困惑
クルーガーのもとに、船からの通信が入る。
レイス以下の5人を拘束し、残る1人は死亡したとの報告があった。
基地内の負傷者の手当ても始まっているが、クルーガーにとって最も苦慮すべき問題があった。
船と基地内の兵士達には、先ほどの命令が伝わり誰もが戦闘行為を止めているが、唯1人その命令が伝わっていない者がいた。
それは、E3の機体を操るオペレーターだ。
戦闘中止の命令が伝わっていないのは、E3の性能上の問題である。
ほぼ全ての物理攻撃を防ぎ、能力さえ無効化する機体。
唯一の弱点と言えば、その内部だろう。
外からの攻撃を防がれるのであれば、内部の電子機器を止める。あるいは通信障害を起こし、中のオペレーターを混乱させてしまう。
そうした攻撃手段を、敵対した者達がとるのは必然。
ならば、それに対する防御策を機体に施すのも当然。
E3の機体は、あらゆる電波、電磁波を受け付けず、オペレーターも外部との通信は一切できない。
その為、オペレーターとなる兵士は完全独立型のスタンドプレイを要求される。
つまり、その兵士は命令を受けてから機体に乗り込み、出撃して命令を実行した後、帰還して機体から降りた時にようやく外部とのコンタクトが可能になるのだ。
以上の理由から、オペレーターには戦闘中止の命令を伝える手段が無い。
そこで通常ならば、完璧に変更する事が無いと分かった上での任務にしかつかない。
分かりやすく言うなら、銃の引き金を引き、銃口から発射されてしまった弾丸に、止まれと言っても止まらないのと同じ。
どうしても止めたいのであれば、力ずくで止めるしかない。
しかも相手は弾丸などではなく、今ある兵器の中でも最高峰の代物。
この基地には、E3を止めるだけの装置も武力も無かった。
やむなく、クルーガーは非常回線を開き、マッケン中将に取り次ぎを乞う。
「閣下、レイス以下の5人を拘束、残り1人は死亡しました。基地内の兵士達は戦闘を中止し、現在負傷者の手当てを行っております」
「結構だ、ではレイスという男の身柄を…」
クルーガーに次の指示を出そうとしたマッケンの言葉は、そのクルーガーによって強引に遮られる。
「閣下、自分の判断ミスにより、現在基地内に問題が発生しております。…実は…」
切迫したクルーガーの説明を聞いたマッケンは、怒りの声を上げる。
「何という事をしてくれた!許可も権限も無しにEシリーズを動かしたというのか!」
状況を理解したマッケンだが、彼自身もとっさに何か対処策を出す事はできない。
「とにかくこちらで対処法を出す…それまで手を出さず、兵士達を待機させておけ!」
そう言って回線を切り、別の回線を開く、
「天切か、マッケンだ。軍港の兵士達は戦闘行為を止めた…だが問題があり、状況は好転しているとは言えない」
マッケンの説明を聞いた信彦は、さすがに困惑の表情を浮かべる。
「では今娘の相手は、あのEシリーズだというのか…」




