この世界では
「俺には、何の能力も発現させる事ができません」
二学期の始業式の日、転校初日には定番の自己紹介で言った最後の一言がこれだった。
言うかどうか、迷いはあったが…いずれ皆には知られてしまう事ではあるし、最初に言ってしまった方が後が楽だと思ったからだ。
この世界では昔、超能力を扱える人間は異常だった。
だが、80年程前から産まれる人間のほぼ全てが、超能力を扱える者になった。
そうでない人間が産まれる確率は、1000万人に1人。
つまり、超能力を扱えない人間の方が異常になったのだ。
これが、慎一郎に友達ができない最大の理由。
慎一郎は、能力を扱えないわけではないが、他の人と同じ様に火や氷を出したり、あるいは手を触れずに物を動かしたりというような、普通の能力ではない。
仮に慎一郎の能力を周りの人に見せたとしても、それが本当に能力によるものなのかを、判断するのが難しい。
それ程に、慎一郎の能力は地味で見栄えがしないし、高校生の日常においては使い道が無い。
だから慎一郎は、小学校の頃から今に至るまで…
「自分は能力を発現させる事ができない」
と周りに言ってきた。
発現とは、(現れ出る事)
目に見える能力を扱えない慎一郎に対して、周りの生徒は壁を一枚作っている様な感じで、会話なども避けている節がある。
それは前の学校でも、転校してきたここでも変わらなかった。
正直なところ、周りの生徒からしてみれば、慎一郎にどう接していいのか分からない…というのが本音なのかもしれない。
もっとも、学校を卒業し社会に出てしまえば、能力を扱う仕事にでもつかない限り能力が発現できない事自体は、それほど重要ではなくなるだろう。
しかし、まだ自分達にとって能力が(特別)である10代の生徒達にしてみれば、話は別。
能力というのは、友達のキャラクター…個性の一部であるような、重要なファクターを担っている。
だからよほど物事に達観している者か、あるいはよほどの変わり者でなければ、慎一郎に話し掛けたり友達になろうとする生徒は居なかった。