慎一郎が考えた攻略方法
慎一郎が楽羅に注文したそれは、長さ20m、高さと幅は4mにもなる氷の直方体。
しかし、決してただ大きいだけの氷の柱ではない。
氷の両端には穴が空き、中は空洞になっていて、その中には楽羅が海から移動させてきた大量の海水が入っている。
両端の穴のサイズは極端に違う。楽羅達の居る方の穴の大きさは、直径2m以上の円形。反対側の穴は、線のような隙間しかない。
「じゃあ試してみるか」
慎一郎は振り返ってE3の機体を睨む。
E3は慎一郎達2人が建物の屋上に居るために、その機体を高く浮き上がらせて近づいて来ている。
その距離約40m。
楽羅は慎一郎とE3との間の直線上に氷柱を浮かせて、動かないように能力で固定。
そして2mの円形の穴に、厚さが1mの分厚い頑強な氷で蓋をする。
慎一郎はその蓋に向かい、両足を踏みしめ、腰を据えて構える。
今の己に打てる最強の一撃を放つ為、体の中で極限まで能力を練り上げていく。
「楽羅、あの機体が氷柱の鼻先まで来たら、俺から目を離すなよ。
一瞬でもタイミングがずれれば、失敗だからな」
「分かってる、いつでもいいわ」
楽羅は氷柱に向けて手をかざし、刹那の狂いも逃さないように集中する。
E3はガトリングガンを撃ってくるが、氷柱は能力で補強してあるのでヒビすら入らない。
やがて、その機体が氷柱の端から1mまで近づいた時、
「楽羅っ!」
慎一郎はそう叫びながら、突きの威力をさらに上げる為に、体の中で練り上げた能力を瞬間的に加速させ、分厚い氷の蓋に渾身の一撃を放つ。
ドゴォォッ!!
氷の蓋に拳が当たると同時に、鋼以上に鍛え上げられた慎一郎の手の甲の骨が砕ける。
それほどまでの威力で打たれた氷の蓋は、凄まじい速度で打撃方向に移動する。
氷の中にある海水は、当然それと同じ速度で押し出されるが、その押し出されるスピードを楽羅が能力を使って、さらに数倍に加速させる。
氷柱の中の空洞は、E3の側の出口になるにつれて細く小さくなっている為に、海水に掛かる圧力が跳ね上がり、そして線のように細い出口から音速を超える速度で弾き出された海水は、E3の機体を直撃し、
ッパアァン!
衝撃音と共に、あっさりとその機体を貫いた。
その様は、はたから見ればまるでE3の機体が立体映像で、実際にはそこに何も無いのではないか、と思えるほどにあっけなかった。
慎一郎が考えたE3の攻略方法は、ウォーターカッター。水というものは、その特性として高い圧力と速度を加える事によって、とてつもない破壊力を持つ。
その特性を活かす為に、楽羅の能力で土台となる入れ物と海水を準備してもらったのだが、物体を移動させる能力では、要となる初速を生み出す事はできない。
それを補ったのが、慎一郎の渾身の一撃。
慎一郎の打撃によって生み出された衝撃、そのスピードを加速させるだけならば、能力でも可能。
ただし、慎一郎が言ったように刹那の狂いも許されない能力の発動、それを成し得た楽羅の集中力と化け物としか言いようのない才能。
おそらく、この2人以外の他の誰かにこれをやらせても不可能だろう。
天賦の才と、その才をひたすらに練り上げてきた2人だからこそ成し得た、奇跡の如き技。




