何言ってやがんだ?
慎一郎の怪我は、本人が言っているほど軽いものではなく、右手やあばらを含めて何ヶ所も骨や内臓を痛めていた。
いくら能力で体や治癒力を強化していると言っても、これだけのダメージを受けていればその負担は尋常ではない。
その為家に帰り着き、ふらつく足でどうにかシャワーを浴びたあとは、そのまま倒れ込んで眠りについてしまい、目が覚めたのは30時間以上経った日曜日の昼だった。
ベッドの中でモゾモゾと動き、やがてうっすらと目を開ける。
「あ!起きた!」
耳元で、寝起きに聞くにはやかまし過ぎる声がする。
「ねぇねぇ大丈夫?まだどっか痛い?」
(…これ、楽羅の声か…)
そう気付いても、長時間の睡眠で頭がほとんど回らず、再び目を閉じて毛布をかぶり、
「なんで、本人に確認も…取らずに…俺の部屋に、居るんだ?…怪我の見舞い、か?」
上手く回らない舌で聞くが楽羅は、
「違うよ!」
と言いながら慎一郎のかぶった毛布を強引にひっぺがし、
「ここ、私の部屋で…これ、私のベッドだもん」
(何言ってやがんだ?こいつは…)
慎一郎の頭がまだ半分寝ているせいか、楽羅の言っている意味が良く分からない。
とりあえず、楽羅に奪われた毛布を取り返そうと、慎一郎はのろのろと起き上がって、周りを見回し…
(……?)
そこで初めてここは自分の部屋ではない、と気付いた。
広い…慎一郎の部屋の何倍あるのか、分からないほどの広さ。
ベッドも違う、(こんなにデカくない)
窓やカーテンも違う、(デザインとか以前に、遠い)
天井は…見えない、(…これが天蓋?という物か?)
慎一郎は急速に回り出した頭で混乱しそうになりながらも、楽羅の言葉を思い出してすぐ側に居る本人に問いただす。
「何で俺はここに居る?確かに自分の部屋で寝たはずだ」
訳が分からないと慌てる慎一郎に、楽羅は嬉しそうに経緯を口にし始めた。
「うん、慎はちゃんと自分の部屋で寝てたよ。私が行っても全然起きないから、ここまで運んで来たの。
いつまでも家にお邪魔してるのも悪いかなって思って」
「…何で自分1人で帰らずに、俺をテイクアウトしやがった?」
「う〜ん…一緒に居たかったから?」
「…親父達は何も言わずに俺を引き渡したのか?そして、お前の親父さんは男を部屋に連れ込むのを止めようとしなかったのか?」
「慎のお父様とお母様はすぐに快諾してもらえたし、私のお父様なら慎なら一向に構わないって、だってお父様ってば慎を息子にしたいって言うほど気に入ってるし」
楽羅の説明を聞きながら、慎一郎は、
(どうにも納得できない…)
と、頭を抱える思いだった。
(俺が寝ている間に、一体何があったんだ?
何か変だ…俺だけ置いてけぼりをくったような…
仲間はずれにされてるような…)
慎一郎がいくら考えても分かるはずも無い。
慎一郎が寝ている間、楽羅は己の野望(慎一郎を手に入れる)の為に、打てる手を全て打ち尽くしてしまっていたのだから…




