器用貧乏が知恵と暴力で戦うファンタジー
やっと状況を把握したルシアが今頃になって悲鳴を上げるが、ソードは止まらない。
2,3件屋根から屋根へと跳び、次の屋根へと飛び移ろうとしたとき
(遠いな……)
ソードはそう思うが躊躇せず跳ぶ。
風を切り宙を駆けるが途中で失速する
(届かない、っていうか……落ちるぅーーー!?)
ルシアもそれを悟り、表情が凍る。
しかし、ルシアは気付いていなかった、ソードの指で光を灯している翠玉に
「『烈風』!」
ソードの声と共に、強烈な追い風が吹き、三人を舞い上げて見事に次の屋根へと移ることに成功する。
ルシアは、ぐったりと強張っていた体から力を抜く。
「さて、ロストも回復したし、十分に距離もとっただろ、降りるぞ」
「へ?」
ソードの言葉にルシアはまた間の抜けた声を上げる
ソードは屋根を蹴って宙に身を躍らせる、地上までは少なく見積もっても7mはある。
落下感、来るべき衝撃にルシアはまた実を強張らせる
「『舞空』」
トパーズに灯る光と共にソードは魔術を発動する。
落下の衝撃は全くといっていいほどなかった。
重力操作、高等な技術を要する応用技だ。
「降ろすぞ」
ソードはぞんざいに告げて手を離す
「イッ……たぁー……もう少し丁寧に扱ってよぅ」
尻餅をついたルシアは立ち上がり服についた埃を払い落とす。
「そういえばシオちゃんは?」
ルシアが辺りを見回すと、シオがコブだらけの無残な姿で転がっているのが目に止まる、恐らく、屋根から屋根へ移るたびに屋根に頭をぶつけたのだろう。
「さて、状況のおさらいをしよう」
突然のソードの言葉にルシアは反応できなかったがソードはかまわず続ける。
「まず、この村は盗賊に占領されていて、村人は村で一番大きな家に捕らえられている……ここで提案なんだが俺を雇わないか?、今なら特価金貨15枚で手を打とう」
「ええっ、ただで手伝ってくんないの!?」
ルシアが声を上げる。
「アホか、何で俺がそんな銅貨一枚にもならねぇようなことせにゃならん」
「ギュパ、ソードさん、こんないたいけな少女から金を巻き上げようというんですか!」
またもやいつの間にか復活したシオが唾を撒き散らし声を荒らげる。
「これはビジネス……唾を飛ばすなっ、汚ねぇだろうがっ……つうかそんなに言うんならお前が手伝ってやればいいだろ、俺は逃げさせてもらう」
ソードは言って踵を返し歩き始める
「ケチー、バカー、アホー、べーだっ」
「ギュパー、鬼、悪魔、外道、鬼畜、万年貧乏、水虫、左巻きー」
「うるせぇっ、行くならさっさと行けぇ!」
あまりの言われようにソードは振り向いて怒鳴る。
「水虫魔人がおこったぁ」
「水虫うつされる前に逃げましょう」
ルシアとシオはソードに背を向けて駆けていく
「誰が水虫魔人だぁっ!!」
ソードは二人の背にもう一度怒声を浴びせ、一つため息をつく。
「……なんで俺の周りにはアホばっか集まるんだ……?、っつうか水虫魔人はねぇだろ……」
ソードはブツブツとぼやきながら村を歩いていくと、少し広い場所に出る。
そこでソードは立ち止まり
「……まあ、乗りかかった船だし、最後まで付き合ってやるか」
ソードは仕方ないといった風に言って、掌を少し離れた地面に向ける、その指で強い光を放っているのは紅玉だ。
程なくして掌の少し先の空中に大きな火の玉が現れる。
「『火球』っ」
火の玉は空を疾り地面に接触した瞬間凄まじい轟音を上げ爆発した。
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「あっれぇ、どーこ行ったかね、あのダンナは?」
村を一望できる高台で男が妙な形の双眼鏡を覗いたままで声を上げる。
「もしかして、見失ったとか言わないわよね、ハースト」
男の隣にいる女がさめた口調で言うと、ハーストと呼ばれた男は双眼鏡から目を離し
「ピィンポーン、さっすが冴えてるねぇ、シェラちゃん」
「ふざけたことを言ってると本気で殺すわよ」
シェラと呼ばれた女が鋭い視線を男に向ける
「おぉコワ……でもねぇ、こんな起伏が激しい上に、家が密集してちゃ見失いもするって……いくらこれが『遺産』の一つって言っても透視能力があるでなし……」
言い訳がましいことを言って男はまた双眼鏡を覗きこむ。
「また屋根の上でも走ってくれないかね、ズームで探してみるか……楽じゃないねぇ」
独り言をつぶやくハーストにシェラは苛立ちをあらわにする。
(私が機械音痴でなければ、こんないい加減なやつに任せはしないのに……)
「こちらの準備は整った、例の男は見つかったか?」
突然かけられた声にシェラが振り向くと、いつの間にかフードを被ったローブ姿の男が現れていた。
「ディムさん、もう少しゆっくりしてくださいよ、今探して……」
双眼鏡を覗いたまま喋っていたハーストは爆音ともにあがる火柱で言葉を中断して双眼鏡を下ろし
「……見つけました」
「の、ようだな……行け、黒目黒髪の男以外は殺して構わん」
ディムが何かに命令を下すと、林の中からいくつもの赤い光点が現れる
それらは一斉に無数の漆黒の獣となって林から跳び出し、村へと駆け下っていった。
「……さすがは稀代の召喚術士様だな」
ハーストが感嘆の声を漏らす
「世辞などいらん、行くぞ」
ディムは短く返し、歩き始める。
「歩きっスかぁ?……楽じゃないねぇ」
「黙ってさっさと歩きなさい」
情けない声を上げるハーストの背をシェラが押した。
その掛け合いにディムはフードの下で少し笑った。




