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ベッドの掛け布団に潜る。
電気を消したばかりだったからか、目が暗闇に慣れていない。
夜は好きだ。何かが始まる気がして。
誰もが寝静まった時間に好きなことを好きなだけできるから。最近の律の中での流行は、25時あたりに、窓を開けてぼうっと夜風にあたることだった。
学生のうちにしか感じられない"背徳感"というやつを思う存分味わっていたい、という気持ちからだった。
流石に入学式があった日の深夜に起きる気にはなれない。
目を閉じているうちに、瞼が重くなっていく。完全に目を閉じたらこのまま眠りの世界へと落ちていってしまう。眠り自体はあまり好きではない。だけれど生きるために眠るしかなかった。
ちゅん、ちゅんっ
雀が鳴いている。朝を告げるアラームだ。
噛み殺すことができないあくびを遠慮なくする。もう少し寝ていたい。
服越しに何かの感覚が伝わった。すぐ後に肩を掴まれたと気付く。
「んあ?」
目を開けると伊織が律の部屋に立っていた。
『朝』
『まだ寝る』
伊織は胸の前でバッテンの形を作った。彼のその意思の固さに律は渋々頷いた。
朝食を済ませ、身支度も整え、家を出る。
伊織は「ろう学校」という聴覚などに障害がある子供が通う学校へ行く。
『行こうか』
『うん』
運がいいことに、通っていた中学校の近くに偏差値が平均くらいの高校があった。うちの中学校に通う大体の生徒がそこを受験する。母親が、弟のためにそこらへんに律と伊織を連れて引っ越した。だから、学校へ通うときはいつも一緒だった。
律は校門の前で伊織と別れた。伊織は強く地面を踏み締め、その門の奥へと歩みを進めていった。
自分が守らなければ、と勝手に思っていたが、律が思うよりも弟は強くなっていたらしい。少し寂しさを感じながらも、喜びという感情が胸の中に浮かび上がってきた。自分も前に進める時が来るのか、来ないのか。
律はまだ来てほしくない、そう無意識に思った。




