とりあえずひと段落な姑息なファンタジー。
生き残った盗賊達はあの後アジトへと逃げ帰っていた。
湿った洞窟の奥にあるアジトのドアを開けた先に蝋燭の淡く揺らめく明かりの中、凍えるように冷たい眼光をした男が佇んでいた。
男はゆっくりと盗賊たちに掌を向ける
「『凍えろ』」
男の一言により有無を言わせない静寂がもたらされる。
男の目の前にあるのは盗賊たちを飲み込んだ巨大な氷塊だ。
その氷塊に男の姿が映る。
服装などの特徴はソードによく似ている、腰に差した刀も同様。
しかし、身体的な特徴はソードとは全く違う。
長くまっすぐな灰白の髪に端正な顔つき、身長は190cmに届こうかという長身で全体的に線は細く見える。
しかし、何より目を引くのは、まるで凍えた湖面のような冷たい光を湛えたその瞳だろう。
男は、氷塊に蹴りを一撃入れる。
美しく洗練された動きで放たれたその一撃は氷塊を粉々に打ち砕く。
「8年振り……か、お前と会うのが楽しみだよ……ソード」
男は呟き、氷の粒を踏みつけて闇に消えていった。
=======================================
「残念ね、もう少しゆっくりしていけばいいのに」
名残を口にしたのはこの村の村長婦人だ。
盗賊騒ぎから三日目の朝、ソードとシオは村人ほぼ全員の見送りの中で村を発とうとしていた。
「いえ、もう十分お世話になりましたし、そろそろいきます……少し急ぎの用もありますし」
ソードは笑みを浮かべるが、その表情には疲れが見て取れる。
盗賊達の死体を片付けた後、ソードとシオはルシアの説明もあり、村の恩人として村人たちに歓迎のもと迎えられた。
そのときにルシアが村長の娘と聞いて驚きもしたが、その日は二人とも疲れきっており、すぐに眠りについた。
次の日はお祭り騒ぎで叩き起こされ、一日中村人から解放されないまま一日が終わった。
そして三日目の今朝、ソード達はこの村を発つことを決めた。
理由は昨日のお祭り騒ぎで村人たちがこぞって「この村に残れ」だの、「娘の婿に来い」だのと言い出し、このままでは本当に村の住人にされてしまうと思ったからだ。
実際に急ぎの用もあるのだが
「ギュパ、オイラはもう少しここで」
「うるせぇっ」
シオの頭にソードの拳が落ちると、村人たちがどっと笑う。
「ギュパ、ウケましたよ、ソードさん」
興奮気味に言うシオの頭にソードはもう一度拳を落とし、
「なにが“ウケた”だ、恥かいたっつうんだこう言うのはっ!」
ソードは赤面して村人たちを見回し、あることに気付く。
「そういえばルシアがいねぇな・・・村長さんも」
ソードはもう一度見回すが、やはり二人の姿はない。
「ギュパァ、村長さんがいないのは分かりますが、ルシアさんもいないというのは……?」
平気で失礼なことを言うシオの頭に本日三度目の拳が打ち下ろされる。
「いいのよ、ソード君、あの人まだあなた達のことを快く思ってないみたいだから……」
友好的な村人の中で唯一ソードとシオを快く迎え入れなかったのが村長だ。
「それにしても、あの人はともかくルシアはそろそろ来るはずなんだけど……」
村長夫人は頬に手を当てて首をかしげる
ソードは少し寂しげに笑い
「別れが言えないのは残念ですが、そろそろいきます」
「え~、もう少し待ちませんかぁ」
不満を言うシオの首根っこを掴んで持ち上げ、ソードは村人たちに少し頭を下げ踵を返す。
「ソードー、待ぁーってぇーっ」
背中越しに似聞こえた声にソードが振り向くと、村の斜面を駆け下りてくるルシアとそれを追いかけるチョビ髭を生やした痩せぎすの貧相な男が目に入る
「ルシアに……村長さん!?」
ソードはシオを放して声を上げる。
その間にもルシアと村長は走り続け、ざわめく村人を押しのけてルシアがソードの元に辿り着く。村長も少ししてくるが、二人共に息を荒らげている。
「ソード……あたし……も、連れてって」
ルシアは大きく方を上下させ、息も切れ切れに言う。
「いや、連れてけって言われてもな……」
ルシアの言葉にソードはさすがに当惑する。
「はい、これ」
村長夫人が突然ソードの手を取り何かが入った皮袋を無理やりに手渡す。
ずっしりと重いそれと村長婦人をソードは交互に見る。
「これ……は?」
「中を確かめてみて」
ソードの問いに村長夫人はにこりと笑みを浮かべ、促す。
ソードは言われるままに中を見ると、金貨が少なくとも二十数枚入っていた。
「たしか、村を救った礼金は受け取ったはず・・・これは一体?」
ソードは疑問を口にする、昨日、村人全員から集められた金がソードに礼金として支払われている。
「それは、少ないけど依頼料兼養育費よ」
村長夫人の言葉にソードはさらに混乱する。
「私からの依頼は娘……ルシアの夢を叶えてもらうこと、あなたならその術を知ってる筈よね」
「あたしね、マホウ使いになりたいんだよっ」
ルシアが元気よく言う。
「認めんぞっ」
突然会話に割り込んできたのはチョビ髭親父、もとい村長だ。
「こんなどこの馬の肉かも知れんような連中にワシとママの愛の結晶であるルシアを預けられるわけなかろう、何考えとるママ!?」
まくし立てる村長に婦人は一つため息をつき
「あなた、それを言うなら馬の骨でしょう、それに、恥ずかしいから外でママはやめてって……言ってんでしょうがぁっ!!」
村長夫人の見事なパンチに村長は数メートル吹き飛びノックアウトされる。
ソードを含めその場の全員がその様を唖然として見ていた
村長夫人は慌てて口元を隠して微笑み
「あら、お恥ずかしいところを……と、言うわけでルシアをお願いね」
村長夫人の言葉にソードは我を取り戻す
「いや、と、いうわけじゃなく……」
「がんばれよ、ルシアちゃん」
ソードの言葉を村人はなった言葉が遮る
「ルシアねーちゃん、お土産忘れないでねー」
「体に気をつけるんだよ」
「一流になれよー」
「帰ってきたらマホー教えてねー」
次々に村人たちがルシアに声をかける中、ソードはいやな汗をかいて目だけ動かして周囲の様子を窺うと、お祭り騒ぎをまた始めかねない程熱くなっている者もいれば、涙を流している者までいる。
「受けて……くれるわよね、この依頼」
村長夫人の言葉に、ソードはがっくりと肩を落とし
「わかりました、お受けします、でも、俺がするのはルシアが魔術を学ぶ場を見つけるまでの保護、ということで……」
「それで十分よ、娘をお願いね、ソード君」
ソードの提案に対し村長夫人は満足げに頷く。
「やれやれ、何でこうなっちまうんだか」
ソードは苦笑する
「それじゃ、行きましょうか、ソードさん」
「そうだな、行くぞ、ルシア」
ソードはシオに頷き、村に背を向ける
「それじゃ、行ってくるねー」
ルシアは言って村人たちに手を振り、歩き始めたソードとシオに続いた。
空は雲ひとつない青、一陣の追い風が三人の旅立ちを祝福する、そんな朝だった。
第一章的な部分が完結になります。
続きは……反応があまりないので多分載せませんw




