恋する乙女…1
翌日の土曜日
楽羅は9時過ぎに目を覚まさした。
昨夜の疲れは当然残っている、寝た時間もかなり遅かった。
だが、慎一郎と再会できた事による嬉しさの感情が、疲れを遥かに上回っている。
学校は休みだが、楽羅は遅い朝食を済ませて制服に着替え、車で学校に向かった。
高校の職員室では、職員会議の最中。
今回の議題、来月の末に行われる文化祭について、校長も含めた教員全員が話し合っているそこへ、
「失礼します」
よく通る綺麗な声でそれだけ言うと楽羅は職員室に入り、そのままツカツカと歩いて一番奥に座る校長の机の前で止まった。
「校長先生、1つ聞いて頂きたい事があります」
いきなり入って来て用件を切り出す楽羅を、校長は戸惑いながらも注意しようと、
「天切君、今は会議中だ。勝手に入って来てはいかん。せめて会議が終わるまで待っていなさい」
校長の注意に対し、楽羅は毅然と言い切る。
「待てません。先生方全員がいらっしゃる今だからこそ、聞いて頂きたい事です」
普段は物静かでおしとやか、そんな楽羅の毅然とした態度、言葉に当惑しながらも校長は諦めたように先を促す。
「分かった、手短に済ませなさい」
「簡単な事です。週明けの月曜日から、私を坂神慎一郎君のクラスに移し、席を一番後の窓ぎわで隣同士にして下さい」
その要求に、校長は尤もな疑問を口にする。
「なぜそんな事を?」
「私と坂神慎一郎君は、親同士も認める婚約者だからです。(もちろん慎一郎は全く知らない)あ、それと今の条件を卒業するまで継続してもらいます」
そんな事を言い切る楽羅に対し、教員の1人が堪らずに声を上げる。
「おい、そんな勝手が許されると思うのか!?さっさと出て行きなさい!」
そんな熱血教師の当然の言葉に感化されるように、何人かの教員が楽羅を職員室から連れ出そうと席を立つが、
「その場で最後まで私の言葉を聞いて下さい」
言葉づかいが丁寧な事に変わりはないが、その声には有無を言わせぬ迫力があった。
「今私が言った要求を受け入れられなければ、仕方ありません。
この学校を私が買い取ります。
その上でここに居る全員をクビにして、私の要求を受け入れて下さる教員だけを、東京中からこの学校に引き抜いてくる事にします」
眉一つ動かさず、楽羅は平然と言い切った。
「それこそ許されるはずが無いだろう!」
さっきの教員がくって掛かるが、
「許すとか許されないとか、そんな話ではありません。私が買い取ると決めた以上は、今この場で電話一本掛ければ、来週から貴方方は全員クビです」
そう言ってスマホを取り出す楽羅を、校長が止める。
「分かった…君の要求を受け入れる。だからそのような横暴は止めたまえ」
校長の言葉に、楽羅は笑顔で応える。
「いいですよ、私は要求が叶えば満足ですから。
あ、私と慎一郎君の席はもううちの人間で動かしてありますから」
そう言って、楽羅は堂々と職員室を後にする。
校長は額の汗を拭い、深々と溜息をついた。




