いい顔だ
パパパパパパパパパパパパッ
耳にしたその音で、楽羅はとっさに夜空を見上げた。
「ヘリか、今度は空中戦ってわけね」
「楽羅」
慎一郎が立ち上がって、こっちを見ている。
(まったく、本当に自分に厳しいのね慎…)
楽羅は感心しながらも、ちょっと呆れる。
これでは何の為に自分はビンタまでしたのか、分からないではないか、と。
しかし、慎一郎はそんな楽羅の気持ちなど分からないのか、
「俺は空を飛べない、だからヘリは楽羅の領分だ。
ただし、この後ヘリの数が増えるようなら、俺の体をヘリまで運んでくれれば何とでもなる」
「あのねえ慎、私だって…」
楽羅は何か言いかけるが、急に視線を慎一郎から外したまま黙った。
「どうした?」
「あのヘリ、おかしいわ」
言われて慎一郎は振り返り、ヘリの動きを見て、
「ああ、そういや何で攻撃を仕掛けてもこずに、高度を下げてやがるんだ?」
「あのヘリは、何かを運んで来ただけかも」
「おいおい、まさかまたあの機体とやり合う羽目になるのか?」
しかし、楽羅は首を横に振る。それはあり得ないと、
「あの機体、そんなに安くないもの。いくら米軍が金持ち軍でも、国外の基地にそういくつも置けるような代物じゃないわ」
「じゃあ、楽羅に勝てそうな特殊異能者でも乗ってんのか?」
「そんなレアな人材を、平和ボケしてる日本なんかに配置してるとも思えないけど…ま、いいわ、私見てくるから。どうせ落とさなきゃいけないだろうし」
楽羅はそう言って、ヘリに向かって矢のように飛ぶ。
近づいていくと、ヘリのハッチは開いていた。
さらに近寄っていくと、何人かの男が着陸の準備をしているのが見えた。
ヘリの中の薄暗いライトの光に照らされたその顔を見て、楽羅は目を見開いて思わず叫んだ。
「お父様!?」
そのまま近寄ってヘリのハッチに手をかけ、中に入る。
いきなりヘリの中に入って来た人影に、中に居た誰もが身構えるが、それが誰か分かると、
「楽羅!」
信彦が弾かれたように動いて、楽羅を抱き締めた。
「よく無事だったな!怪我は?大丈夫なのか?」
信彦の勢いに気圧されながらも、とにかく自分を助けようとしてここまで来てくれた事が、本当に嬉しかった。
(いけない、ほっとしてる場合じゃなかったわ)
楽羅はどうにか信彦を落ち着かせながら、
「ちょっと待ってお父様、慎の所に早く行ってあげないと」
「おお、そうだ!慎一郎君は?無事なのか?」
勢い込んで聞いてくる信彦に慎一郎の居場所を教え、信彦達が来た事を慎一郎に知らせる為に、楽羅は再び空に飛び出す。
慎一郎の所まで戻ると、早速信彦と将文が来てくれた事を伝える。
「慎、安心して…あのヘリはお父様達だったわ。貴方のお父様も一緒だったわよ」
「まじかよ、何で親父まで…」
慎一郎は将文まで来ている事に、かなり驚く。
「それと、私達が閉じ込められていた船が港に入って来るのが見えたわ。でも大丈夫、アンチコーティングが効いてないから、私が5秒でここを灰にしてあげる」
「いや、ちょっと待とう…気になる事があるんだよな…とりあえず、楽羅の親父さんにでも相談してみるか」
「気になる事って?」
「なんで親父さんのヘリは無事なんだ?こんな厳戒態勢の軍港に他所のヘリが入ってくれば、普通撃ち落とされるんじゃないか?最低でも威嚇射撃はあるだろ」
「そういえば…」
ババババババババババババッ
楽羅が何か言おうとするが、その声は信彦達の乗るヘリの音にかき消された。
やがて、2人の父親が着陸したヘリから駆け寄って来る。
そして将文は、慎一郎の側まで来ると、その姿を見て嬉しそうに笑う。
「いい顔だ。久々に男の顔になってるぞ」
ニヤリと笑いながら、慎一郎の頭をポンポンと軽く叩く。
慎一郎は、珍しく自分が父親に褒められた事に照れながら、それを誤魔化す為にわざとぶっきらぼうに答える。
「いや全然、まだまだ半人前だろ?それよりも…」
慎一郎は信彦の側まで行き、さっきの疑問を相談してみた。
そこで信彦の口から事情を聞いて、初めてこの基地の現状を知る事ができた。
その証拠に、司令官と思われる男が数人の部下と共に駆け寄って来て、4人の親子に対し、深々と頭を下げた。(米軍では謝る時に頭を下げる事は無い、マッケン中将が信彦の機嫌を損ねないように、クルーガー大佐に厳命していた)
さらに信彦に対して、焦りながら英語で事情を説明し始めた。




