表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エスパーワールド  作者: 碧鬼


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/105

上出来だ、文句ねえ

慎一郎の体はもう、何度押し潰され、弾き飛ばされたのか…


「がはっ…うぐっ、ゼェ…ゼッ…」


体のあちこちを自らの血で紅に染め、震えの止まらない膝を無理やりに意思の力で支える。


「ハァッ…ゼッ…くそ、あばらも、ハァッ、何本か、やられたか…」


肩で息をしているにもかかわらず、少しも呼吸が楽にならない。


(かなり…ヤバイな、だがまだだ。まだへばるわけにはいかねぇ。

楽羅にカッコつけたしな…何より、ここでへばったら…

爺ちゃんにあわせる顔がねえだろうが!)


楽羅は、慎一郎が走り出した直後に目を閉じ、唯ひたすらに能力に集中していた。

凄まじい精神力と意思の力で自らの感情を抑える為に、口の中に血がにじむほど己の歯を食いしばりながら。


(できるなら…できる事なら今すぐにでも慎のそばに行って、少しでも慎が怪我しないように、楽に動けるように慎の隣で助けてあげたい…力になりたい!

でも、あの機体の前では自分の力は無力なだけ、慎を助けるどころか、足手まといにしかならない)


オオカミから助けてくれた慎一郎に憧れて、10年近くがむしゃらに自分の能力を磨いてきた。

その力が通じない…その事実がどれほど悔しいか…


(でもだからこそ、今は自分にできる事をやらなければならない。

10分も掛けてなんていられない、少しでも早く…1秒でも早くっ!)


10分に満たない、しかし狂おしいまでに感じだ時間を掛けて、


「できたっ!」


楽羅が目を見開き、間髪おかずに慎一郎をその目に捉えて、自分の感情を押し出すようにその名を叫ぶ…


「シィィィンッ!!」


己を呼ぶ楽羅の声が耳に届くと同時に、慎一郎は踵を返して声の元へと駆け出した。

凄まじい痛みが、足を踏み出すたびに体中に広がっていくが、それを無視して全力で走る。


(情けない男だな…俺も)


激痛を押して走りながらも、慎一郎は思う。

正直なところ、自分の体は楽羅の声を聞いた途端に反応したのだ。

鉛のように重かった体が、不意に少し軽くなり、自分の力ではほとんど動かせなかった足が、これほどまでに大きく踏み出せている。


(俺もまだまだだな)


そう己を戒めながら走る。

だが、そんな慎一郎をもしもその祖父が見ていたら、お前は間違っている、

と言うだろう。

慎一郎の事を必死に想い、

慎一郎の無事を必死に願い、

慎一郎への想いを何年も心の奥に秘めてきた者の叫び声が、慎一郎の体を動かす力にならないはずがない。

それが分からぬから、お前はまだ人として半人前なのだと…


慎一郎が建物の近くまで来たのを見て、楽羅は能力を使って慎一郎を浮き上がらせ、自分の側まで運ぶ。

その血だらけの姿を間近で見た楽羅は、思わず泣きそうになって顔を歪ませるが、すぐに顔を伏せる。

自分の気持ちを無理やりに抑え込んで、前を向いた時には口の端をつり上げて不敵に笑う。


(今はまだ泣けない、ここで感情に負けてしまっては駄目。慎が望んでるのは、心配や泣き顔なんかじゃない。

ここは戦場、今は戦のただ中)


なればこそ、不敵に笑んだまま慎一郎に問う。


「どう?出来ばえは?」


楽羅が指したそれを見て、慎一郎もニヤリと笑い、それの表面を軽く指で叩きながら、その仕上がりを称賛する。


「上出来だ、文句ねえ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ