながら教室を後にした。
慎一郎は楽羅の後を歩きながらも、
「なあ、さっきの話…前にオオカミとやり合った時には、まあ死にかけたし…俺が命を懸けたってのは分かるが、今回は確かに怪我は酷かったけど、別にそれほどヤバイ事にはなってないだろ?」
あれだけの事をして、大した事はしてないと言う慎一郎に対し、楽羅は呆れたように溜息を一つついて、慎一郎の方に向き直った。
「十分ヤバイ状態だったでしょ…全く…それに、
私の眼は節穴じゃないのよ慎。船の中でレイスを殴り飛ばした時、慎はまだあの段階で自分の能力がアンチコーティングの範囲内で有効なのかどうか、知らなかったでしょ?
だからレイスの後に居た男を、盾にしながら壁際の連中に向かって行った。
その時、慎は当然自分の能力が使えなかった時の可能性も考えていた。
撃たれて死んでしまう可能性をね」
楽羅の指摘に、慎一郎は参ったな…と頭をかく。
確かにあの段階では楽羅の言う通りの考えを、慎一郎は持っていた。
能力がアンチコーティングの範囲内で有効だと知っているならば、わざわざ敵兵を盾にしながら向かって行く必要など無く、銃弾など気にせずに全員を殴り飛ばしていただろう。
「気付いてたのか、でも結局俺は能力を使えたんだから、大した事にはならなかっただろ?」
「慎…それは結果論よ。貴方が死ぬのを覚悟して、私を助ける為に動いてくれた事に変わりはないでしょ?」




