プロトタイプE3…
ドガァ!
基地の司令室で、机を殴りつける音が響く。
「馬鹿な!それぞれの目標に対し、機関砲すら意味をなさないというのか!」
最早冷静でいられなくなったクルーガーは、自身の苛立ちと焦りを抑える事ができなくなっていた。
「大佐、一つお聞きしてもよろしいでしょうか?なぜあの子供達は、逃げようとせずにこの基地と正面から戦っているのでしょうか?」
そう、クルーガーもその事をずっと考えていた。
あれだけの力を持っているのであれば、逃げる方が遥かに簡単なはずだ。
「…おそらくだが…あの子供達にとっては、逃げた後の事が問題なのだろう。
我々は命令次第で新たに装備を整え、再びあの2人を狙うだろう。
そうさせない為には、逃げるよりもこの基地と正面から戦い、我々の戦力を確実に断つつもりなのかも知れん。そうする事で、こちらに対して自分達の力を誇示するつもりだ。
現に、今我々はあの2人に対して有効な手を打てないでいる」
「…しかし、このままでは…」
クルーガーは苦虫を噛み潰したような顔で悩んでいたが、やがて開き直ったように顔を上げ、
「船に連絡して、プロトタイプE3を出させろ」
その言葉に部下の1人が声を上げる。
「しかし、あれを使う権限は…この基地にはありませんが…」
「かまわん!このままではどうにもならん。それにこの状況ならば、最高の実戦試験運転になる」
…………………………………………………………………
絶え間なく撃ち出されていた機関砲の集中射撃が、急に止まった。
「あれ?」
不思議に思いながらも、今のうちに海上の敵兵をどうにかしようと、楽羅は後ろを振り向いた。
その目が、沖から近づいてくるそれを捉えた。
それほどスピードは出ていない、むしろ遅いと言ってもいいだろう。
だがそれは、海面すれすれを低空で飛行しながら近づいてくる。
(飛んでる?船やボートじゃない?…何か光った)
光の尾を引きながら撃ち出された物体は、
「ミサイル!?」
とっさに火球を打ち出して、ミサイルを迎撃する。
ズッドドドドオォ!
巨大な水柱を上げながらミサイルが爆発する。
その海水のしぶきの中を、ミサイルを打ち出してきた見た事もない機体が進んでくる。
外見は、戦車からキャタピラと主砲を取り除き、それを2両用意してその腹を張り合わせたような、そんな無骨な外見。
(いきなりミサイルなんて物騒なのを使うなんて…でも、あの機体を今基地内に入れるわけにはいかない。
これ以上慎を危ない目にあわせられないもの)
「悪いけど、海上で灰になってもらうわ」
楽羅はそう言いながら、海上を進んでくる機体に向かって手をかざし、
ゴオッ!
海上の機体を中心に、さっき発現させた巨大な火柱を立ち上らせる。…が、
「え?嘘でしょ?」
楽羅は驚愕する。なぜなら、炎の中から平然とその機体が現れたからだ。
しかも見た目には、どこにも損傷した箇所は見られない。
(どういう事?大きさはさっきと同じだったけど、火力とそれに伴う熱量は倍ぐらいあったはずなのに…
まるで、何でもない事のように平然としてるなんて)
「…何でもないように?」
自分の考えに引っかかりを感じて、思わず口に出してから、
「まさかあれって!」
自分の勘が当たっているのなら、あの機体はヤバ過ぎる。
「今のうちに確かめなくちゃ」
楽羅はそう呟くと、今度は両手を突き出し、己の今発現できる能力のその全力を出す為に、能力と意識を集中させ、そして…
カッッ!!
楽羅と相手の機体を結ぶ直線上を中心に、その辺りの海上、海軍基地を含めた全てが真昼以上の光に包まれた。
海上の兵士達が思わず目を閉じ、顔を手で覆うほどの、楽羅自身も瞼を固く閉じて顔を背けるほどの異常な光量。
その熱量は最早、炎と呼べるような段階ではなかった。温度が高くなり過ぎ、炎を構成する分子同士が離れて原子になり、さらにその原子核にある電子がとどまれなくなるほどの、超超高温状態。
いたる所からフレアと呼ばれる超高温の炎を撒き散らし、相手の機体を襲うその現象の名は…プラズマ。
その光が通る真下の海水は、触れてもいないのに余熱だけで一瞬にして沸点を超え、水蒸気爆発を起こしながら気化していく。
やがて、10秒にも及ぶプラズマの放射を止め、さすがに荒く息をつきながら、楽羅が呟く。
「はあっ、はあっ…ちぇ…やっぱりね」
プラズマの直撃を受けてなお、その機体は海上に浮かんでいた。
動きは止まっていたものの、何事も無かったかのように…
ここにきて、初めて楽羅の口から弱音が漏れる。
「ちょっと、ヤバイかな…勝てないかも…」




