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 綺麗な桜が舞っている。舞っている、なんて少しロマンチックに聞こえるが、ただ散っているだけなのだ。

 そんなことを考えながら教室に入る。そして気が付いたら体育館に着いている。

「新入生、入場」

と頭に響く声を聞いてようやく、今日から高校生だと思い出した。

 入場する時、聞き覚えはあるが、曲名は知らないオーケストラが聞こえてくる。新入生が多いため、ゆっくり歩いての入場はできない。

 校長の話を聞きながら、どの学校も校長の話は長いものなんだな、と思いながら、ぼーっと前の男子生徒のつむじを見る。結構後ろの方にあるんだな、なんてくだらないことを考える。

 入学式が終わり、教室に戻る。担任は「もうすぐ下校だから。チャイムが鳴ったら帰ってください」と言い、出ていった。高校は生徒に丸投げすることが多いと聞いていたが、下校の時も放っておくのか、と考えていた。

 そうすると、同じ中学のうるさい奴が騒ぎ始めた。くだらないと思いながら部活のことを考える。

 中学にはなかった部活だ。中学の時はなにも部活に入っていなかった。おかげでテストはいつも高得点だったけれど。

 素直に言えば、寂しかったと思う。クラスメイトが汗水たらして部活に打ち込んでいる姿に憧れていた。だから高校に入ったら絶対部活に入る、と決めていた。

「浅木」

苗字を呼ばれていることに気付く。相手の機嫌を損ねないように細心の注意を払う。「何?」

「うちのクラスで一番ブスなの、長谷川だと思わねぇ?」

 うちのクラスの長谷川さん。ちょっとぽっちゃりした眼鏡の女の子。中学が同じクラスで、いつも友達と笑う顔が可愛いな、と思いながら見ていたことを思い出す。もちろん恋愛的好き、ではないが。そんな長谷川さんは今にも泣きだしそうに顔を赤くしている。うるさい奴、山田と高校に入って初めて話すって言うのに、人の悪口とかダサいな、と思う。クラスメイトは困った顔をしている人、ニヤニヤしている奴、そもそも興味がない人、と様々だ。八割の目線は俺に向けられている。細心の注意を払うどころか、きっと不機嫌にしてしまうだろう。大きなため息をわざとらしく吐き出す。

「山田さ、良くないよ。そういうの。長谷川さんは、俺が休んだ時にノート見せてくれたり、怪我した時にも絆創膏すぐ出してくれたりするよ。まじでめっちゃ優しい。それをお前が気付いてないだけ、だと思うけどな」

そう言い終わるとタイミングよくチャイムが鳴る。そして席を立って帰ろうとする。

「う、うるせえよ!女たらしのてめえに、つべこべ言われる筋合いねえから」山田は興奮しいるのか、恥ずかしかったのか、顔が真っ赤だ。

「誰にもデートに誘われないお前に言われたくないわ」

抑揚のない声で、吐き捨てる。リュックサックを背負いながら、教室の引き戸に手をかける。そうすると山田がこっちに向かってくる。顔は怒りに満ち溢れて、後のことは何も考えていないようだ。そして腕を強引につかまれる。山田は言った。

「お前、どうなるか分かってんのか?」

面倒だな、と思う。こんなにも冷静な自分に驚く。何も言わずにただ山田の目を見る。

「なんか言えよ!」

 また深いため息をつく。そして掴まれた左手を動かす。右手を彼の腰に回す。左手は顎に置かれる。そしてその顎を、山田と自分の目線と合わせるために上げる。山田は何が起こったか分からない、という顔をしている。そして耳元で囁く。

「こうされたら何もできないくせに。後先考えず行動するのやめたら」

両手を彼から離し、もう一度引き戸に手をかける。今度はちゃんと開けることが出来た。教室から出るときにクラスメイト達の顔を見る。興味をなさそうにしていた人たちも視線をこちらに向けていた。全員きょとんとしていた。長谷川さんもきょとんとしている。そんな彼女に微笑んで教室を離れた。


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