天才かもよ?
慎一郎は自分達が居る建物にゆっくりと近づいて来るE3を見ながら、その機体をどうやって打ち破るかを、必死で考えていた。
(考えろ俺…どんなヤツだって物体である限り、壊す事は可能なはずだ。だが、アンチコーティングが効いているのなら、この状況じゃ楽羅の能力でもどうしようもない。
摩擦係数がほとんど無いなら、俺が殴るのもさほど効かない…後は、斬る…くらいか?
でも刀も無い…いや、待てよ…)
「あった…」
「え?」
「あったぞ!あの機体をどうにかできる方法が!」
「ホント!?」
楽羅は思わず慎一郎の言葉に食いつく、
「でもその前に、これから言う事を楽羅の能力でどこまでできるのかを教えてくれ」
「いいよ、どんなのが必要?」
「ガキの頃、氷を発現させてたな?今でも氷はいけるのか?」
「当然」
「よし、まず海水を4トンぐらいここに持ってこれるか?あと、20mの大きさの氷を出せるか?そして、その氷をどれくらい頑丈にできる?」
「海水は問題無い、私が飛ぶ時にも使う物体を動かす要領でいけるわ。氷の大きさも大丈夫…問題は氷の強度ね。これだけは、氷を作り出すまでに掛けた時間次第なのよ。最高の硬度にするには2分も掛からないけど、それを薄くして何層にも重ね合わせて、氷と氷の間を能力で補強する事でさらに頑丈にできるの。
だから限界まで硬くするなら、10分かな」
「分かった、ならできるだけ硬いのを頼む。
形は………みたいな感じで、あとは海水を…………これで頼む」
慎一郎は自分がイメージする氷と海水の使い方を、楽羅に説明する。
「…凄い、すっごいよ慎!ひょっとして貴方天才かもよ?」
それを聞いた楽羅は、感激しながら慎一郎を手放しで褒める。
「ふははは、今頃気づいたか?って言いたいが、前にテレビで見た事あんだよ、水のそういう使い方」
「でも、もうそんなに時間無いみたいだよ?ほら…」
楽羅の言う通り、E3の機体は機関砲のある建物から150mほどの距離にまで近づいていた。
時間を稼ぐにしても、機関砲ぐらいでは役に立たない。
「俺が足止めしておく、だから急げ」
それを聞いた楽羅は慌てて能力を溜めに掛かるが、
「そんなの慎1人じゃ無理だよ、10分掛かるんだよ?それに、私がお父様から聞いたのは機体の防御面だけで、どんな攻撃をしてくるかなんて分かんないんだよ?」
「楽羅、あの機体の性能は信じても、俺の事は信じられないか?」
そう言われた楽羅は言葉に詰まり、一瞬でさまざまな事を思う。
(信じてないわけないじゃない!ただ私は、慎にあの時みたいになって欲しくない…だけど、慎は心配して欲しいわけじゃないもんね…)
歪んだ顔を慎一郎に見せない為に、数秒だけ顔を伏せ、再び顔を上げた時には、
「分かった、信じてる…でも、途中でへばったりしたら許さないっ!」
楽羅の覇気に満ちたその言葉と表情に、慎一郎は口の端をつり上げて応える。
「応、任せとけ」
慎一郎が走り出した時にはすでに、E3の機体は100mの距離にまで迫っていた。
慎一郎は屋上から飛び降り、最速でE3の前にたどり着くと、そのままの勢いで、
ドゴッ!
正面から拳を叩き込んだ。
空中に浮いていた3mの大きさの機体は、何の支えもなく10m以上後退する。
「ちと俺に付き合ってもらうぞ、その代わり退屈はさせねぇ、俺も出し惜しみは無しだ。
全力でやってやる」




