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エスパーワールド  作者: 碧鬼


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15/105

交渉?長くてイラッとしたから、顔面を殴りつけてやった

入って来たのは4人、全員が黒い戦闘服で前の2人は手に何も持っていなかったが、後の2人はそれぞれベレッタを構え、慎一郎と楽羅に各々の銃口を向けている。

楽羅の正面に立った男が、口の端をつり上げながら話しかけてきた。


「さて、始めまして美しいお嬢さん。誘い方が少々強引だったが、こうでもしなければ君とは話もできないのでね」


自分達をさらった連中に否応なしに銃口を向けられて、怯えるのが普通なのかもしれないが、楽羅も慎一郎も全く動じていない。


「誘い方が強引だった?狙撃して強制的に拉致ってきただけじゃない。…それで、何の話?」


男の顔を真っ直ぐに睨み返しながら、心底嫌そうに楽羅は聞き返す。


「こちらは君の事を十分に知っているが、今の段階では君にこちらの素性を明かすわけにはいかない。

名前だけは名乗ろう、レイスと呼んでくれ。

さて、単刀直入にこちらの目的を、要は君をスカウトしたいのだ。なに…悪い話ではない、きちんと働いてさえくれれば、それに合うだけの条件と報酬を約束する」


「はぁ、スカウト…ね。クライアント、スポンサーはどこの国かしら?」


楽羅は溜息をついてから、続けざまに言う。


「貴方は日本語を喋っているけれど、ここまで強引で直接的なやり方でスカウトをしようとする以上、少なくとも日本国内ではあり得ないもの。

天切を相手にしようなんて馬鹿は、頭がどうかしてるのよ。

船を使ってるのがいい証拠。どこの国の船かきちんと提示しておけば、どこの港でも堂々と出入り出来るしね。

私をスカウトしたいのは、もちろん戦力として欲しいから。

自分で言うのもなんだけど、私が味方につくかつかないかで、国同士の戦力バランスが多少傾く。

私がつけば、軍事資金に多くつぎ込むよりも、より強力に、より安く戦力を手に入れられるし、しかも消耗品の兵器と違って、私が1人居ればいいわけだもの。

そうでしょ?」


レイスと名乗った男は、苦笑して首を軽く振る。


「いやはや、もの凄い自信だ。本当に10代の子供なのか疑いたくなる」


それに対しも、楽羅は平然と言う。


「その10代の子供に、ここまでの手間をかけている時点で、私の言葉を完全否定する事はできないわよね?」


慎一郎は横に居て、一言も口を挟まず思考を巡らせている。


(楽羅をスカウトしたいと言うのならば、それは事実だろう。

昼間に学校で見たアレを考えれば、確かにどこの国の誰だろうと、戦力として欲しがる。

俺との待ち合わせ場所で、たった一発で狙撃された事を考えて、今すぐに戦場に立つのは無理だろうが、それは当たり前の事だ。

そもそも、戦場を経験した事が無いのならば、誰だって一発で殺されてしまう。

戦場で勝ち抜き、生き残るには、才能や意志の強さだけではどうにもならない。

それらに加え、場数とそれに基づく徹底的な訓練があって、初めて戦場で勝ち抜いていく事ができる。

つまり、今すぐには無理だが数年もすれば、楽羅が絶大な戦力になる事は、目に見えている)


楽羅はさらに喋り続ける。レイスに対して会話の主導権を握らせない為と、挑発も兼ねて、


「彼を一緒に連れてきたのは、私との交渉を手っ取り早く進める為の人質?

それでも私が応じないなら、私と彼を殺す?

そうすれば、少なくとも日本から私という戦力を減らせるもの。

もし戦争になった時、多くの戦力と引き換えに私を殺すより、今殺っておいた方が貴方達にとっては破格の利益になるわ。……という事はつまり、戦争でもやるつもり?」


レイスは楽羅の言葉を黙って聞いていたが、その顔からは笑みが消えていた。


「そこまで頭が回るものかね、末恐ろしいな…ところで1つ質問だ。いや、大した事ではない。君がスカウトを受けるか、死を選ぶかを決めるまでの時間潰しのようなものだ。

そこの彼についてだが」


そう言ってレイスは慎一郎の方を向き、


「彼は能力をほとんど使えないのだろう?この船に連れてきてから調べたんだが、能力の数値が皆無だ。

しかも君が危ういというのに、一言も口をきかず下を向いたままだ。君を助けようともしない…

正直、クズのような男だな。

なぜこんなクズと待ち合わせなどしていた?」


明らかに上から見下すような目で慎一郎を侮辱する。

レイスは自らが力に頼っている為に、力の無い者には価値が無いと決め付けている手合いなのだ。


その侮辱に、慎一郎は顔を上げてゆったりと口を開いた。


「まあ、友達が1人も居ない俺がクズっていうのは、当たってるんだろうが…そこまで露骨に言われると、さすがに頭にくるな」


「ほう、ならどうする?俺の顔を殴って、お嬢さんを助け出してみるか?」


そんな事はできる筈がないと、レイスは言うが、


「ああ、そうだな…そうしよう」


レイスはその言葉に笑いそうになって、できなかった。

慎一郎の拳で顔面を潰され、後ろに飛ばされたからだ。


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