強くなる、誰よりも
何も知らない慎一郎は、
「取り敢えず俺、家に帰るわ。親も心配してるかもしれんし」
そう言ってベッドから降りるが、そこで楽羅に手を引かれた。
「丸一日以上も寝てたんだよ?すぐに動いちゃダメ、それにお腹すいてるでしょ?一緒にご飯食べようよ」
そう言われて、慎一郎は自分がかなりの空腹だと気付いて、
「まあ、そう言うなら有り難く」
食事の用意ができるまでの間、慎一郎と楽羅はお互いの事を話す事にした。
ファミレスで待ち合わせをしたのに、いきなり狙撃されて連れ去られたのだから、ゆっくり話す時間が無かった。
ようやく今、お互いゆっくりと話ができる。
楽羅はまず、慎一郎の能力について知りたがった。
「慎の能力が頑丈な体だっていうのは、何となく分かってるけど、どうしてアンチコーティングの効力が有効な場所で、能力を使えるの?」
その楽羅の疑問に、慎一郎は一から説明を始めた。
慎一郎の能力は、確かに楽羅の言う通り常識ではあり得ないほどの頑強な体。
この能力になった原因は、楽羅をオオカミから護った時の怪我。
あの時、慎一郎が負った傷は文字通り命の危機だった。出血による心肺停止にまで至っていた。
何とか蘇生したものの、今後日常生活が可能となるのか、それ以前にこのまま意識が戻らないのではないか…そういう状態だった。
それをどうにかする為、将文は1つの決断をする。
慎一郎の中にあった本来能力に使われるべき潜在能力を、体の治癒力に変え、その力で慎一郎の体を少しでも治そうというものだ。
普通ならばそんな事は不可能。
だが、将文の能力がそれを可能にした。
他者の能力を操る。その本人が強く拒絶しない限り、能力の2〜3割の力を自在に引き出し使用する。
それが将文の能力。
そして自身の子供である慎一郎に対してならば、3割ではなくもっと大きな力を引き出せるのでは…と考え、その可能性に掛けた。
そしてそれは成功し、絶大な効力となった。
たった数時間で意識を取り戻し、朝には楽羅と話ができるまでに傷を回復させた。
ただし、その代償はあった。
慎一郎の中にあった能力としての潜在能力が、全て体の内側でしか作用しなくなり、その結果として一切の能力を体外で発現できなくなった。
もっともそのせいで、アンチコーティングの効力も慎一郎には意味を成さなくなった。
「俺は楽羅に会う前から、家の道場で親父にしごかれてた。最初は痛いのが嫌で、全く乗り気じゃなかったけど、爺ちゃんの死をきっかけに本気になったんだ。
だからオオカミにも負けなかった…
ただ、能力を発現させる事ができない、ってのを知った時には流石に堪えた。
これからも友達ができないのか、てな…
その俺を支えたのも爺ちゃんの言葉だった。
【慎一郎、お前は儂にとって、大切な人の名を継いどる…強くなれ。
大切な者を守る為に強くなれ…
己にとって決して曲げる事のできない信念の為に強くなれ…誰よりも…】
だから俺は必死になって考えた。
体の中でしか能力を使えないなら、どうすれば強くなれるのか。
その答えが、体を能力で徹底的に強化し、刀のような鋼に鍛え上げ…その体に力と技を叩き込む。ってのだった…そうやって修練を重ねて今に至るわけだ」
「そっか…お祖父様が…ねぇ慎、私にとっては慎だったんだよ」
「俺?」
「うん、私が強くなろうとして…能力を少しでも上手く、より強く扱えるようにがむしゃらに訓練して、練習したのは…あの時の慎を見て、私もこうなりたいって思ったから…あの時私を守ってくれた慎に、憧れたから」




