米国とのやり取り
信彦と将文は外に止めてあった専用車両に乗り込む。
信彦はすぐに、私用衛星の秘匿回線を開くように命じる。
「米国の国防総省にいるマッケン中将に繋げ」
「畏まりました」
信彦の命を受け、運転席のすぐ後に居た黒服の1人がすぐに取り掛かる。やがて、車が走り出してから2分余りで回線が繋がる。
「マッケンか?天切だ、挨拶は抜きだ。
私の娘を連れ去ったのは米国自体の意思なのか?
それだけを確認したい」
「おい待ってくれ、何を言っている?落ち着いて話してくれ、お前さんの娘がいったいどうしたというのだ?」
アメリカ国防総省で、長官の相談役という立場のマッケン中将。
役職は相談役だが、事実上アメリカの舵取りの実権を握っている1人であり、その発言力は現職の大統領も首を縦に振らざるをえない。
それだけの権力と実権を持つマッケンだが、何の脈絡も無い信彦からのいきなりの言葉に、咄嗟には頭が追い付いていかなかった。
「私の娘が何者かに連れ去られた。そしてそれに米国が関与している」
「待て待て、なぜうちの国が関わっていると言えるんだ?」
「日本にある米軍の第2軍港が今どういう状況なのか、把握していないのか?」
「いや、あそこの火柱と機関砲の発砲はうちの衛星でも確認している。今、海軍に状況を確かめさせているところだ」
「本当に現状を知らんのか?あの火柱はうちの娘がやったものだ、つまり…あそこの連中が娘を連れ去り、それが原因でやり合っている最中だ。
もしも娘に危害を加えたのが、米国自体の意思ならば、今から米国自体が私の敵だ。
国際問題になろうが戦争になろうが知ったことか…容赦無く潰してやる。
前にお前達(米国の実権を握る者達)にはそう言ったはずだったな!」
「いや待ってくれ!状況は分かった、だが誤解だ。
その件はうちの意思ではない!神と星条旗に誓って違う。考えてもみろ、お前さんとやり合って米国に何の利がある?
今すぐに第2軍港を黙らせる…それまで待ってくれ」
「…分かった、今はお前の言葉を信用する。私も今現地に向かっている最中だ。
こちらが落ち着き次第、また連絡する」
回線を切り、信彦は将文に顔を向けた。
「2人を連れ去った事自体は、米国側の意思とは無関係との事ですが、今戦闘を行っているのは米軍で間違いないようです」
「そうですか、しかし…本当に米国とは無関係となると、2人を連れ去ったのは随分と厄介な連中のようですね。在日米軍の海軍でさえも動かせる立場にある者が、仲間内にいるのか?
それとも、その立場にある者を意のままにできる脅しの情報でも握っているのか?」
将文の考えは、無論信彦にも浮かんでいたが、
「現状ではまだ情報が少なすぎます。とにかく今は2人を助け出す事だけを、最優先で考えましょう。
今22時過ぎですから、私の屋敷からヘリを飛ばせば日付が替わる前には現地に着けます」
将文は頷くが、信彦にとって意外な言葉を口にする。
「実は、息子についてはそれほど気に病んでいる訳でないのです」
「…いや、それは…子の無事を願わぬ親などおらんでしょう?」
「いや、無事であればとはもちろん思っています。
ただ心配はしておりません。まだ未熟ではありますが、あれも【逆神】の血を引いておりますから」




