今、この時から…
慎一郎の言葉を聞いていた楽羅は、目を閉じて深く頷いて、そして華が開くような笑顔になり、
「やっぱり…慎は慎だね」
「どういう意味だ?」
「貴方は、私がずっと憧れつづけた…私の理想像そのままでいてくれた…だからね…」
楽羅は椅子から立ち上がり、
「あの時、船でした約束覚えてる?」
慎一郎の手を握って、緊張した声でそれを切り出す。
「ああ、大丈夫。ちゃんと守るさ、でも俺にできる事だけだぞ」
「分かってる…言ったでしょ?慎にしかできない事だって」
楽羅は慎一郎の手を握ったまま片膝をつき、そのままの姿勢で慎一郎を見上げると、今までずっと秘めてきた想いを口にする。
「ずっと、慎の事が好きだった…そしてこれからもその想いは変わらない。…だから…
今、この時から私は貴方を主人とし、永久に愛すると誓います。
どうか、私を生涯の伴侶とする事を約束して下さい」
そう言って片膝をついたまま、慎一郎の手の甲にキスをした。
慎一郎はしばし呆然としていたが、楽羅の肩が震えている事に気付いて、
(本気か…いや、それはそうか、冗談でこんな事を言う奴じゃない。
何で俺なんだ…こんな所に住んでるなら、俺なんかよりもよっぽど良い男に出会うだろうに。
そりゃ…俺だって楽羅の事は好きだ。
一緒になれるなら、どんなに幸せだろう…とは思うが、俺なんかじゃ不釣り合いもいいとこだ。
…いや、違うだろ!馬鹿か俺は!
選んだのが他ならぬ楽羅自身なら、俺も己の本心で応えるのが筋だろうが!
自分じゃ不釣り合いだとか言って、カッコつけて逃げてんじゃねえよ!!)
慎一郎は楽羅の手を引いて、立ち上がらせると、そのままその体をそっと抱き締める。
泣いている楽羅が、その涙を見せない為に顔を伏せているのなら、まずはその涙を止めなければならない。
慎一郎は楽羅の背中を、優しくたたく。
そのまま自分の気持ちを伝える…
「楽羅…ありがとう。
俺の事を好きでいてくれて、本当にありがとう…
俺も楽羅が好きだ…
ごめんな…俺鈍いから…苦しかったろ…
大丈夫、俺はここにいる」
慎一郎は、どうにか楽羅を落ち着かせようとして、背中をさすったりしたが、楽羅は慎一郎の言葉を聞いた途端に、声を上げて泣き出した。
「うっくっうええぇ…ずっどあいだがっだぁっずっどざびじがっだああぁああぁ…ずっどずぎだったっ…
ずっどぐるじがっだっ…もうどこにもいがないでっ…
おねがいだからっずっとそばにいでっ…」
慎一郎はどうする事もできず、ただ楽羅が泣き止むまでずっと抱き締めて、背中を擦る事しかできなかった…




