2人の父親…2
「分かった、こちらでも何か手を考える」
信彦と将文は、天切の屋敷の敷地内にあるヘリの離着陸場に到着していた。
高速ヘリに搭乗しようとしていた時に、マッケン中将からの連絡を受けたのだ。
信彦はマッケン中将との秘匿回線を閉じると、すぐに部下に命じて所有会社にある実験施設を呼び出した。
「今から輸送ヘリを回すから、そこにある高出力レーザーを積み込め。質問は無しだ、今すぐ準備に取り掛かれ」
そして今度は、その実験施設に一番近い大型輸送ヘリの格納庫を呼び出し、必要な事を伝える。
一度大きく息をついてから、将文に状況を説明した。
「…レーザーを使うのは最終手段です…その前に子供達を上手く助け出す事ができれば、後の事は米軍に任せればいい」
そう言って信彦はヘリに搭乗するべく歩き出すが、不意に将文に止められた。
「動かない方がいい、ヘリの横に誰か居るようです」
信彦はヘリの方を見ていたが、自分の部下以外の姿はない。
「私の部下以外に誰か居ますか?」
「私の目にも、誰か見えている訳ではありません。
にも関わらず、誰も居ないはずの場所から僅かに気配がある、それが問題です。
一応聞いておきますが、貴方の私兵の中で姿を消せる能力者は居ますか?」
信彦は将文の言わんとしている事に気付いて、周囲を警戒しながら答える。
「ええ、おりますが…今はそれぞれの諜報活動の為に動き回っており、この屋敷には誰もいません」
「ならばあそこに居るのは部外者…誰一人その場を動くな!!」
将文は大音声でそう言うと、ヘリの横まで即座に移動し、何もないその場所を鞘ぐるみの刀で横一線に薙いだ。
「ちぃっ!」
何もなかったその場所から、舌打ちと共に黒尽くめの戦闘服を着た男が現れた。
「おいおっさん、どうやって俺の姿を認識しやがった?何の能力だ?」
将文の刀を完全には躱しきれず、男は左腕を押さえながら将文を睨みつける。
「お前に言うても理解できまい…それにしても、何故姿を現す?逃げるなら、姿を消しておいた方がいいだろうに」
「ひゃはははっ…俺が獲物を前にして逃げるわけねえだろう!おっさん、ウィザードって知ってるか?
左腕を砕いてくれた礼だ、一瞬で殺してやるよ!」
男は狂気した笑い声でそう言って、将文から距離を取り、右手をかざして1m近い大きさの電気の塊を浮かび上がらせる。
バチバチと放電しながらイオン臭を漂わせるその塊を放とうと、
「死ねよおっさん!」
しかし、その電気球が放たれる事はなかった。
男の首が口を開いたまま、その体の足下に転がったからだ。
男が将文に手を向けた刹那…将文は地を蹴り、一足飛びで男の間合いに入ると、抜き打ちの一閃で男の首を落とし、その首が地に落ちる前には刀を鞘に収めていた。
将文は息一つ乱さずに辺りを見廻し、そして信彦に声をかける。
「刺客はこの男だけだったようです、先を急ぎましょう。御息女を助けなければ」
信彦は驚嘆し、将文に駆け寄って礼を言う、
「いや有難う御座いました。もし私だけならば、危うかったかもしれません」
ヘリに乗り込んでから、将文は刺客に心当たりが無いか信彦に聞く、
「あの男に見覚えはありませんか?あの男は、御息女の事で焦りが生じているはずの、貴方の隙を狙ったのでしょう。
子供達を連れ去った連中も、あわよくばとでも思ったのでしょうが…逆にこちらにすれば、あの男は手掛かりになるかもしれない」
だが信彦は首を横に振る。
「いや、見た事の無い顔でした。私の立場上、今まで何度も命を狙われた事は有りますが、誰一人首謀者の情報を知っている者は居ませんでした。
おそらく今回の場合も、先ほどの男と子供達を連れ去った連中との繋がりがはっきりするのは、事が収まった後でしょう」
「そうですか」
将文はそう言って下を向くが、今度は信彦が話を振る、
「それにしても、先程はお見事でした。ウィザードですら相手にならないとは、素晴らしい技です」
「いやいや、大した事はありません。能力を使う時には、よほどの使い手でなければ溜めや隙があり過ぎる。そこをついただけです。
そういえば…先程言っておられた相当頑丈な機体の事ですが、もしも子供達を上手く逃がしきれない時には、私が斬りましょう」
将文は刀の柄を叩きながら、平然と言う。




