もっと褒めてイイよ♪
慎一郎は、目の前の巨大な装置を叩き壊すべく、力任せに殴り続ける。
装置自体もかなり頑丈に作られてはいたが、殴り始めて30秒ほどで火花が散り始め、やがて小さな爆発を起こして煙を上げ、ショートしたのか動かなくなった。
それを見届けると、慎一郎はすぐに屋上にある機関砲に向かった。
(楽羅に能力を使えるようになったのか、確かめてもらわなきゃならない。
俺が海まで走って行ってそれを伝えてもいいが、もし今壊したのがハズレなら、時間をかなりロスしちまうからな)
慎一郎が考えた方法は、機関砲で海上の兵士達を狙い撃ちするというもの。
(これなら俺が海まで走らなくても、楽羅に俺の考えが伝わるだろ)
そう考えて屋上に出た時、海全体が真昼以上の光に包まれた。
「うおおっ、ちくしょう!目が!…なんだ?楽羅の仕業か?」
慎一郎は堪らずに目を固く閉じ、手探りで機関砲の台座に向かう。
やがて闇が戻り、視界を取り戻すと、海上の状況を確認する為に機関砲のスコープを覗く。
「えっと…お、楽羅みっけ…なんだあれ?」
楽羅を見つけるが、その150mぐらい先に見た事もない機体が浮かんでいた。
(まあ、楽羅が対峙してる以上あの機体も俺達の敵に変わりはないか。とりあえず、狙ってみるか)
…………………………………………………
楽羅がプラズマを放ってから確信した、あの機体の正体。
「何か手を考えないと、このままじゃ勝てない…」
今の楽羅には正直なところ、あの機体に勝つ方法が全く思い浮かばない…というのが本音。
(とにかく、時間稼ぎだけでもしなくちゃ)
そう思って機体に手を向けた時、
ドッドッドッドッドッドッ…
けたたましい機関砲の発射音…だが楽羅の能力は発現しない。
なぜなら、狙い撃ちされたのはあの機体。
(なぜあの機体が狙い撃ちにされてるの?ここの基地のヤツじゃなかったの?でも、海上の兵士達はあれをどうにかしようとはしてないし…もしかして!)
楽羅はとっさに基地に向かって飛ぶ。
そして、基地内にたどり着いても自分の体は空中に浮いたまま。それはすなわち…
「慎、やっぱりあの機体を狙ってるのは慎ね!
…慎がコーティング装置を壊してくれたんだっ!」
楽羅は最速で機関砲のある建物まで飛んで行き、慎一郎のもとにたどり着くや、
「慎っ!」
そう叫びながらその体に抱き着いた。
「ぐはっ!?」
楽羅としては抱き着いたつもりだったが、慎一郎にとってその行動は不意打ちのタックルだった。
それはそうだろう…慎一郎は今まであの機体を狙う事に集中しており、しかも楽羅のスピードは最速のまま。
結果、慎一郎は台座から弾かれて、そのままゴロゴロと転がりながら怒鳴った。
「楽羅!何で俺にタックルをかましやがった!?」
怒鳴った慎一郎にも楽羅は笑顔のまま返す、
「女の子が抱き着いて来たら、しっかり受け止めなくちゃダメだよ?」
「アホか!可愛ければ何をしても許されると思ってるなら、大間違いだぞ!」
「えっ、私可愛い?カワイイかな?もっと褒めてイイよ♪」
「褒めてねえよ!…ったく」
慎一郎は悪態をつくが、楽羅としては自分の感情を抑えかねている為に、こんな事をしてしまう自分を止める事ができないでいる。
(慎が側に居るだけでこんなにワクワクして、テンションを抑える事ができないなんて…もっと女の子らしくしたいのに…なんだか空回りしてばっかりね)
慎一郎は、やれやれと頭を振りながら起き上がり、海を向いて目を細める。
「なあ、あれって何か知ってるか?俺初めて見るんだけど、頑丈な野郎だ…機関砲の弾ぐらいじゃ傷一つ付きやがらねぇ、硬さだけなら戦車以上か?」
「戦車どころじゃないわよ…アンチマテリアルライフルはおろか、120mmを当ててもへこます事すらできないはずよ」
楽羅の言葉を聞き、慎一郎はさすがに言葉に詰まる。
「マジかよ?何なんだアレ」




