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エスパーワールド  作者: 碧鬼


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105/105

厄災…3 慎一郎、灯吾、沙姫

お疲れ様です。

【エスパーワールド】は毎週月曜日の朝に投稿していきたいと思います!

宜しくお願いいたします!


一気に距離を詰めてきた元譲を、雷撃が襲う。


ゴガァッ…!


元譲を先に排除しようとした灯吾が放ったものだった。

だが雷撃は僅かに元譲から外れる。


「くっ!」


雷撃を放つ瞬間に、燈火が灯吾に向かって棒手裏剣を投げつけたからだ。

その狙いは正確無比で、灯吾が避けなければ頭に突き刺さっていただろう。

避ける為に雷撃の狙いが外れた。


「お前の相手は俺だろ?浮気は許さんぜ?」


そう言いながら燈火は灯吾に向かって、ゆっくりと歩みを進める。


元譲は慎一郎と沙姫に向かって駆けながら、懐から剣の柄を抜き放つ。

それを見た慎一郎は、僅かに眉をひそめた。

なぜなら、元譲が抜き放ったそれは柄だけで刀身は無かったからだ。

だが元譲が柄を振るうと…


ギンッ!


沙姫の【イェリコの壁】に衝撃が奔る。


(何だ?)


慎一郎はその衝撃の正体を考える。

元譲は距離を完全には詰めずに、柄を振るった地点で足を止めている。


ギンッ…ギンギンギンッ…!


元譲が柄を振るう度に衝撃が襲ってくる。


(できれば、アイツとの距離を詰めたいが…沙姫から離れるわけには…)


頭では、沙姫の【イェリコの壁】が破られる事は有り得ないと理解しているが、慎一郎の感情が沙姫を守らねばならないという矛盾を生んでいる。

慎一郎が逡巡していると、それを察した沙姫が簡潔に言う。


「ロウ、私に構うな…そして私を信じろ。

私は大丈夫だよ」


「ああ、そうだな」


慎一郎はそう言って元譲に向かって駆け出す。

元譲は顔をしかめた。


あの女には攻撃が通じない。

ならば女は後回しにして、向かって来るガキを先に始末する。


元譲は銃を慎一郎に向けて、引き金を続けざまに引く。


ドンドンドンドン…


だが、大口径の弾丸を受けても慎一郎は止まるどころか、避けようともしない。


「何だコイツらは!?」


元譲はそう言いながら慎一郎から離れる為に、沢に向かって走り出す。

そしてそれを追いかける慎一郎。

2人はそのままの勢いで沢に飛び降りた。


沢の流れを挟んで、再び対峙する元譲と慎一郎。

元譲は銃を捨て、柄を両手で握り締める。

その柄を頭上に上げて一気に振り下ろした。


ジャッ…


慎一郎が瞬間的にソレを避けると、慎一郎のすぐ後にあった太い木の枝が斬り落とされた。

更に、袈裟斬りに柄を振る元譲。

慎一郎は、元譲の動きを見ながら躱す。

そこで元譲も動きを止める。


「なるほどな…

お前の能力、見えない刀身を発現させてるのか。

もし斬撃を飛ばす能力なら、そんなふうに柄を振るう必要は無いからな。

斬撃を飛ばすなら、手首を使って軽く投げる感じで使った方が速いし、変幻自在な斬撃を出せる。

それをせずに剣を振るうのは、刀身が有る証拠だろ?

…敢えて斬撃を飛ばさずに刀身を発現させるのは、その方が強力だからか?

確かに刀身が届く距離なら、飛び道具よりも剣を振るう方が強いからな。

両手で柄を握り締めたのは、威力を高める為か…

その刀身、届く距離は10mぐらいか?

俺がこんな悠長に喋ってても攻撃してこないのは、俺が避けたからだろ?

俺がお前と距離を詰めようとした時に、カウンターを狙いたいんだろ?」


慎一郎が考えながら喋っている内容は、ほぼ正解だった。

元譲は振り下ろした斬撃が避けられたのを見て、この距離で剣を振るっても慎一郎を仕留められないと判断した。

だから慎一郎が距離を詰めようと向かって来る瞬間を狙っている。


だが慎一郎はソレが分かっていながら、脚を踏み出す。


「馬鹿が!」


元譲は慎一郎を罵りながら、横一文字に振り抜いた。


ゴギンッ!


だが斬撃は慎一郎の腕に受け止められる。


「ッ何故…!?」


慎一郎は剣を受け止めてからも脚を止める事無く一気に距離を詰める。

元譲は慎一郎を迎え討つべく柄を捨て、蹴りを放つが慎一郎はその蹴りを肘で打ち払い、そして元譲の顔面を全力の突きで打ち抜いた。


ガボッ…


慎一郎の渾身の一撃は、元譲の顔面の骨を砕き、その衝撃で脳を破壊し、首の骨も折れる。


「何故、だと?」


即死した元譲に、慎一郎は吐き捨てるように言う。


「俺の方が強いからに決まってるだろ。

あとな、お前は沙姫を狙った。

その時点でお前は終わってるんだよ」


慎一郎は元譲を舐めてはいなかった。

その証拠に、最初に振り下ろされた斬撃は躱している。

それは、元譲を確実に仕留める為の布石。

斬撃を躱せば、元譲はこう思うだろう…

躱すという事は、斬撃が当たれば慎一郎を斬れる…と。

だが最速で振り下ろした斬撃を躱されたという事は、この距離で剣を振るっても慎一郎を仕留められない。

ならば、慎一郎が距離を詰めてきた時にカウンターを決める…

そう思わせた。


慎一郎が元譲の能力で発現させた刀身を受け止められたのは、慎一郎が新たに獲得した体の表面を覆う能力。

慎一郎からすれば、その能力を試す事も考えていた。


そして慎一郎は元譲が使っていた銃を拾い上げ、残弾を確認すると、踵を返して駆け出す。


………………………………………………


燈火と灯吾は互いに応酬を繰り返していた。


ガガッ…バチバチッ…!


雷撃を断続的に放つ灯吾、その雷撃を常人離れした体術で回避しながら棒手裏剣を投擲する燈火。


燈火の能力は、相手が能力を発現させる直前を感知できる…というものと、もう一つ。

自身の身体能力を瞬間的に加速させる能力。

雷撃は放たれてからでは避けられない。

だから、その直前で感知して回避を始める。

そして、雷撃は銃弾のように僅かに躱すだけでは避け切れない。

回避する時には、瞬間的な加速で雷撃の間合いを完全に外す。


つまり、葛籠燈火もかつての慎一郎と同様に…

体の内側でしか能力を使えない。

たからこそ…異常なまでに体術に特化しているのだ。


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